ショートショートの世界へ

侵略計画





「おもしろい話を聞かせようか」

とある一家の父親が、暇を持て余していた息子にそう声をかけた
「それは作り話?」
「いや、実際にあった話だ」
「それなら、聞く」
息子はずずいと身を乗り出し、耳を傾けた

「今から数十年前、なんの脈絡も無く、異星人が地球に現れてきた」
「侵略しに?」
「そうだ。その異星人は、みるからに頭でっかちなだけで、貧弱な体つきだった。一目で知能型異星人だとわかったよ。そしてその異星人たちは、UFOから出てくると、我々に向かって大声で宣言し始めた。『我々は武器は持ってきてはいない。丸腰だ。使う必要がないからな。我々はこの指一本で地球人どもを殺すことができる。そして地球人どもを全滅させた後、この星はいただく』、とね」
「ずいぶんと自信満々だね」
「ああ。我々は恐れた。だが、どうしようもなかった。あまりに突然で、なんの対策もしてないんだからね」
「だろうね」
「すると、浮遊していたUFOから、無数の異星人が次々と出てきて、その場の人々の近くに散らばっていった。そして、その異星人は、どうやって地球人を殺そうとしたと思う?」
その問いに、息子は顎に手を当てて、考えてみた
「う〜ん……。手先から、ビームでも出して?」
「いや、ちがうね」
そして親父は軽く笑ってみせた
「その異星人は、地球人のおへそを手で押したのさ」
「は?」
「もちろん、押されただけで我々が死ぬわけがない。そしてこの行為が、我々を殺す方法だと理解した地球人たちは、彼らに逆襲を始めた」
「それで?」
「もちろん、勝ったさ」
「だろうね」

「そして、その異星人に勝利して、祝った日の夜。彼らを調べるため、科学者たちが全員集まった」
「なんでわざわざ?」
「だって彼らは、遠い星から来るという高度な文明でありながら、我々を殺す方法があんな原始的なことだった。どう考えても、不可解じゃないか」
「そういえば……」
「しかし、分からなかったんだね。どれだけ考えても」
「なんだ」
「でもそれから数ヶ月して、意外なことからその謎は解けたのさ」
「え?」
「あの事件から数ヶ月して、年に二回行われるロボット検査をしていた時のこと。そのあるロボットの記憶メモリを点検をした。それでやっと分かったんだ」
「それは監視ロボット?」
「いや、ただのロボットさ」



そのロボットはよくできていた
若い女性の形をしたロボットで、外見からは本当の人間と見分けがつかないほどだ
そのロボットは、楽しそうな表情をしていた
だが、性能はあまりよくなく、いくつかの簡単な言葉をしゃべるだけだった
しかし、それでいい。そのロボットは、町外れの遊園地の門のそばにただ立っているのが役目だったのだから
昼間は人が多くて出入りはにぎやかだった
だが、閉館間際の夜は静かになる
人の出入りもなくなって、そのロボットはただ立っているだけ

すると、そのロボットの前に、例の異星人が現れた
『我々は遠い星からやってきた。この星を支配するために、密かに地球を偵察している。言葉は衛星から受信して覚えた。今、こうしてお前の前にきたのは、より完璧な情報を得るためだ。そして近いうちに、この地球を支配する』
この日は、あの事件の三日前のことだった
すでに異星人は地球に侵入し、偵察を始めていたのだ

そして異星人の言葉に反応し、ロボットは言った
「遠いところから、ようこそ」
『これは予想外だ。我々の出現に、あまり驚いていないぞ。……まあいい、こいつを痛めつけよう。地球人の弱点はなんなのか、知っておかねばならない』
異星人は、刃物を取り出し、ロボットに斬りつけた。だが、ロボットは傷ひとつつかない
次に、ビーム銃を取り出して、ロボットの頭部に狙いを定め、撃った。だが、ロボットには効かなかった
『こ……ここまで強いとは。計算外だ。しかもこの地球人は、笑顔で『ありがとうございます』と言ってやがる。どうも、気味が悪くなってきた。だが、ここで退くわけにはいかない。地球人にも、必ず弱点はあるはずだ』
するとロボットは、ニコニコした表情をつくってみせた
「じっくり時間をかけて、楽しんでくださいね」



「こうして、三時間かけて、弱点を探したんだ」
「結局、見つからなかったの?」
その息子の質問に、親父は快活に笑って答えた
「見つけたさ」
「えっ?」
息子は焦り、そして聞いた
「なんだったの? 弱点は」

「その異星人は、ロボットの腹にある『電源ボタン』を押したのさ」