ショートショートの世界へ

金のなる木





果てしなく広がる宇宙
その中で、一つの宇宙船が地球に帰ろうとしていた
宇宙の中では、疲れた船員たちがいる
しかし、だれもがその顔には喜びに満ちあふれていた
一人の船員が手のひらの上にある小さな種を眺めてつぶやいた
「いやあ、今回はまったくいい収穫だったな」

この船員たちの目的は、適当に文明ある星を発見し、そこで自分たちの星にとって役立つ物質を譲り受け、それを我が星、地球に持ち帰ることだった
今度の星は非常に文明が高かったため、地球にいるみんなの期待は大きかった
そんな期待に満ちた目で送り出された船員たちは、その星からいくつかの種をもらうことができた
手に入ったのはその種だけ
しかし、これだけで充分だった

粘ったかいがあったというものだ。まったくあのロウ星人、すばらしい物をいくつも持っているくせに、ケチだからまったく譲る気がなかった
それならこっちもと、長期戦覚悟でその星で待ち続ける。そのかいあって、相手がようやく折れてこの種をいくつかよこして『早く去れ』と悔しそうに吐き捨てた
聞くと、この種は『金のなる木の種』だという
そうそう、こういう物さえくれれば、なんの文句もない
そして地球に帰って、みんなの期待に応えてやれるというものだ

宇宙船の中で、嬉しそうな笑い声が響いた
しばらくすると、あの懐かしい星、地球が見えてきた
船員たちは自分の席につくと、大気圏突入のための準備に取り掛かる
そして激しい振動、無事に着陸した
すると、待ちわびていた多くの人々がロケットの前にわらわらと集まってくる
その中の最長老が一歩前に出て、船員らに声をかけた
「ご苦労だったな」
「ええ。お久しぶりです」
「はは、さぞ疲れたことだろう」
ねぎらいのやりとりがしばらく続いた
そしてようやく、最長老は本題に入る
「……で、いいものは手に入ったのか?」
「はい。期待以上のものでしたよ」
と、船員の一人が手を開いて、小さな種をみんなに見せた
「なんだね、この種は?」
「『金のなる木の種』です」
その言葉に、みんなはどっと歓声をあげた
「『金のなる木』というと、あの神話に出てくるやつか?」
「ええ、お金を実らせる木です」
「それはすばらしい。……しかし、木ではお金を実らせるまで大きくなるのに、とんでもなく長い年月が必要になってしまうのでは……」
「その点はご心配なく。簡単な説明を聞いてきましたので」
「おお、そうか。では早く説明してくれ」
「はい。この『金のなる木』は、自然の木と同じ成長はいたしません。根から吸収するのは、水や栄養ではなく、我が星のお金です。つまり、地面に大穴を開け、そこにお金を入れて、その上に種を置いて埋めれば、あとは勝手に大きくなります。また、成長の速さは金の量に比例します。しかし、ニセ札といったものは栄養にはなりません。以上です」
「なるほど、簡単な説明だった。ではさっそくこのことを世界中に伝え、各場所で実行に移るとしよう」

数日後には世界中にその種のことが広められ、それぞれの場所で大量の金とともに埋められた
元は充分に取れるため、誰一人惜しむことなく、全財産をつぎ込んでいった
そして栄養となる金の量がとんでもない量だったためか、意外にその木の成長は早かった

さらに数日後
その木は立派に成長を遂げ、ついに葉のかわりに、黄金に輝くお金がびっしりと実っていた
さっそく人々は、その木に登って枝についているお金を次々とちぎり取る
しかし、その金を確認した人々は首をかしげ、複雑な表情をみせた
手元にある金の絵が、見たこともない絵だったのだ
「ちくしょう、あのロウ星人め。騙しやがったな」
あの時の船員たちも、このことに気づいて腹を立てた
その時だった
人々が木に実ったお金を全部ちぎり取った時、その木の幹の辺りから、機械的な声が流れてきた
『両替木をご利用いただき、ありがとうございます』
両替だと?  
そういえば、実った金の量は、埋めた金と同じくらいだ

ああくそ、そういうことだったのか。ただ育てるための説明しか聞いていなかった
しかし、もう遅い
おそらくロウ星でのお金だと思われるこれは、地球で使えるわけがない
しかも、地球のお金に変えようにも、金のなる木はもうない
ロウ星人に文句を言おうにも、ロケットの燃料代すらも、ないのだ