ミニふるめた


mini025 〜 031

ミニふるめたへ

若菜の新任務

管理人:アリマサ
mini.025

「わたしが…それをやるんですか?」
その婦警・若菜陽子は署長の命令に、不満げな声で聞き返した

「そうだ。…なにか異論があるのかね?」
「お言葉ですが、署長。わたしはこの間、『ぽに男』という変質者を逮捕しました。その手柄に対し、そういう命令にはいささか納得がいきません」
「…たしかにあの痴漢を逮捕したのはいい。だがな…そのために無断で、しかも一般人をおとり捜査に使うなんて、言語道断だ! 普通、懲罰モンだぞ!」
「…………」
「これは、その罰だと思え。…まあ、たまには子供とふれあうのも悪くはないだろう。しっかりやれよ」
「……はい」

「ちっ、あの署長め…」
若菜は一人、ぶつぶつと文句をたれていた
その前には簡単なセットで作られたショーの舞台があった
そして若菜は、ぬいぐるみを着ている

そのぬいぐるみは、警視庁のマスコットキャラクター『ピーポくん』だ
頭にアンテナのような突起物、ゾウのように耳が大きく、大きな瞳
ぱっと見、そのデザインは、宇宙人にも見える
とにかく、この警視庁のマスコットキャラを着て、子供たちを楽しませる役をやらされることになってしまったのだ
「これならデスクワークのほうがまだなんぼかマシよ…」
ため息をつきつつも、そのかぶりものをかぶって、舞台裏のカーテンに移動した

デパートの屋上に設置されたそのショーの前に、いくらか子供たちが、親と一緒に集まってくる
そして時間になると、マイクを持ったお姉さんが舞台にあらわれ、明るい声で言い始めた
「はーい、みんなー。お待たせしましたー。それではこれからピーポくんのショーがはじまるよー」
子供たちは飛び跳ねたりして、動き回る。親たちは適当に拍手して迎える

「では、警察のアイドル、ピーポくんです。どおぞっ」
お姉さんが手招きすると、若菜が入ったピーポくんがショーに入ってきた
「どうもー、ピーポくんでーす」
子供たちに手を振り、一応自己紹介する

マイクのお姉さんがピーポくんにマイクを向け、質問をぶつけた
「ピーポくんは、どういった目標を持っているんですかー?」
「はい、えっとですね。みんなに愛されながら、みんなの安全を守っていきたいと思ってますー」
「わあ、立派ですねー」
すると、親や子供たちからまばらな拍手が送られる

「では、ここでゲストを呼んでいますー。ピーポくんのお友達です」
(え? なにそれ?)
若菜はまだ簡単な説明しか受けてなかったので、ゲストというイベントは知らなかった

「では、どうぞっ」
マイクのお姉さんがまた手招きすると、舞台の奥からずんぐりとしたぬいぐるみがあらわれた
犬のような、ねずみのような頭。蝶ネクタイに愛らしい瞳。ボン太くんだった
「ふもっふ〜」
次の瞬間、ピーポくんのハイキックがボン太くんの後頭部に炸裂した
ずびしぃっ!
登場してすぐに蹴りをくわされたボン太くんは、豪快に前のめりに倒れた
「えっ? あの…」
マイクのお姉さんもなにが起きたのか分からず、言葉につまる
子供たちやその親も、ポカンと眺めていた

ピーポくんは、そのボン太くんに詰め寄ると、蝶ネクタイを荒々しく掴み上げ、うれしそうにニヤリと笑った
「ふっ、まさかまたあなたと会えるなんてね。あなたのような強い方が相手なんて…楽しみだわっ」
「ふもふも? ふもーっ(な…なに言ってるんだ? あんたとは初めてだし、そもそも友達という設定だろっ)」
バイトのおじさんは驚きと戸惑いに駆られながらも、必死に釈明するが、ボン太くん語しか出ないので相手には伝わらなかった
「あの時は邪魔が入ったけど、今日こそはどっちが強いか…勝負よっ」
ピーポくんはチョップをボン太くんの首筋に叩きつける
「ふもっ(ぐぼわっ)」
衝撃で、ボン太くんの片膝ががくっと折れた。そこに、ピーポくんのかかと落とし
「ふもぅっ(がぶぉっ)」

「…ねえ、お母さん。なんでボン太くんがやられてるの? お友達じゃないの?」
子供たちもさすがにおろおろして、親たちに聞いてみるが、親もなんでこうなっているのか、まったく分からない
「…なんでなのかしら?」

それはマイクのお姉さんも同じで、とりあえず暴走したピーポくんを羽交い絞めした
「ちょっと、落ち着いてっ、ピーポくんっ。一体どうしたんですっ?」
そう言われ、若菜は動きを止めた。そして、もしや自分に間違いがあったのでは、と気まずくなった
(やばい…もしかして戦うショーじゃないのかしら…。としたら、まずい。また署長に怒られる…)
すると若菜はなんとかごまかすため、必死に弁明した
「あ…えっとね。…実は、そのボン太くんはニセモノよっ。わたしには分かるわっ。あなたの本当の正体は『ぽに男』の手先ねっ」
「ふもっ(ええっ、なにそれっ)」

「え…そうなの?」
子供たちは、じっと疑いの眼差しで見つめる
その背後で、親たちはざわざわと狼狽していた
「ちょっと…『ぽに男』って…この間逮捕されたあの変態?」
「そうそう、あの女性の敵のことよっ」
そのおばさんたちの会話を聞いて、子供たちが聞いてきた
「お母さん、ぽに男って悪いやつなのー?」
「そうよ、ぽに男はとっても悪いやつよ」
その言葉で、子供たちの態度は完全に変わった
「わー、ピーポくんっ、やっつけろぉーっ!」
「やっちまえーっ、やれやれー!!」
子供たちは一斉にそう言って、ピーポくんの応援を始めた

人に応援などされたことのない若菜は、その子供たちの声援に快感になった
「や…殺っちまえですって…。殺れ殺れですって? …ふっふっふ…まっかせなさーいっ!!」
子供の熱い声援に、すっかり若菜は殺る気になった

「さあ、この悪党めっ。このピーポくんが成敗してやるっ」
「ふぅ〜も、ふもっふ!(え…ええかげんにせえよっ、なんで俺が悪者になるんだっ。俺は悪党じゃないっ)」
「まあ、『ふっ、よくぞ見破ったな』ですって。ようやく正体をあらわしたわねっ」
「ふもっふぅ〜(なんでそうなるんじゃーっ)」
「わあ、ニセボン太くんが認めたぞー。いけー、ピーポくーん」

子供の応援の中、ピーポくんは腰についた警棒でボン太くんの胴体を叩き、続いて飛び膝蹴りを顎に叩き込み、さらにドロップキックをかまして…
バイトのおじさんは、なすすべもなくその攻撃のすべてに翻弄されていった
「わあー、強いぞピーポくんー」



「ほら、早く幼稚園に行く準備しなさい」
「えー、これ見てからー」
とある家庭で幼稚園児がTVから離れない様子を見て、母親はため息を漏らした
「まったく…早くしなさいよ」
「はーい」
元気に返事して、幼稚園児はまたTV画面に視線を戻した
そこには、ピーポくんが悪党をこらしめるシーンが流れていた
「いけー、ピーポくん」
新番組として始まった『それいけ、ピーポくん』は今日も子供に大人気だった

若菜さん、頑張ってますね



クルーゾーの挑戦

管理人:アリマサ
mini.026

トゥアハー・デ・ダナンにて、二人組の若い兵士が廊下を歩いていると、そこの床に一枚の紙きれが落ちているのを発見した

「落し物だろうか?」
「さあ、ただのゴミかも」
二人はその紙を拾い、確認のために、内容を確かめる
「うわ…なんだこれ」
そこには、アニメキャラの絵が描かれていた
しかも、オタク好きそうな、媚びたようなポーズをとっている

雑誌の切り抜きではないようだ
だれかが普通の紙に落書きとして描いたらしい
「おいおい、なんでこんなのがここにあるんだ?」
「なあ…ここって兵士たちしかいないんだぜ。なんか俺、怖いよ」
その一枚の紙に、恐れおののく二人の兵士
そんな彼らに、クルーゾーが近づいた

「おい、どうした?」
「あっ、クルーゾー中尉。…いえ、ちょっとそこでこんなものを発見しまして…」
と、その紙を広げてみせる
クルーゾーはちらりと見て、こほんと咳をした
「ふむ、わかった。では俺があずかっておこう」
そう言って、その紙を受け取った

「ところでだな、君たちは…」
「はい?」
声の調子が突然厳しくなり、二人に緊張が走る
「…この絵を見て、どう思った?」
「は?」
思いがけぬ質問に、二人はついすっとんきょうな声をあげてしまった
「いや、そのな…その絵を描いたやつに返すとき、感想も添えてやろうかと思ってな」
「中尉殿…お優しい…」
強いだけでなく、部下への心遣いまで欠かさないとは…と、いたく感銘する隊員たち

「まあ、ともかくどう思うんだ?」
「そうですね…あの、中尉殿。正直に言っていいですか?」
「ああ、遠慮なく言ってしまえ。大丈夫だ、君らの名前は伝えないでおくから」
「助かります。…じつは、こういうのはよく分からないんですが、なんか目が変だなあと…」
すると、もう一人の隊員も意見に加わった
「そうそう、んで腕のラインもなんかおかしいし…」
「なんかごっついんだよ。なんというか…」
「あれだよ。『萌えない』んだ」
「そうそう、そそられないよな。イマイチで…」
次々と飛び出る意見を、クルーゾーは口元をひくひくさせながら聞いていた

その後クルーゾーは一人、自室にこもると、その絵を机の上に置いて、悔し涙を流した
「ちくしょう、頑張って描いたのに…俺のミントたんをぉぉっ!!」

彼は最近、アニメへの想いが高ぶり、ついにキャラを自分の手で書こうと決心したのだ
完成すると、なんとなく絵の感想が聞きたくなったのだが、直接聞いてしまうと、クルーゾーの趣味がばれてしまう
そこでわざと絵を落し物に見せかけようと、目立つように床に置いてみたのだが…
期待に反した感想ばっかりであったことに、クルーゾーは落胆した

すると彼は近くにあったペンを取り、細かく線を修正していく
「こぉかっ? 腕のラインはもっと細くかあっ? 目のラインをもっと入れておけばいいのかあっ?」
鬼のような形相で何度も何度も修正を入れるが、いまいち納得がいかない
ちくしょおおぉぉっ、ミントたああぁぁんっ!!

涙がポタポタと垂れ、紙が濡れていく
彼は拳を強く握り締め、決心した
ミントたんっ! いつか萌えるような絵を描くからねええぇぇっ!!

頑張れ、クルーゾー



宗介、グルメの旅へ

管理人:アリマサ
mini.027

かなめのアパートの一室にて、またも宗介が晩飯をごちそうになっていた

「ね、どお?」
「うむ、うまい」
短い感想だが、かなめには最高の褒め言葉だ
かなめは少し頬を赤らめ、嬉しそうに口元をゆるめる
「そう? ありがと」

宗介が食べ終わると、かなめは食器を片付けて、皿を洗い始める
すると宗介は食卓で、感慨深く、つぶやいた
「それにしても、千鳥のご馳走といい、世の中には美味いものが数多くあるのだな」
「そうよ。なんだったら、また明日にでも、なにか食べに行こうか」
洗いながら、かなめが提案すると、宗介はこくんとうなずいた



翌日の昼

かなめは宗介を連れて、屋台のあちこちに行って、食い物を買っては二人で食べてみた
宗介はたこ焼きのパックを開けると、驚愕した表情になった
「なんて丸いんだ…ふむ、刺して食べるのか」
爪楊枝でぷすりと刺し、口に運ぶ
するとまた、くわっと目を見開き、驚きの表情になった
「大変だ、千鳥。中にタコが入ってるぞ」
「うん、だってたこ焼きだから」
「そうか…」
感動したようにそれを見つめると、またもパクパクと食っていく
そんな宗介を見て、かなめは笑いたくなった
(ぷぷ、こいつ見てるとホント、面白いなあ。新鮮な反応が、これまた…)

次はレストランに入り、かなめはタラスパを二人前、注文した
そしてしばらくして、タラコスパゲッティーがテーブルに置かれると、宗介はそれを凝視した
「ずいぶんと細い軟体に、赤い斑点が付着しているな…」
「気持ち悪い解説するんじゃないっ。ただの麺にタラコが混ざってるだけよ」
「なるほど」
そしてそれをフォークでからめ取り、口に運ぶ
「うまい。…む、千鳥。なんか辛くなってきたぞ」
「タラコは辛いのよ。まあ、ガマンしなさい」
「むう…」
なんだか子供のようにも見える

そんな宗介を見て、かなめは言った
「ね、おいしいでしょ。やっぱ干し肉だけじゃだめなのよ。こんなに美味しいのがいっぱいあるんだから」
「そうだな。俺の知らない味が、まだまだあるようだ」
それを聞いて、かなめはなにかいいことを思いついたらしく、身を乗り出した
「そうだ、ねえ。もうすぐ夏休みだし、その休みにさ、一緒にグルメの旅に行かない?」
「グルメの旅?」
「世界中のおいしい所を、食べて周ろうっていう旅行よ」
「ふむ、いいな。では、よろしく頼む」
「うん」

それから二人は休みの間、グルメツアーに申し込み、海外のあちこちのレストランに行っては、その美味さに感動した
「トレビアーン!!」
「デリシャス!!」
食べるたびに二人同時に叫んだりして、その旅行はすっかり満喫していた



夏休みが終わって数週間後

かなめのアパートの一室にて、宗介はかなめの手料理を、ご馳走になっていた
「ね、どお?」
「うむ。たしかにうまいが…。もう少し、塩加減を少なくした方がいいな。あと、しいて言うならもう少し酸味をきかせ、蒸しておいたほうが…」

かなめはチッと舌打ちして、小声でつぶやいた
「こいつ、すっかりグルメになりやがって…」

グルメ・デ・ソースケ



クルーゾーの怒り

15000獲得した作者さんのリクエスト
mini.028

クルーゾーは、ミスリルの兵士たちを引き連れて、ある男を追い詰めていた

その男とは、テログループの一人だった

ミスリルの襲撃によって、そのグループはあっという間に壊滅できたのだが、今追いかけている男だけがうまく逃げ延びたというわけだ
その男の位置情報を掴んだミスリルは、辺境の島の森奥深くまで男を追い詰めることに成功したのだ

「こちらウルズ1、状況はどうだ?」
クルーゾーが、隊員たちに無線で聞く
「こちらウルズ9。標的はアジトらしき所に逃げ込んだ。だが、熱反応には武器らしきものはないようだ」
「そうか、ではそこで待機しろ。すぐに行く」
「了解」
クルーゾーは無線を切ると、その位置まで素早く移動する

するとそこでは、一つのテントのまわりで、ミスリル兵士たちが取り囲んでいた
「追い詰めたようだな」
「はっ、クルーゾー中尉。気をつけてください。なにやら不穏な動きが……」
「なに? 武器は持っていないんだろ?」
「ええ、ありとあらゆる検査では。ですが、テントの中で、不気味な音がするのです。衣ずれのような……」
「…………?」

たしかに、テント越しにうっすらと見える影は、せわしく動き回っている
だがそれは、どうみてもなにかに着替えているようにしか見えなかった

しばらく兵士たちが身構えていると、その男はついに観念したかのように、そろそろとテントから出てきた
だが、その男の格好を見るなり、兵士たちは驚愕した
その男は武器はまったく持っていなかったが、その服装はビラビラとした生地に、胸に大きなリボン
頭は青色に染めており、その上に耳のような突起物をしなっと垂らせている

隊員たちはこれが一体なんなのか分からなかったが、クルーゾーだけは分かる
これは、ギャラ○シーエ○ジェルの「ミント」のコスプレだった

「貴様、なんのつもりだ!」
と、一斉に取り囲んでいた隊員たちが銃を男に向ける
「降参だ。……覚悟はできている。だからせめて、俺の趣味の格好のまま死なせてくれ……」
この男には、コスプレ趣味があったのだ

「……俺たちは捕獲にきたんだ。抹殺ではない」
クルーゾーがそう言うと、隊員たちみんなを下がらせた
「クルーゾー中尉?」
「みんなは基地に戻り、作戦終了の諸手続きをしておいてくれ。こいつの捕獲は私一人で充分だ」
「しかし……」
「大丈夫だ。いいから早く行って来い」
「はっ」
隊員たちはクルーゾーに敬礼すると、そのテントを後にして、基地へと戻っていった

ミントのコスプレをした男と、クルーゾーの二人だけになると、クルーゾーはゆっくりと口にした
「俺は……ミントたんのファンだ」
その言葉に、男の顔が明るくなる
「な……なにっ。同士なのか? ああ、よかった。それに、捕獲だけだったとは……。てっきり痛い目に合うものかと」

ほっと胸をなで下ろす男にクルーゾーが歩み寄ると、その胸に掌底を叩き込んだ
ずしんっ!
男は後方に、体ごと吹っ飛ばされた
「ぐあっ……な、なにを?」

胸を押さえ、顔を上げると、男は顔を引きつらせた
クルーゾーの顔が、恐ろしい形相をしているのだ
「貴様、よくも俺の前でそんな格好ができたものだな……」
「……え?」
するとクルーゾーはぎりぎりと口を歪め、憎々しい口調でつぶやいた
「なんだ、その耳は。それでミントたんのつもりかああぁぁっ!!
蹴りが胴体に叩き込まれる
「があっ…」
腹を押さえ、苦しみのあまり転がる男
だがクルーゾーは容赦なく追撃していく

「なによりも許せないことがある……」
クルーゾーはそう言って、拳を深く落とし、気を溜めていく
「待っ…」
せめてスネ毛ぐらい剃れえええぇぇっ!!
最大の攻撃がその男に叩き込まれた



その男はメリダ島に収容された
だが、その男の姿は見るも凄惨なものになっていた

思わず、テッサがクルーゾーに注意する
「クルーゾーさん、やりすぎです」
「彼は…ある名誉をひどい方法で汚しました。私なりに、その分の鉄槌を下したまでです」
「そ…そうなのですか?」
「ええ……」
クルーゾーは窓の外を、ふっと遠い目で眺めた

そりゃ怒るわな



クルツのナンパ

管理人:アリマサ
mini.029

クルツは休暇をもらうと、さっそく東京へ行った

宗介やかなめのところに遊びにいこうというわけではない
彼はこの休暇のうちに、ナンパして楽しもうと考えていたのだった

「へへ、さあてと、さっそくかわいコちゃんをゲットしようっと」
クルツはナンパの場所を、人の多い新宿に選んだ
「よし、まずはあの子からいくか」

交差点の信号を渡ろうとする女子生徒に、横から話しかけた
「やあキミ、かわいいねえ。どぉ、おいしい行きつけの店知ってるんだ」
するとその女子生徒は、あからさまに嫌な顔をした
「な…なによアンタ。なれなれしいわね」
「まあまあ、そうつっかからないで。オレ、かわいい子を見るとほっとけないんだ」
「かわいい…? えと…」
「キミ、名前を聞かせてくれないかな」
「あたしは…稲葉…瑞樹」
とろんと目をうるませ、瑞樹は答えた
(よく見ると……けっこうイケメンじゃない……)
「そっ、ミズキちゃんね。んじゃさっそくメシ食いに行こうか」
クルツは歯をキラッと輝かせて、瑞樹の腕を取った
「うん…」



クルツはひどく後悔した

オレは女にはあまりこだわりはしない
だが…ここまで自己主張の激しい女がいるとは……
疲れた…ひどく疲れた
彼は瑞樹に思うように振り回され、余分に持ってきていた金も底をついた

…ナンパしといて悪いけど、逃げよう

クルツはそう決心すると、瑞樹が高そうな洋服を物色している隙に、彼は買わされた大量の買い物類を横において、人ごみの多い大通りに逃げ込んだ
そのビル陰に隠れると、クルツはひと息ついた

「ふう、やれやれ。悪いことしちまったが、まああんだけ買ってやったんだ。許せ」
そうつぶやいて、さらに遠くに離れようとすると…
「お待たせ、クルツくん」
「のわっ!」
狭いビルの裏通りから、瑞樹が大量の買い物袋を引っさげて、あらわれてきた
(な…なぜここが?)
「さ、次行こっか」
「あ…ああ」

強引に連れられた先は、博物館だった
「博物館って…味気ねえなあ…」
そこは貴重な昔の金属類・文化財が展示されていた
瑞樹はその奥にある金ピカの王冠を指さし、うるうる目でねだった
「ね、これ欲し〜い」
「ムチャ言うなよ。これ、国家財産だぜ?」
「アタシに似合いそう。んでクルツくんはアタシに一生仕える王子様なのよ」
まったく聞いていない

(やっぱこれ以上つきあってらんねーや…)
その王冠に見とれている隙に、クルツはまたもそこから抜け出し、大通りに出た
そこから走って走って、とにかく走りまくる
(もうイヤだ。あの女、怖えよ)
その場所から数キロ離れたところまで走ると、今度は完全に気配を消して、呼吸を整える

「はぁ、つ…疲れた…。場所を変えて、また別のコを引っかけよ」
そうして気分新たに歩きはじめると、だれかがクルツの腕をぎゅっと握ってきた
「へ?」
「ん、もぉ。クルツくんったら足速いんだからぁ〜」
稲葉瑞樹は、はぁはぁと息をつき、顔を上げてこっちを見ると、にっこりと微笑んだ
(…完全に気配も消してたはずなのに…)
泣きそうになったクルツをよそに、さらに瑞樹は腕をひっぱる
「さ、次行きましょ」



数日後、メリダ島にて

「つーわけで、ありゃ苦労したよ」
「ふーん……」
クルツの愚痴に、マオは大して気にもとめた様子もなく、淡々と書類仕事を続けている
「あの、姐さん。もうちっと反応してくれても……」
「でも、一応デートはできたわけでしょ? よかったじゃない」
「どっ、どこがだよ! 別れたその次の日もまた次の日も、いきなりオレの前にあらわれるんだ。人ごみにまぎれて逃げても見つけられるんだよ。よーやく撒いてここに戻ってきたんだよ」
「そ、ご苦労さん」
「…姐さん、冷たいなあ。別にオレがデートしたからってヤキモチやかなくても……」
「ばーか」
「……とにかく、もう東京には行かねえ。ホント、怖かったよ」
そうぶつぶつ言って、クルツはその部屋を出て、自室に戻った

「はぁ。やっぱここが落ち着くねえ」
クルツが自室のベッドに座ってひと息ついてると、突然電話が鳴りだした

ジリリリリ ジリリリリ

「はい?」
『あ、クルツ君。あたしよあたし』
それはまぎれもなく、稲葉瑞樹の声だった
「なっ…なんでここの電話番号を知ってんだよ? 秘密回線だぜ?」
『ふふ……アタシからは逃げられないわよ。……永遠にね』
助けてえええぇぇっ!!

後日、クルツは姿をくらましたとか

女遊びもほどほどに



宗介、風邪をひく

作:アリマサ
mini.030

神楽坂恵理先生は、教卓につくなり、ニコニコ顔で生徒一同にこう告げた
「えー、今日、相良くんは風邪を引いたので、欠席だそうです」

それが告げられるやいなや、教室内はパニックに陥った
「あいつが風邪だと? 信じられん……」
「相良くんが風邪になるわけないわ!」
「なにかの間違いに決まっている! だって○○はカゼをひかないはずだ!」
それを後ろの席で聞いていた千鳥かなめは、一汗流しつつ、つぶやいた
「えらい言われようね……」



放課後

ホームルームが終わったとたん、クラスのみんながかなめにかけよった
「な……なに?」
小野寺を筆頭に、みんな好奇心の目でこう言った
「なあなあ、千鳥は相良の家にお見舞いに行くんだろ? 俺も行っていいか。……うん、心配なんだ」
「あたしも行きたい! ……うん、だって心配だし」
だがその顔は、『宗介の風邪を引いている姿を見てみたい』と語っていた
(こ……こいつら)

「……大体、なんであたしがお見舞いに行くって決まってんのよ」
「え? 千鳥さん、行かないの?」
「え……まあ、行くけどさ……」
「よかった。相良くんの家って、あたし知らないし」
「ああ、そうね。……じゃあ行きますか」
わあっと、一同が喜んだ。まるで楽しいアトラクションにでも行くみたいに

数分後、相良のアパートの前に、かなめたち一同がやってきた
「ここかあ。よーし、入ろうぜ」
「あ、ちょっと待って」
そう言って、かなめは携帯を取り出し、ダイヤルをプッシュする
『……あ、ソースケ? 今、あんたの家の前まで来てるんだけどさ。うん、だから解除法を教えてよ』
『……了解した』
風邪のため、声がかすれているが、一応無事なようだ

するとかなめは携帯片手に、ドアの横についたピアノ線を慎重に外していく
それを見ていた一同は、なんとなく数歩下がった
「……なあ、千鳥。なにやってんだ?」
「ああ、あいつが仕掛けた侵入者用のトラップを解除してんのよ。……にしても、毎回毎回よく変えるわねー。お、なるほど、今度はこういう仕掛けか……」
そう言って、携帯で指示をもらいながら、ハサミで次々とコードを切断していく千鳥の姿を、一同はなんだかやるせない気持ちで、見守っていた
(……いろいろ大変なんだなー)
(カナちゃん、大変だろうけど、幸せにね)

さらに数分後、ようやく罠を全部解除し終えたらしく、かなめは汗をぬぐって立ち上がった
「さ、もう入ってもいいわよ」
小野寺がドアに手をかけ、なんとなく慎重に入る
「お邪魔するぜ」
わらわらと、クラスの一同が部屋に入って、中を見回す
期待と裏腹に、TVどころか、タンスもない殺風景な部屋だった
だがそれよりも、ベッドがあるのだが、その上には誰もいなかった

「……おい、相良の奴がいねえぞ」
きょろきょろと見回すが、やはりどこにもいない
「……ここだ」
ベッドのほうから、宗介の声がした
すると、ベッドの下からもそもそと、苦しそうに宗介が這い出てきた
「……なにやってんだ、お前は」
「む? いつものように寝ていただけだが」
「いや、なんでベッドの下に?」
「いつ侵入者が襲ってくるか分からん。その警戒のためだ」
ぜいぜいと苦しそうに、肩で息をしながらそう言った
「……ったく、しょうがねえな。今日はみんなで見張っててやるから、安心してベッドの上で寝てろよ」
「む? しかし……」
「いいから寝てなさいよ」
かなめが濡れタオルを宗介のおでこにのせて、布団をかけた
「ふむ。すまない」
素直にそう言って、ベッドに身を沈めた

すると、ガスの臭いと不審な音を感じ取り、宗介はベッドから飛び出した
「はいはい、大丈夫よ。クラスの女子がお雑煮つくってくれてるだけだから」
バシッ
と、かなめはハリセンではたいて、宗介を止めた
「ちょっと、ダメだよカナちゃん。病人なんだから、ハリセンは禁止!」
と、恭子がかなめからハリセンを取り上げた
『ちえっ』と言うかなめの横で、宗介は床で沈黙したまま動かない
仕方なく男子生徒が彼をまたベッドに戻した

そして、男子が替えの濡れタオルをしぼる音に、またも反応し、飛び出す宗介
「だからおとなしくしてろっつーの」
ごきゅ
かなめのエルボーが宗介の顔面に炸裂し、またも沈黙した
「カナちゃん……」
「あ……ごめん、ついいつものクセで……」
かなめは『てへっ』と舌を出してみせたが、誰も『はっは』と笑えない
ベッドで宗介がビクンビクンと痙攣するだけだった

雑煮が出来上がると、かなめは優しく宗介の身を起こしてあげる
「ほら、大丈夫?」
「おい、氷買ってきたからよ」

(……みんな、やけに優しいな。どうやらクルツの言ったとおり、病人は甘えることができるらしいな)
「……頼みがあるのだが」
「……なによ」
「雑煮を食べさせてくれないだろうか。どうも体をうまく動かせないのだ」
かすれた声で、そう頼んだ
「なら、カナちゃん食べさせてあげて」
「なんでアタシがっ!」
恭子の提案に、激しく反応するかなめだったが、みんなの後押しには逆らえなかった
「ったく……ほら」
レンゲですくい、雑煮を宗介の口に運ぶ
「熱い。……口で冷ましてくれ」
「……あんた、やけに甘えてない?」
レンゲをへし折りそうなほどに拳に力を入れ、わなわなとふるわせる
「い……いや、だめならいいんだ」
「……別に、いいけどさ」
と、どさどさと雑煮を口に詰め込んでいく
「冷ましてくれと……あ、熱い熱い」
本気で悶える宗介の姿を、まわりのみんなは暖かい目で見送っていた

数分後、外で『チリ紙交換いかがっすかー』という騒がしい声に過敏に反応した宗介は
「テロの襲撃だっ。伏せろ」
叫ぶなり、素早く手榴弾を取り出し、窓の外に向かって投げようとした
が、熱のせいでくらっと目がくらみ、力なく放たれた手榴弾は、近くのクラスたちの傍をころころと転がった
「うわああっ」
ドオオオオオォォン

もうもうと立ち込める煙の中、力なくみんな倒れている
唯一宗介だけは首をコキコキと鳴らし、
「うむ。一汗かいたせいか、だいぶ体調が良くなったようだ」

薄れた意識の中、クラスたちは
「このヤロー……」
とだけつぶやいて、ばったり倒れた

おとなしく寝てろよ



教官マオの手帳

作:アリマサ
mini.031

トゥアハー・デ・ダナンにて、テッサ大佐がひとつの報告に、ため息をついた

「最近、新兵の数が少ないですね」
そのつぶやきに、副長のマデューカス中佐が意見を述べた
「……というより、訓練時点での脱落が多いのです。最近の兵士は耐えるということを知らないようですな」
と、厳しく若者たちを批判した

テッサは目の前のモニターを眺め、データを見比べる
「ええと、新兵訓練の教官は誰が務めてるんでしたっけ」
「最近は、マオ曹長になっています。訓練方針は一切彼女に任せています」
「そうですか。……その彼女が厳しすぎるのではないでしょうか」
「……ですが、その訓練をくぐり抜けた兵士は、優れています。特に、精神面において」
「量より質、ということですね」
「はい。ミスリルは最先端をゆく部隊です。兵士は肉体的、精神面において優秀であるべきかと」
「わかりました。では、このままにしておきましょうか」
「それがいいでしょう」



クルツ・ウェーバーが食堂へ行こうとすると、向こうからマオが歩いてきた
「よっ、姐さん。ご苦労様。どうだい、今年の新人は?」
訓練の指導を終えたばかりで、マオは黒のタンクトップが汗まみれだった

マオは不満な顔をして、首を軽く横に振ってみせた
「今年もだめね。『もうやめてください』とか泣き出しちゃってさ。大の男が情けないったら……」
「おいおい、マジかよ? 今年は『デルタ』や『SWAT』出身っつー、優秀な人材がわんさか来たって話だけど」
「確かに技術はずば抜けてるわ。それは認める。……だけどね、精神面が今ひとつってとこね」
「厳しいねえ、姐さんは。ところでどういう訓練方式だい?」
「別に。限界ギリギリまで肉体を酷使させた上で、疲れたところに叱責罵倒を浴びせかけてやるだけよ」
と、ポケットからひとつのメモ帳を取り出し、それをポンと手渡した
「なんだこりゃ? ……『ののしり手帳』? 姐さんこんなもの用意してんのか」
「そうよ。んでそこに書いてあるのを叫んでやったら、とたんに泣き出しちゃってさ」
そう言って、マオは『くっくっく』と悪魔的な薄ら笑いを浮かべた
「……中、読んでみていいか?」
「いいよー」



「…………うっ」
クルツは思わず、一筋の涙をこぼしてしまい、すぐさまそれを手でぬぐって隠した
だが場所が食堂の前だったので、近くにいた兵士たちがそれに気づき、がやがやと騒ぎ出した
「おっ、おいっ、みんな大変だ! クルツが泣いているぞぉっ!!」
その声で、一斉に兵士たちがクルツの傍に集まった
だがそんなことにも気づかず、クルツはただブルブルと震え、必死に涙をぬぐっている
「っく……こんな……男がこんなこと言われちゃたまんねぇよ……」
力なくメモ帳を落とす

「あの陽気なだけがとりえのクルツが泣くとは……一体なにが書かれて?」
と、さりげなく酷いことを言って、まわりの兵士たちもそのメモ帳を覗き込んだ

「うっ、うあああーっ、やめてくれぇーっ!」
メモを覗いた兵士たちはたちまち頭をかかえ、半狂乱になって、そこらをのたうちまわった
「ひっ、ひでえよ……。こんなの……あんまりだよ」
「……あんたら、仮にもミスリル兵士でしょーが。ったく、しっかりしなさいよ」
タバコをぷかーっと吸いながら、マオがメモ帳をポケットにしまいなおした

「そうだ。その程度で動揺するなど、精神がたるんどる」
と、横にいたクルーゾーが、泣き崩れていく兵士たちにどやしつけた
「クルーゾー中尉。でも……でも、男としてこれは……」
「未熟者め。心・技・体すべてを徹底的に鍛えんからだ」
すると、マオがニヤリと笑って、クルーゾーに向かって、挑発的な態度を取ってみせた
「んふふー、実はあんたには別のメモを用意してあんのよ。これには耐えれるかしら?」
その挑発に、クルーゾーは鼻で笑ってやった
「ふん、それは俺に対する挑戦か? いいだろう。だが、俺にはどんな下卑罵倒も通じんぞ」
「上等。んじゃ、別の部屋に行こうか」
と、食堂の隣の個人部屋を借りて、ちょちょいと手招きした
クルーゾーはマオに続いて部屋に入り、二人だけになると、その部屋にはがちゃりと鍵がかけられた
まわりの兵士はドアの前で、この行く末をごくりと固唾を飲んで見守った



「うわああああぁぁっ、もう勘弁してくれええぇぇっ!!」

その叫び声とともに、バン! と勢いよくドアが開き、クルーゾーが涙ながらに飛び出した
「ちがう……アニオタはそんなんじゃない……もう……ミントたんの悪口をいうのは……うあああぁぁっ!」
そう言って、涙ながらに走り去っていってしまった
「く……クルーゾー中尉までもがやられたぞ……」
これにはさすがに、まわりの兵士たちが、恐れおののいた

その部屋から、マオが出てくると、彼女は冷ややかな目であたりを見回した
「ふ、しょせんこんなもんかしらね」
「ぐっ……」
男としての尊厳を見下されたように感じたのか、まわりの兵士たちは、わなわなと拳を震わせた
するとクルツは、食堂でメシを食っていた相良宗介を呼び寄せ、マオに向かって言ってやった
「だったら姐さん、ソースケはどーよ。コイツをヘコませれるもんならやってみやがれ」
するとまわりの兵士たちも、『おおー、いいぞー』とはやしたてた
「ぐっ、こいつは強敵だわ……」
マオもこれには一筋縄ではいかないとみえて、充分に間合いをとった
「……なんか知らんが、ひどく失礼な物言いのようだな」
宗介は表情を変えることなく、ただ一汗流してそう言った

するとマオは十冊ほどのメモ帳を取り出し、構えた
「いくわよ、くらいなさいっ」



十分後

マシンガンのようなマオの罵倒の連発にも、宗介はただ淡々と「そうか」と聞き流していた
だが近くにいた数十人の兵士たちは、聞こえてしまったのか、もう充分なほどに泣き崩れてしまっている
頭を何度も振っては否定し続けたり、気分が悪くなってトイレに駆け込む者まで出る始末だ
だが、宗介だけは何一つ表情は変わらなかった

クルツは泣き伏したまま、立てないのか床にはいつくばりながら、
「へへ……どうよ、姐さん。コイツにゃこたえてねえみてえだぜ?」
「あんたにはすごく効いてるけどね。にしても、この鈍感め。あのメモを全部使い切ったってのに」
ぎりっと悔しそうにタバコを噛み潰すと、キッと宗介を睨んだ
「なら……今ここで新しく作ってやるわっ」
この男に男の誇りを打ち砕く罵倒は通じないらしい。するとメモを全部捨て、その場で叫んでやった
「この……ネクラボケ軍曹っ! いつも『問題ない』ないとか言ってるけど問題大アリすぎんのよっ。無表情なクセに頭の中は危険妄想いっぱい野郎の○○○が! 順応すらできないこの○○○で○○な、へたれ○○がッ」
「…………」
どうやら男のプライドを傷つける言葉ではなく、宗介個人への攻撃へと切り替えたようだ

そのマオの罵倒は五分ほど続いた
「武器を常に持ってないと不安って、てめーは狂った○○○かッ。あんたの愛想は神経患者以下の○○○○でダニにも劣る○○○なクズよッ」
「姐さん……。そりゃもうただの悪口だよ」
クルツがそう言ってやると、マオは疲れてきたのか、ぜえぜえと息をついた
「…………」
だがそれでも結局、宗介は一言もしゃべらなかった
「おおーっ、耐えたぞ」と、まわりから拍手が送られる
そしてマオが『くっ』と悔しがって諦めようとした、その時
急に宗介が自室に向かって歩き出した
「お? どした?」
だが宗介はその呼びかけには応えず、ただ無言で早足で自室に入ると、がちゃりと鍵をかけて閉じこもった
それから中で、押し黙った泣き声のようなものが聞こえてきたが、その真相は誰にも分からなかった

「…………」
可哀想に、と首を振るクルツをよそに、マオは「やった、勝ったわ!」とガッツポーズをとっていた
「あの相良軍曹を……」
完全に涙目になった兵士たち
「ふっふ。さ、次は誰かしら?」
完全に暴走モードに入ったマオから、必死に耳を塞ぎ、逃げまどう屈強の兵士たち

そんな状況を、テッサ大佐とマデューカス中佐は遠くから眺めていた
「……あの、マデューカスさん。さきほどの話、再検討しましょうか」
「ええ。今、私もそう考えていたところです」

それからしばらく、兵士たちは半狂乱に陥っていたそうな

あの、メモ帳の中身が知りたいんですケド