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キャプテン・ウソップと黄金の日々 後編


作:アリマサ

すっかり夜も更け、ひしめく緑の中で、焚き火だけが辺りを明るく照らした

パチパチと燃えさかる焚き火の炎

三人はその炎を囲むようにして、座っている

「……暖かいな」

「ああ……」

その炎が、冷え込んできた体温をわずかに上げてくれた

そしてクルーゾーは、その炎をじっと見つめていた

その揺らめく炎は、昔の空気を思い出させた

「俺がここに就任する前は、SAS連隊に属していたことは話したか?」

覚えている

宗介がクルーゾーと初めて対峙したとき――あの実験ともいえる模擬戦で、そういう発言をしていた

だが、知っているのはそれだけだ

「少しだけ」

そう答えておいた

「そうか。……そこでは、人的交流が活発なため、様々な人種が兵隊として活動していた。そこに俺は属していたわけだが――」

話しているうちに、クルーゾーの思考に、どんどんと鮮明にあの頃がよみがえってきた

そして……よみがえる記憶の中で、一人の男の姿が浮かび上がってくる

「そこには俺のパートナーともいえる、ジョイという男がいた」

人のいい笑い方をする、筋肉質の男――ジョイの姿が克明になった

「陽気な男だったよ。そいつには家族はいなかった。俺も同様だ。そして――なぜか気が合った」

クルーゾーの瞳は、炎を見ていなかった。その先にある、なにか遠いものを捉えていた

「ジョイは冒険好きでな。休日には、俺を無理矢理同行させて、いろいろな秘境へ行ったよ。『どうせ暇だろう』とか、勝手に決めつけてな。まあ、俺も家族を持たない身だったから、どっちかというと時間を持て余していたかもしれんな」

今思うと、それは彼なりに気をつかってたのかもしれないな、と思い、一人笑った

「だが、悪くない気分だった。まったく知識はなかったが、俺も傭兵で体を鍛えていたしな。そしていつしか……秘境の冒険が楽しく思えるようになっていた。ジョイと二人で切り抜ける荒道の数々。大変な場面にもいくらか出くわしたがな。でもな……そんな苦労も、神秘の瞬間に立ち会えると、吹っ飛ぶんだよ。ああ、全身で感動を受け止めている瞬間ってのがあってな。それがたまらないんだ」

その一瞬一瞬は、今でも覚えている。この胸の中に――

「そりゃ……どういう瞬間なんだ?」

クルツはそれを想像してみるが、どうも実感をつかめない

「いろいろだ。崖を上りきった山脈の上で見る夕陽とか、秘境での自然現象とかな。財宝を見つけたこともあったぞ。わずかだったがな」

「マジかよ?」

「ジョイには感謝している。あいつと探検することが、楽しくて仕方が無かったんだ。本当に……感謝しているよ」

「……そのジョイってやつ、今はどうしてんだ?」

重い沈黙――

揺らめく炎が、一瞬止まったように感じた

「死んだよ……」

クルーゾーは、ゆっくり目を伏せた

「ここに就任する前の、SASでの最後のミッションだった。ジョイは相変わらず、ミッション前に俺を誘ってきた。『よお、ベン。このミッション終わったら、次の休暇にまた探検に行こうぜ』ってな。そのとき、俺はまだ転属することを告げていなかった。その探検に付き合って、それから言おうと思ってたんだ」

「……でも、告げることができなかった……」

「ああ。そのミッション先で、思わぬトラップに引っ掛かってしまったらしい。最後は業火に焼かれて死んでいったそうだ。そのミッションは、俺は別班で別行動だったから、それを知ったのはミッションが終わってしばらくしてからだった」

「…………」

「涙は流さなかった。傭兵なら、いつでもそうなる運命にあるからな。代わりに、俺は誓ったよ。俺はこれからも探検を続けるってな。それは、やつのためでもあり、俺のためでもあったからだ。探検が楽しいと感じたこの気持ちは本当だからな」

「…………」

「それに……こうして探検していると、どうしてかな。ジョイがすぐ傍にいるように感じるんだ……。今でもあいつと探検しているような感覚になるんだよ……」

「…………」

クルーゾーは、笑っていた。安堵の笑みというべきか

柔らかい笑みを浮かべていた

「ふ……俺としたことが、どうかしてしまったようだ。こういう話を、まさか貴様らに話してしまうとはな」

焚き木の炎が弱くなっていた

「そろそろ寝たほうがいいな。明日も財宝探しで疲れるだろうからな」

クルーゾーは、話を終わらせると、ごろんと横になって、所持してきた毛布にくるまって、二人に背を向けた

その背中が、なんとももの悲しかった



「…………」

残された二人は、焚き木の残り火をずっと眺めていた

そして、感じ取っていた。

今までにクルーゾーが賭けていた思いが。財宝うんぬんよりも、それを目指すこと自体に、こだわりをもっていたのだ

「……クルツ」

宗介は、クルツを呼ぶと、その場所から少し離れたところに移動した

「……なんだよ」

宗介はゆっくりと言い出した

「俺たちのしている事は、非常にまずいと思うぞ」

その言葉は、クルツを容赦なく叩きつけた

しばしの沈黙があってから、

「……わーってるよっ!」

吐き捨てるように言い、口元をぎりっとゆがませた

「クルツ?」

そのクルツは、抑えがきかないかのように、両手の拳をぶるぶると震わせていた

「ちくしょうッ! ちくしょうッ!!」

すると、その震えた拳で、正面にあった岩を何度も何度も叩きつけた

むきだしの荒い岩面が、その手の皮を破り、擦り傷をつくり、血が滲む

だが、痛みを感じるよりも、腹立たしさをぶつけたい衝動で一杯だったようだ

「ちくしょう、あの野郎……。こういう時に限って、シリアスモードになりやがって!」

「…………」

不運というか、自業自得というか。

「それで、どうするんだ? もう本当のことを話すか?」

「いや、もういろいろとやらせちまったからな。今更、ウソでしたなんて言ったって、殺されるだけだ」

「たしかに、そうだが……」

「だったら、本当のことにすりゃいいんだ」

「……なに?」

「この探検を、本物にすんだよ。オレ達で本当の財宝探しにする」

「……できるのか?」

「おまえは、なにか財宝になりそうなモン持ってるか?」

「そんなもの持っていたら、この探検自体、矛盾が生じるぞ」

「……そりゃそうだよな……。しょうがねえ、そこんとこはオレがなんとかする」

「できるのか?」

「やるしかねえだろ」

「……分かった」

こういう時のクルツは、やるといったらやる男だ

「問題は、これからの探検だな。特にやっかいなのが、オレ達が付け足した偽の情報だ」

「『達』をつけるんだな……」

気難しい顔で、クルツの言葉を繰り返した

「今更文句たれるんじゃねえ。ここまでついてきたんだから、おめえだって共犯者だからな」

「…………」

「それで、まずは……ソースケが書いた黄金のブタか。調達できそうか?」

「できるわけなかろう。架空の生物のつもりで書いたのだぞ」

「だよな。それじゃあどうすれば……」

「…………」

「…………」

いきなり最初の段階で、大きな壁にぶつかってしまった

なんとかしないといけないのに、あまりに壁が高すぎて、なにもできないもどかしさ

次第に苛ついて、クルツが忌々しげに宗介の胸倉をつかんだ

「てめえ、なんで黄金のブタなんて書きやがったんだっ!」

その言葉に、さすがに宗介も苛立った

「貴様が言うなっ。大体、こんなくだらないことをだな……」

だが、今はその言い争いをしても時間の無駄だ

なんとかお互い掴みかかったその手を離し、息をつく

「……黄金のブタの件は、俺がなんとかしよう。クルツは、その他のポイントについてどうにかしろ」

「しょうがねえな。とにかく、今幸いにとクルーゾーの奴は眠っている。やつの荷物から地図を取って、書き換えたりしなくっちゃな」

「うむ。中尉が目覚める朝明けまでに、準備しておかねば」

「ああ。急ごうぜ。それに、どうもクルーゾーは、探検の知識がねえ」

「そうだな。今回も、クルツの言うことに従うことも多かった」

「多分、当時はジョイって奴についていくままに切り抜けてたんだろうぜ。逆に、それが今は助かるけどな」

「そうだな。まだ可能性はありそうだ」

「そういうわけだ。上手くいくよう、やってやろうぜ。そんじゃあな」

そう言って、クルツはクルーゾーの元へ戻り、地図を奪い、細工を始めた

宗介はそのまま離れ、やるべきことに取り掛かった

こうして二人は、いつの間にか当初の目的とはまったく反対のことを目指し、行動に移ったのだった



樹々の間から陽の光が差し込み、クルーゾーはゆっくりと眠気を振り払い、目を開いた

「朝か……」

むくりと起き上がると、なにやら辺りに違和感を感じた

「ん……どうかしたのか?」

なぜか宗介とクルツが、ぜえぜえと息をつき、寝転がっていた

「な……なんとか間に合った……」

「ギリギリだったな……」

そんな二人の会話にも、クルーゾーは「?」を頭の上に浮かべるだけだ

こいつら、なぜ昨日よりさらに泥にまみれている? いや、それよりギリギリとは?

「なんのことだ?」

二人にそう聞くと、二人はがばっと跳ね起きた

「い、いやいや。気にすんなって」

「そうか。では、そろそろ片付けて、出発と行こうか」

「あ、ああ。そうだな」

二人はここに戻ってきたばかりなので、ぐったりと憔悴していたが、それを顔に出すわけにもいかず、のろのろと出発の準備にかかった

「うぃーっす、ソースケ」

クルーゾーの後をふらふらとつける二人。徹夜で下準備をしていたので、眠気が振り払えない

「うむ……」

宗介もかなり疲労したようで、その返事に合わせるだけで精一杯だった

「よぉ、黄金のブタとやらは、なんとかできたのか?」

ぼそぼそと、前を走るクルーゾーには聞こえない程度の小声で聞いてみる

「まあ、なんとかな。塗りたくるのに、なかなかに苦労した」

「塗り……?」

すると、クルーゾーが前の方で、立ち止まっていた

なにか見つけたのだろうか?

「どうした、クルーゾー」

「しっ。あれを見てみろ」

身を伏せ、ゆっくりと手を伸ばし、指先で指し示した

その先には、なぜか体が金色にぴかぴかに光ったブタがとことこと歩いていた

「驚いたな。黄金のブタだぞ。こんなに早く見つかるとは……」

「…………」

クルツは、くるりと振り向いて、宗介に顔を寄せた

「どうやったんだ?」

「ざんざん歩き回って、俺達は意外と基地の近くまで来ていたのだ。気づいていたか?」

「ああ、気づいてた。それで、あれはどうしたんだよ」

「基地に戻って、倉庫に置いてあった金色の塗料ペンキを拝借してきた。そしてそれを、この付近のブタに全身に塗っておいた」

「……なるほどな」

クルーゾーは、すでにその茂みから飛び出していた

そしてさすがはSRT。その黄金のブタの首元をあっさり掴み、捕獲してみせた

「さて、捉えてみせたが……これもハズレか」

地図に書かれてた通りに捉えてみせても、なにも変化が起きない

またも空振りだったという事実に、クルーゾーの顔色に、わずかに落胆の色がみえた

「ちょっと待て」

突然クルツがそのブタに近寄り、耳を澄ませる

「なにか不思議な言葉が聞こえるぞ」

「……? ブタの鳴き声しか聞こえんぞ?」

「プギーーッ」

じたばたと、ブタが暴れて喚いている

「いや、このブタ、こう言ってるぜ。『くじけるな。財宝への道は少しずつ近づいている』ってな。オレにはそう聞こえるぜ」

「……お前には、ブタ語が理解できるのか?」

「なーに言ってんだ。なあ、ソースケもそう聞こえたろっ!」

「……え?」

振られて、宗介は戸惑う

だが、クルツの必死な目つきをみて、すぐに察した

「あ、ああ。俺にもそう聞こえたな」

「……軍曹までそう言うのか。俺には聞き取れなかったが、軍曹がそう言うなら、そうなのだろうな……」

そう言ってから、少しは報われてきたことが嬉しくなったのか、表情が和らいだ

「ん……?」

すると、なにか違和感を覚え、クルーゾーは自分の手のひらに目を落とす

そこには、黄金色の塗装がべったりとついていた

「これは……?」

(ペンキ塗りたてかよっ!)

(仕方ないだろう。捕獲して、塗ったのはついさっきなんだ)

「このニオイは……」

と、クルーゾーは手にこびりついたものに、鼻を近づけた

「危なーいっ」

いきなり背後から、クルツが背中を蹴りつけた

その不意打ちに、クルーゾーは、目の前の河に頭から落ちてしまった

「げほっ。な、なにを」

全身を河に浸したため、その手についていた黄金色の塗料ペンキも流れておちた

「……さっきのは一体?」

きれいになった手を、じっと見つめた

「大丈夫か。すまねえな、足がすべっちまって」

「いや……」

クルツの手を借り、河から這い上がった



「それでは、次のポイント目指すとしようか」

着替え終わったクルーゾーは、取り出した地図をばさりと広げた

「……クルツ。残りのポイント地点は、どうにかできたのか?」

「ばか言え。昨日さんざんまわって、まだ半分近くあるんだぞ。そんなに対処しきれるか」

「なに? ではどうするんだ」

「まあ、見てろ」

そう言うと、ライターを手に持ち、地図を眺めているクルーゾーに近づく

そして演技臭さの残る口ぶりで、クルーゾーの横から口を挟んだ

「なあ、クルーゾー。その地図、なにか違和感を感じねえか?」

「……そうか?」

「ああ、怪しいニオイがプンプンするぜ。貸してみな」

クルーゾーの言葉を待たず、強引にその地図を奪い取ると、その地図の下からライターの炎を当てた

「なにしてるッ!!」

ライターの炎の先が少し当たり、地図の中心に、わずかな焦げができた

クルーゾーはすぐさま地図を剥ぎ取り、ライターの炎から遠ざけた

「なにを考えているんだっ! 地図を燃やしてしまったら、探検の手がかりが無くなるだろうがっ」

これには宗介も呆れた

たしかに地図が無くなってしまえば探検しようもないが、あまりに発想が大胆すぎる

「焦んなよ。落ち着いて、その地図を見てみな」

「なに?」

すると、その地図の表面に、薄い色の文字が浮かび上がった

「これは……」

「あぶりだしだったんだな。それが本当の地図だったんだぜ」

「…………」

では、今までのことは……? と、心に少し引っ掛かったクルーゾーだったが

(凄いな、クルツ。そんな技法を持っていたのか)

(へっ、これが日本の技ってやつよ)

ぼそぼそと、宗介が褒め、クルツは居丈高になった

「……ミカンの匂いが……」

クルーゾーはその地図に鼻を当て、くんくんと嗅いでいた

「きっ、気のせいじゃねえの? それよりほら、なんて書いてあんだよ?」

「むう……」

とりあえず、その地図に新たに浮かび上がった文字を読んでみた

『大当たり! コレが本当の財宝の在り処のヒントだよ。これまでのは冗談でした。なははは』

「…………」

ここで、クルーゾーがその地図をぐしゃりと握り潰さなかったのは、探検家としてやるべきことが残っていたからだ

「どう? なんて書いてあったよ?」

あくまでとぼけるクルツに、クルーゾーはなんとか怒りを抑えつつ、答えた

「い、いや。真の財宝の隠し場所が記されてたな」

「うわーおぅ、そいつは最高じゃん! よおっしゃ、さっそく行こうぜ!」

「う、うむ……」

その浮かび上がった文字には、しっかりと矢印で位置を示してあった

さらには、ここを三メートル掘ればOK! と、かなり細部まで書かれている

クルーゾーは、そこに行き着くまで、何度も頭の中でキャプテン・ウソップという人物の首をぎりぎりと締め上げるイメージを思い描いていた



「着いたぜ。いよいよ、俺たちの求めていたものが見つかりそうだな」

「うむ」

「ああ」

その場所には、更に分かりやすく、旗が立てられていた。

これ以上ない目印として、パタパタと風に揺られている

「……掘ってみるか」

地図に書かれていた数字だと、クルーゾーの用意した装備だけで掘っても見つけられそうだった

三人は、しばらく掘る作業に集中した



ガリッ

「……お」

しばらく掘っていると、なにか硬いものを引っかいた感触があった

穴の奥底に、わずかに木の素材でできた一部がのぞいていた

それを丁寧に掘り出すと、それは木でできた箱だった。その形容たるや、間違いなく宝箱だった

「あった……」

「…………」

またも、宗介がクルツに寄る

「……この箱はどうしたんだ?」

「ほら、以前にオレたちで持ち出したアミーゴの宝箱さ。財宝は取り押さえられちまってるけど、箱そのものに値打ちはねえからよ。箱はそのへんに置き去りになっててよ。オレも基地に戻って、その箱を持ち出したんだ」

なるほど、どうりで見覚えがあると思った

「ついに、ここまできたか……」

クルーゾーは、感銘するものがあるらしく、そのまま無言で宝箱を見つめていた

「へへ……」

そのクルーゾーの様子を見て、クルツも、宗介もなんだか嬉しくなった

(頑張った甲斐があったな)

(いろいろな意味でな)

その感動の瞬間を味わうと、いよいよ中身の財宝とのご対面だ

クルーゾーは、何度もこういう場面に遭遇している

だが、それでもやはり手が震えてしまうものだ

鍵はかかっていなかった。ゆっくりと、慎重にその宝箱を開いた



中に入っていたのは、一冊の本だった

「…………」

クルーゾーの表情が凍った

その本の表紙で、裸の女性がポーズをとっていたからだ

「…………」

それでも、ゆっくりとそれを手にとり、パラパラとめくってみる

だが、やはりどのページも、裸の女性がこちらに微笑むような写真ばかりだった

ぐしゃっ

今度こそ、クルーゾーはその本を握り潰した

その本を見て、宗介もクルツを横目で睨んだ

「クルツ。どういうつもりだ?」

「い、いやほら。オレにとっての宝物っていやあ、あれくらいしか思いつかなくって……はは」

必死の弁明にも、ただ宗介はため息をついた

こいつは、どこまで……

「くそお、あれじゃダメだったか。でもまあ、あれならオレだってのは分かんねえし」

「……ウェーバー。どういうつもりだ」

とても低い声で、クルーゾーがクルツの名を呼んだ

「なっ! ……なに言ってんだよ。オレは関係ねえって……」

「ほう……では、これはどういうことかな?」

と、証拠を突きつける検事のように、そのエロ本の裏表紙を突き出した

その左下に『これはクルツ様のモノだぜ』と、マジックではっきり強調されていた

「し、しまった。みんなに貸し借りするときに、ちゃんと最後にオレの手元に戻ってくるようにって名前入れてたんだっけ。はは……」

「クルツ……」

もう、救いようの無い。とばかりに、宗介が頭を振った

「そうか。今までの財宝探しも、全部お前の演出だったわけだな、ウェーバー」

「遅えよ。……ってか、はは。ちょっと待てよ。その構えは、な、なんだよ」

クルーゾーは、殺気のオーラを纏った拳を前だめに構えていた。バックでゴゴゴと効果音が出ているようだ

「待ってください、中尉殿」

「なんだ、軍曹?」

ぎろりと睨みつける目つきで、そっちを振り向いた

それに少し怯みつつ、宗介は言った

「中尉は、なにを求めていたのですか。財宝の価値を求めていたのですか?」

「ぬ……」

「財宝が高価でないものだからといって、価値がないとは言えないのではないでしょうか。たとえ中の宝が少なかったとしても、その宝を手にしたことこそが、大切なのではないでしょうか」

「…………」

目に落ち着きが戻った。ぴたりと、クルーゾーから溢れていた殺気も消えていく

「軍曹……」

ゆっくりと、穏やかな足取りで、宗介に歩み寄った

「中尉殿……」

だが、宗介のそばまで来たとたん、くわっと目を見開き、血管に青スジが走った

「お前が言うなあっ!!」

その叫びとともに、怒りの拳を宗介の頬に殴りつけた

「ごあっ」

そのままきりもみし、後ろの樹まで吹き飛ばされ、頭をぶつけてそのまま宗介はくずおれた

「ひいっ」

「……特に、お前は許さんぞ、ウェーバー」

「はは……」

その全身から溢れる殺気のオーラは、とても尋常なものではなかった

それは空気を変え、触れたものを死に変えるような、禍々しさを纏っているようだった

「あっ、あのさあ、クルーゾーよお」

涙目になりながらも、必死に釈明の言葉を探し出す

「なんだ? 最後に言い残す言葉か?」

駄目だ。完全に殺す気だ

「え……」

「…………」

「え……エイプリルフールって今日なんだよなあ……」

「知らんな」

最後の切り札は、あっさりと言い捨てられた



それから数週間、二人の姿を見た者はいなかった







これは後に知ることだが

実は、さきほどクルーゾーが見つけたエロ本。その下に、もう一つクルツが入れておいたモノがあったのだ

それは、一枚の金貨だった

その金貨とは、以前アミーゴの探検を終えた後、パブのマスターから記念としていただいた、あの金貨だった

その金貨も、その宝箱に入っていたのだが、残念ながらその時一緒に発見されることはなかった

もし、それに気づいてくれていれば、また結末は変わっていたかもしれないが――



――その金貨は、今でもその宝箱の中で、ずっと光り輝いていた



あとがき

今回は、クルツとクルーゾーの、妙な一途さ(?)とやらを書いてみたいと思いまして

今回はちょっといつもと作風が変わってるような、結局そうでもないような(ぉ

ちなみに、キャプテンウソップの地図に財宝はありません
そういう設定でした

あと、ワ○ピースをちょっと使ってますが、特に意図はありません。ははは




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