ショートショートの世界へ

現代の予言者





1999年。実に人騒がせな予言を残し、消えていったノストラダムスの大予言。

2000年になった今、あれだけ踊らされていた自分に反省し、今度はあまり時代とかけ離れていなければ、予言はより確実になるだろうとして、現代の予言者を世界各国から寄せ集め、再び本格的に予言を行おうと試みることにした。

「今のでいいと思うかね、ハイル。」
「完璧でございます、大統領。」
側近にいたハイルは頭を下げ、言った。
たった今、大統領は世界各国のTV放送で、予言者への呼びかけを伝えたところだ。
このあと、TVのない地域のためにラジオなど、あらゆる情報手段で呼びかけるつもりだ。
「かなりの実力を備えた者たちが集ってくれればいいのだが……。」


しかし、大統領の予想を大きく上回る数の予言者たちが指定した場所に集まってきた。
「ほう、これはすごい。成功したようだな。」
しかしハイルは大統領に耳打ちし、
「いえ、油断はなりません。謝礼金目当てに来るエセも多いと思われますので……」
「それではどうやって見分けるのだ。まさか一人一人を調べ上げる訳にもいくまい。数が多すぎる。」
「それについてはテストをしてみます。」
「なるほど、おもしろそうだな……。どういう形式でやるんだ?。」
「簡単な予言をさせて、的中したものを合格者にする、というものです。」

そしてそれはまもなく行われた。
舞台の上にハイルがマイクを持ち、団体に告げた。
「今からテストを開始する。内容は、『今から三日後、大統領はどうなるか』、だ。合格発表は四日後、この場所にて。では、各自、予言したらその内容をこの紙に……」
こうしてテストは始まった。

一日目、早速大量の紙が届いた。
「愛人をつくり、浮気をする」
「重い病にかかる」
「愛車爆発により、大損害」
と、ずいぶん勝手なことが書かれている。

「累計して、一番多かったのは何だ?。」
「『大統領が暗殺される』……ですね。」
「……なんてこった。私は殺されるのか……」
しかし、ハイルは冷静に言った。
「なあに、こういうのは後で無理やり真実にしようって輩ですよ。これを書いた予言者自身が殺し屋でも雇って暗殺って筋書きでしょうな。」
「どうする?」
「決まってます。こういう予言をしたものは即逮捕です。」


二日目。初日と変わらぬ量の紙が届く。
「階段で転び、右上腕骨折」
「家を新しく改装」
「オペラ劇を家族と鑑賞」


三日目。この日大統領は暗殺されず、一ヶ月前から秘密裏に予約していたオペラ劇への観賞へ。


四日目。合格者として残ったのは数十名だった。
「うむ、これだけ残ったか。これで実力のある予言者が全て揃ったわけだ。」
大統領は満足に浸り、笑顔で言った。
「それではここからが本当の予言だ。ぜひ、みんなに予言して欲しいのはただ一つ。『この世界はこれからどうなるのか』、だ。」
大統領がそういうと、ハイルが指示を仰いだ。
「それでは……はじめっ。」
予言者はそれぞれ独自の方法で予言を試みた。水晶玉に呪文を唱える者。瞑想にふける者……。

そして数時間後、予言した紙が揃った。
「これで全部です、大統領。」
ハイルはその紙を手渡した。それを読むたび、大統領の顔が険しくなる。
その内容はこうだった。


「ごみ問題、ついに限界を超える」
「オゾン層、半数以上失われる」
「温暖化、ついに深刻に」
「絶滅動物が世界の半分に」


大統領は、いつもと変わらぬため息をついた。

「問題は、山積みのようだな……」