タイトルページへ


キャプテン・ウソップと黄金の日々 中編


作:アリマサ

そこはじっとりとした蒸し暑いジャングル

とてつもなく高い広葉樹に囲まれ、鳥の鳴き声が騒がしく飛び交っている

クルーゾーとクルツ、そして宗介の三人は、メリダ島の森林地帯に赴いていた

宗介とクルツは野戦服にジャングルブーツとプッシュ・ハット、軽めの各種装備にナイフ類という、アミーゴの時と同様のいでたちだった

だが、クルーゾーにかけては、どっしり重そうなキャンプ用のリュックを背負い、顔にはカモフラージュ用のペイントを塗りたくっていた。猛獣から身を守るためだろう

武器はそれほど数はなかったが、ごついナイフや小型の銃と揃えており、どうみても本格的な装備だった

「おぉー、気合入ってんなー」

「探検を甘く見るな。一歩入れば、ただちに猛獣の巣の中を駆け巡り、未開の民から侵入者として追い掛け回されるハメになり、過酷な崖を上らなければならなくなるだろう」

「……一応、ここはメリダ島の中だけどな」

だが、未開の民を除けば、結構ありうることだったりする。

なぜなら、ここ森林地帯は広すぎる

まだまだ人の手につけられていないところはたくさんあるのだ

「念を入れておくに越したことはないだろう」

「まあ、そーだな。……なんだか、今のクルーゾーを見ていると、東京に居る時のソースケに見えてしまうなあ……」

「それはどういう意味だ?」

ポツリと漏らした感想に、宗介が強めの口調で問いてきた

クルツはそれを無視し、クルーゾーに話し掛ける

「でよ、まずはどこに行くんだ?」

「ここだ」

と、地図に記されたポイントの一つを指さした

「まずは、ここが近いようだからな。地図によると、ここに赤い点がある。なにか重要な地点なのだろう」

「ぷっ」

その指さしたポイントを見て、思わずクルツが吹き出した

「……なんだ?」

「あ、いやいや。んじゃそこへ行こうか!」

「うむ」

最初の目標地点が決まり、方向が定まった

そして先頭を歩き出すクルーゾーの後ろで、クルツは密かにニヤけていた

さっきのクルーゾーが指した赤いマークの地点。

それは、さきほどクルツが書き足したところなのだ

(くっくっく。さっそく楽しめそうだぜ)

心の中で、悪魔の姿をしたクルツが、楽しそうに笑っていた



その地図には、最低限の地形しか書き込まれていないものの、基地にあったメリダ島の精巧な地図もあったので、それを照らし合わせていくことで、目標位置は分かっていた

だが、地形は分かるのだが、肝心の財宝の位置は記されていなかった

財宝のイラストもないし、ところどころに記された赤い丸以外には、特に目立ったしるしはない

そもそもこれが本当に財宝のありかを示した地図なのかすら、判明されてはいなかった

だが、行動しなければなにも始まらない。

クルーゾーは、探検のこの鉄則の言葉になぞり、とにかく行動していた

しかし、そこまでにたどり着くのは容易ではなかった

やはり広葉樹がジャングルのようにひしめきあい、視界は最悪な上に、流れの速い河など、とにかく障害が多かった

だが、演習場として使用していたことで慣れているのか、三人はどうにかそのポイント地点まで到達できた

「ここだな」

何度も地図に示された、ポイント付近の地形の特徴と、今立っている景色とを見合わせ、確認する

「そうだな。距離から考えて、ここだと思うぜ」

「だな。しかし……前々から思っていたのだが……」

クルーゾーは、その地図の、ある記述を読み返しては、首をかしげた

「このポイント印の横に書かれていることだが……」

そこには、まるで財宝のありかを教えてやるよとでも言いたげな、実に目立ったところに独特の短文が添えてあった

『ここにあるカメ岩に、そっと、優しく、恋人にでもするかのように熱い口づけを。さすれば、道を与えん』

「……どうも、意図が分からん」

クルーゾーは手を顎に当て、不審げに顔をしかめた

「なーに言ってんだよ。そのまんまじゃねえか。この通りにやれば、なんかきっとヒントが出てくるんだろうぜ。深く考えることねえって」

「だから妙なのだ。普通、財宝のありかを示す地図だとしたら、こんなそのままに読み取れる文体にするだろうか」

「え……」

「普通は、財宝のありかを示す地図なら、もっと抽象的な文体にする。例えば『暁に立つ影。その地を分かつ者は天使か悪魔か』といった具合にな。だが、これには暗号も何もかけていない。これでは、地図が第三者に手に渡ったときにあっさりと奪われるではないか。ウソップというやつは、なぜこんな単純な文体に……」

そう指摘されて、クルツの顔がこわばった

彼は、しまった……と、その手痛いミスに心の中で舌打ちした

それから慌てて、なんとか思いつく限りの釈明をあれこれと考える

「ひ……人それぞれじゃねえかなあ? ほら、あんま難しすぎる暗号文に書き換えて、自分で読めなかったら意味ねーじゃん。こいつは自分が読めさえすりゃいいと思ったんだよ、きっと。いや、絶対そーだって!」

「……キャプテン・ウソップというやつは、奇発というか、大雑把な性格なのだろうか」

「あ、ああ。そうさ。財宝を手にした者は変わり者が多いからな。そして大らかなんだろうぜ」

「……そうなのかもしれんな」

考えてみたら、ただ自分の学んできたことを基準に当てはめていただけだ

全員の探検家が暗号をかけなければならないという決まり事があるわけでもない

こっちの探検論を勝手にぶっかけているだけなのだ

そう思い、もうその考えは捨て、頭を切り替えることにした

「だとしたら、この記述どおりに実行せねばならんというわけか」

まず、記されているカメ岩というのを探してみた

「……あった」

なぜか茂みの無い一帯に、小さなカメの甲羅を象ったような岩があった。その岩のいたるところがでこぼこに突出している。そしてそれはカメの頭や手足のように見えた

「それは……」

と、宗介が言おうとする口を、クルツが後ろから塞いだ

「黙ってろ。なにも言うんじゃねえ」

「…………」

そのカメ岩とは、双子岩のように、自然が産み出した奇形である。

ミスリルはこれを奉る御神体として、そこに置いておくことにしていたのだ

就任してきたばかりのクルーゾーは、その存在を知らなかった

「たしかに、見まごうことなきカメの岩だな。……これに『そっと、優しく、恋人にでもするかのように熱い口づけを』せねばならんのか」

数秒、クルーゾーは苦悩していた。

岩とはいえ、こういった生物をかたどった対象物相手に、熱い接吻をせねばならないということが、どこか差恥心を煽っていた

後ろにいた宗介が、小声でクルツに囁いた

「……こういうことをさせて楽しいのか?」

「ゾクゾクするね。へっへっへ。ソースケには教えておいてやる。オレのベルトのこの部分をよく見てみろ」

「…………?」

言われて、その部位にじっと目を凝らす

すると、集中しなければ気づかないような小さな穴に、レンズが埋め込まれていた

「これは……」

「へへへ、ミスリル研究部から拝借してきた小型カメラさ。これでクルーゾーの恥ずかしい一瞬をしっかり撮り収めて、後でみんなに見せまくってやるんだよ」

「…………」

宗介は、この時初めて、別の意味でクルツに戦慄を覚えた



「これも財宝を見つけ出すためか……」

ついに腹を決めたようで、クルーゾーはカメ岩の顔の前に立った

「…………」

だが、それ以上、クルーゾーは動かなかった

「……どうしたんだよ?」

しびれを切らし、クルツが聞く

「いや……」

クルーゾーは、ぽっと頬を桜色に染め、困ったように言った

「恋人のようにと言われても、よく分からんのだ。俺はキスなどしたことないし、どんな風にすればいいのか……」

「…………」

クルツはその場で腹をかかえて笑いたくなったが、なんとか冷徹を保ち、それを堪えた

「しょ、しょうがねえなあ。オレが教えてやるよ」

「すまんな」

クルツは、クルーゾーの手をとって、それをカメの頭の頬にそわせた。

「こうして手でそえてよ、軽く口を突き出して、そっと優しく唇を押しつけるんだ」

「こ……こうか?」

クルーゾーは、その体勢のまま、目をつむり、カメの口にそっと自分の唇を重ねた

「おぉ、いい感じだぜ。そのまま、少しずつ口先をずらして、舌を出せ」

「あム……」

言われたように、そうしてみせた。これがカメでなく、人間であったら、たしかに恋人のような熱い接吻だったろう。

しかし、クルーゾーがしている相手は岩のカメなのだ

真剣に唇を重ねるクルーゾーと、それをなぜか次第に興奮して手助けするクルツの姿を、宗介はただ静かに見守っていた

「な、なかなか上手えじゃねえか。んで、どうだ? ファーストキッスの味は」

クルーゾーは、カメの口から離れ、顔をしかめた

「……俺のファーストキスの味は、土とザラザラした岩の表面の感触だ」

なかば空しそうにそう言って、口をぬぐった

ま、そりゃそうか。と、興奮が冷めてきたクルツは、ぽりぽりと頭をかく

しかし、クルーゾーの恥ずかしい一瞬を見れたことで、いくらか満足していた

「……おかしいな?」

カメ岩をじっとみつめて、クルーゾーが言った

「しっかり記述どおりに実行したというのに、なにも起きんぞ」

それはそうだろう。

だってそれは、クルツが書き足したのだから

「んー……当たり外れがあるってことかもしれねえな」

書いた本人だというのに、あくまで第三者のように、そう囁いた

「なるほど。暗号をかけないかわりに、わずかな当たりを引かねばたどりつけんということか。そういうカモフラージュ方法をとっているということだな」

クルツにとって都合のいいほうに解釈したクルーゾーは、すぐに地図を広げ、次のポイントを探した

「…………?」

さきほどの行為が無駄に終わったことを腹立てることもなく、すぐに次の目標へと切り替える中尉を見て、宗介はどことなく違和感を感じた

第一、中尉殿はこれほどまでにクルツの言うことを素直に聞き入れていただろうか?

「よし、次はここに行くとしよう」

クルーゾーは、次の赤丸地点を決め、出発した

その顔には、まるで沸いてくる好奇心が抑えられないような子供のような浮かれた表情をしていた

(ここまで中尉は、探検好きだったのか)

意外な発見をして、宗介は思わずうなった



次のポイントに到達するまでには、広大な沼が障害になった

しかし、難なく三人はその沼をも越えて、たどりついた

「さて。たどり着いたはいいが、また奇怪な文章が記載されてるな」

そのポイント印の横には、またもやクルツが書き加えた短文があった

『ここにて、牙むくアリゲーターを抱きしめ『おお、愛しき兄弟よ』と叫べ。さすれば道が』

「……まったく分からん。さきほどのもそうだが、これをしてなにになるというのだろう。これでなにかが作動するというなら、どういう仕組みなのかが皆目つかん」

改めて全体を見ると、他のポイントにも、いろいろと理解できない内容が書かれていた

「キャプテン・ウソップか……。これは挑戦意欲を削ごうという意図なのか。差恥を捨てる覚悟があるかを試しているんだろうか」

「近くに河があるぜ。たしかにワニがいそうなポイントだよなあ」

口元をニヤニヤと歪めながら、クルツが言った

「そうだな。とにかく捕獲せねば始まらん」



――アリゲーター

主に性格はおとなしく、ペット用として扱われることもある
体長は巨大なもので3Mもあるといわれている
強靭なアゴと、剥き出しの無数の突出した牙で、獲物を噛み付き離さない
一度噛みつかれたら、生命の危機に晒されることは間違いない



「……いたな」

泥で茶色に濁った河の、端のほうで、ワニが群れをなして泳いでいた

ジャングルの水の王者とも形容されるワニのその種類は、アリゲーターとみていいだろう

クロコダイルとの見分け方は、口を閉じたときに上の牙が見えていれば、それがアリゲーターなのだ

「ありゃあ、アリゲーターだな。あのうちの一匹をうまく捕らえてこねえとな」

と、挑発するように、クルツが言った

「そうだな」

腕の裾をまくり、ゆっくり膝元にまで、その河に入っていく

本当に捕獲する気らしい

下手すれば命を落としかねないが、それでもクルツはあひゃひゃと笑っていた

アリゲーターの群れは、泳いでいるといっても、一定の空間を周っているだけだ

おそらく今は水浴びか、遊んでいるだけだろう。

しばらく様子を見ていると、ふいにチャンスが巡ってきた。

その内の一匹が、やや群れから離れ気味に泳ぎだしたのだ

それに狙いを定めたらしく、クルーゾーは水音をたてないよう、静かに河に身を沈めた

水面をかきわけず、足だけで前方に移動する独特の泳ぎ方で、その一匹を、後ろから追いかけていく

この河においては、ワニのスピードはかなり速い部類に入る。

もし捕獲可能な位置に行く前に気づかれたら、逃げられるか、もしくは襲われてしまうだろう

だからこそ、より慎重にならざるをえなかった

そうっと、うまく背後にまわりこみ、ワニの口を抑えるよう、一気にクルーゾーから仕掛けた

それは一瞬の差だった

こっちに気づき、口を大きく開けようとしたが、それより先に抱えるようにして、口を閉じらせた

当然、ワニは暴れ出したが、先に口を押さえておけば、もうこっちのものだった

そう、噛みつかれることはない。だが、それでもワニは、尻尾を振り回し、巨大な体をゆすって、抵抗する

「ぐっ、この……」

力はワニの方が圧倒的に上だ。じたばたするそのワニの頭に向かって、クルーゾーはヒジ鉄を振り下ろした

そうして鼻の頭に衝撃をくらったワニは、動きが鈍くなり、おとなしくなった

「やれやれ、捕獲したぞ。これでいいんだろう」

抱きかかえるように、ずるずるとワニの体を引っ張り、陸に上げた

「だめだぜ、そんなんじゃあよ」

「なに?」

やっとの思いで捕獲したクルーゾーの行為を、クルツが頭を振って批判した

「どういうことだ。これはアリゲーターだろう。間違いなく捕獲してきたぞ」

「捕獲の仕方に問題あるんだよ。その地図に書いてあったろ? 『愛しい兄弟よ』ってな」

「……それが?」

「愛しい兄弟なのに、ヒジ鉄くらわすか? 愛がねえんだよ」

「……ッ!!」

その言葉に、驚愕を顔に出して全身をこわばらせた

そして自分のしたことに落胆を覚え、力の抜けたその腕からワニがずり落ちた

その通りだ。捕獲することを考えていて、そっちにまでは頭がまわっていなかった

クルーゾーは、自分のしでかした行為をとにかく恥じた

「…………」

そんなことにまで気を遣わなくてもいいと思うんだが。クルツの奴も容赦ないな。と、宗介は思った



「おい……おい……」

ぺちぺちと頬を叩かれて、少しずつだが意識が戻ってきた

「グル……?」

「おお、気がついたか」

頬を叩いていたのは、さきほどまで口をいきなり押さえてきて、おまけにヒジ鉄を強烈にくらわしてきた黒人だった

そのワニは、当然、怒りに任せて牙を剥き出しにした

黒人は一瞬ひるんだが、それでもあごまわりを抱え、よしよしと頭をなでてきた

「すまない、兄弟よ。愛のムチが少しばかりキツすぎたようだ。許してくれ」

問答無用で、そのワニは牙剥き出しのまま、その頭を噛み砕こうとした

「うおっ!」

寸でのところでその牙を避け、後ろに数歩後退した

「…………」

改めて、そのワニの脅威を目の前に見せ付けられ、クルーゾーはごくりと喉を鳴らした

だが、ここで引くわけにはいかない

「怒るのも無理はない。俺は理解の無い兄だったよ。だから……せめてここで叫ばせてくれ」

あくまで噛みつこうとするワニの口を、上から必死に押し抑えて、涙を流しつつ、天を仰いだ

「俺たちは……おお、愛しい兄弟ッ!」

言えた……!

これで、当たりなら、なにか起きるはずだ

クルーゾーは、その体勢のまま、なにかが起きるのを待ち続けた

「…………」

だが、その努力の甲斐も空しく、やはりなにも起こらなかった

「……ハズレ、か?」

それが分かると、なんだかとてつもなく、心に空しさが残った

それをずっと遠くから見ていたクルツは、聞こえない程度に、げひゃひゃひゃと身を折ってバカ笑いしていた

「中尉殿……」

宗介は同情しつつ、呆気にとられてなにも言うことができなかった



その後も、数点のポイントに赴いては、クルツの仕掛けたウソに翻弄されていた

たくさんあったポイントを半分近く消化しても、まだ当たりにはたどりつけなかった

それは当然だ

当たりといっても、クルツは当たりは用意していないし、本当に財宝があるかすら分かっていない

さすがのクルーゾーも、体力は限界近くにまで達していた

「……次はこう書かれているな。え……と」

『黄金のブタを捕らえることができれば、財宝への道は近くなるだろう』

「黄金のブタか……。どうも、生物に関することが多いな。だが、やらねばならんな。黄金のブタを探すか」

「……ん? それ、オレは書いてねえぞ?」

クルーゾーの言ったヒントを聞いて、クルツが一人、ぼそりとつぶやいた

「それを書いたのは俺だ」

宗介が、そうクルツに言った

「おっ、なんだよ、おめえもノリノリだったんじゃねえか」

「お前にあの時、促されていたからな。だが……」

宗介は、ぼろぼろになったクルーゾーの後姿を見て、眉根を寄せた

「いい加減、やり過ぎではないか? そろそろ悪戯も限度を過ぎてきているぞ」

「わーってるって。そろそろのはずなんだよ」

「……なにがだ?」

「ネタばらしさ。この近くに、ネタばらしのつもりで書き込んだポイントがあるはずだ。それをみりゃあ、これも終わりだ」

宗介は、そっとその地図をのぞきこんで、クルツの言っているポイントを読んでみた

『この崖から『あぽーん』とマヌケなポーズをとったまま、飛び落ちる。さすれば……』

「死ぬではないか」

地図の高低数字を見ると、その地形の崖はかなりの高さになっている。はっきり言って、危険すぎる

「だからよ、こんなのできるかーっ! ってキレるわけよ。そこで、オレたちが『実はウソでしたー』って言って、アハハと笑ってこの探検も終わりってことよ」

「……俺たちの命もそこで終わりだな」

「なーに言ってんの。今日はエイプリルフールなんだぜ。大丈夫大丈夫、はははは」

「…………」

なぜこの男は、こうとまで気楽に考えられるのか。



「見つからんな……黄金のブタ」

クルーゾーが、深い茂みをかきわけつつ、探してみるが、もちろん見つからない

それを見て、宗介は偽情報を書いてしまったことを後悔した

すると、クルツがクルーゾーの肩をぽんと叩いた

「なんだ? 見つかったのか?」

「いやいや。それより、ずいぶんと歩いていてきたなー。おやあ? ここなら、このポイントが近いじゃねえの。黄金のブタは後回しにして、こっちを先にやったほうが効率いいんじゃねえ?」

と、さきほどクルツが言っていたポイントを薦めてきた

「それもそうだな」

そして、そこでのヒントを読んでいく

ようやく、これですべてが終わるな。と、宗介は少し気が楽になった

するとクルツが宗介の方を振り向いて、ぐっと親指を立てる

「楽しめたぜ。オレは満足だ」

「そうか」

そんなことを目で語り合っていた

そして、それから切り出すべく、クルーゾーの方を向いた

「あぽーん!」

振り向いた先で、クルーゾーは鳥の構えのようなポーズを取って、崖から飛び降りた

「なにいッ!」

まったくの予想外だった

クルツと宗介は青ざめ、急いで崖から身を乗り出して、下を見下ろした

クルーゾーの体が、硬い岩に叩きつけられ、落下し、また叩きつけられて、力なく崖下まで転がり落ちていく

二人は、まだなにが起きたのかが把握できず、固まっていた

「やべえっ、命綱もなにもしてねえんだぞっ」

すぐさま二人は、崖用の装備を使って、崖をよじ下りて、クルーゾーの救出に向かった



数時間後

太陽も沈み、暗くなったこのジャングルで、クルーゾーを救出できたのは、奇跡に近かった

崖の場所から少し離れた、茂みの一帯で、クルーゾーは手当てを受けていた

擦り傷はあちこちにあり、骨を数本折ってはいたが、当たり所がよかったのか、深刻な怪我ではなかった

「助かった。二人がいなければ、危なかったな。感謝する」

包帯を巻いてもらってから、クルーゾーは二人に礼を述べた

「…………」

すると、宗介が離れたところで、ちょいちょいとクルツを呼び寄せた

「……なんだよ」

「妙だと思わないか? いくらなんでも、中尉殿のさっきからの行動はおかしい」

「…………」

クルツも、さっきの崖のことで、なんとなく感じていた

「たしかに、おかしいよな……」

いくら探検好きといっても、あんなヒントでは、疑問に思うはずだ。そしてそれを実行するはずはない

だが、クルーゾーは実行してみせた。まったく疑うことなく

「すっかり日も暮れてしまった……。早く、さきほどの黄金のブタとやらを探しに行こうか」

怪我の身にもかかわらず、無理して続けようとしている

それをクルツが慌てて止め、それから声の調子を落とした

「また明日にすりゃいいって。それよりも、なにか隠してるんだろ? クルーゾーさんよ」

「…………」

それを聞いて、クルーゾーは力が抜けたのか、その場に座り込んだ

「そうだな。さすがに夜遅いか。ここでテントを張って、寝るとするか」

「おい、オレは……」

「分かってる。話を聞きたいのだろう。だが、まずは火を焚こう。話はそれからだ」

たしかに、かなり寒くなってきた

クルーゾーをその場に残し、二人は焚き木を集め、それに火をともした