ミニふるめた


mini019 〜 024

ミニふるめたへ

メール導入

管理人:アリマサ
mini.019

これはテッサの妄想日記「密かな文通」の続きです


それはトゥアハー・デ・ダナンの食堂でのことだった

その昼飯時、みんなが食事をしている最中、クルツは暇をもてあましていた
「ったく、暇だなー。演習の予定も終わったしよー」
両腕を頭の後ろにまわし、あくびする
それを、スープを飲み干している宗介が無表情でたしなめた
「クルツ、食事中は静かにしてくれないか。暇なら書類仕事を片付けてくればいいだろう」
「んっだよー。んなこと堅苦しくてやってられっかよ。なー、宗介。なんか面白い話はねえか?」
「…食事中だ。それに話題がない」

「ったく、面白くないやつだね、おまいわ。よくまあ、そんな仏頂面でいられるもんだ。少しは怒りを顔に出したりとかしたらどうだ? んー?」
そう言って、宗介の脇の下でもくすぐってみる。だが、宗介は表情を変えることなくスープを飲み続けている
「…ちぇっ。ホント、つまんねーやつ」
くすぐるのをやめ、次にクルツは立ち上がり、胸に手を当て、わざと大声で言い出した
「おおー、アラーの神よー。ここに表情や感情に貧しい哀れな男がー。どうか彼を救ってやりたまえー」
そう言って、ふざけてみせた。食堂にいた兵士たち全員が、どっと笑い出す
だがそれでも宗介はむっつり顔のまま、変わることはなかった
「いいかげんにせんか、バカ者!」
どなったのは、端の方で食べていたマデューカスだった
「へいへい」
クルツも飽きたのか、そのまま皿を下げて自室に戻り、その場は静まった



そして翌日

デ・ダナン艦内のパソコン室にて、兵士たち全員が集まっていた
その兵士たちの前にはマデューカスがいた。彼はメインコンピュータの前でみんなに向け、どなった
「さて、諸君。今日をもって、各々の連絡方法が一新することになる。今まではクリップボードを回して連絡を伝えていたが、今日より、更に効率を上げるため、連絡手段はメールにする」

その説明にクルツがチャチャをいれる
「やれやれ、やっとかよ。大体まわりにはとんでもねー技術でつくられた機械とかがいっぱいあんのに連絡方法が回覧板みてーにクリップボードにつけられたメッセージを読んで他の人にまわすって、古すぎるんだよな」
「そこ、うるさいぞ。ちゃんと聞いてるのか?」
「へいへい、聞いてますよ」

マデューカスはクルツをひと睨みして、また説明に戻った
「…ということで、きさまら全員にはこれからメールを頻繁に使うことになるわけだが、初めてで戸惑う人もいるだろう」
「…そんなのはアンタぐらいだよ」
そのクルツのつぶやきは、小声なのでマデューカスの耳には入らなかった
「そこで、今からメールの使い方を貴様らに講座してやる。わかったか?」
兵士たちはあまり乗り気でない掛け声をあげた

「ふむ…だが、いきなり言葉で説明しても理解できないだろう。そうだな…そこそこにメールを利用している奴もいるらしいから、そいつのメールを参考にしよう。書き方も学べるしな」
その提案に、数人の兵士たちがどよめいた
「えっ…それって、勝手に、使用しているメールの中身を覗こうってことですか?」
「参考にするだけだ。それともなにか…見られてはマズイことでも書いてるとでも?」
「…………」
兵士たちはなにも言えず、黙り込む
「…それってプライパシーの侵害だよなあ…ま、オレは使ってないからいいけど」
クルツは他人事のようにつぶやく

その横で、クルーゾーが青くなっていた
(いかん…俺の例のサイトへのメールとか…アニメ仲間へのメールが暴露されたら…俺は…)
汗びっしょりになり、体ががたがたと震える
(アラーの神よ…どうか俺のメールでないことを…)
他の数人の兵士も同様に、心で祈っていた

「さて、メインコンピュータにアクセスして…だれのメールを使わせてもらうとするかな」
心なしかマデューカスは楽しそうに言って、マウスをカチカチと動かす
「え…と…。この『セガール』というのを使わせてもらうか」
ほっと、数人の兵士が安堵のため息をついた。よかった、自分のメールじゃなくて。とでもいうように

そのディスプレイの画面が、兵士たちの前にある大きなスクリーンに映し出される
その画面には、『セガール』から『てらりん』へのメールだった
「セガール? …どっかで聞いたことあるような…?」
隊員たちがざわざわとつぶやく
そんなみんなの前でその内容が映し出された


FROM:セガール

ねえ、ちょっと聞いてよっ(`д´)
昨日食堂でさー、クルツが俺をからかうんだ
面白くない奴だの無表情だのと言ってくるんだよぅ
しかもさー、みんなまで笑い出すんだよ
ひどいよね、ひどいよね(>_<)
頭キタから、クルツのくすぐり攻撃に無視してやったよ
ちょっとヤバかったけどね(スープ吹き出すとこだったよ。テヘッ)

大体、無表情で悪かったなーってカンジだよ!(`ж´)
もうクルツはマデューカスにいじめられちゃえばいいんだー…ってね冗談冗談
ではまたねー

TO:てらりん


「…………」
しーん、とその場が静まり返る
すると、スクリーンに映っていたウィンドゥが閉じられた
マデューカスがそのメールウィンドゥを閉じたのだ
「…これは見なかったことにしよう」
そう言って、メガネのブリッジをくいっと押し上げ、ふっと窓の外を眺めた

クルツは宗介に歩み寄り、ポケットから取り出したものをそっと渡した
それは「黄金納豆」と書かれていた
「宗介…この納豆美味いんだ。…やるよ」
「む…急にどうしたんだ」
宗介は無表情のまま、ただその納豆の箱を受け取る
「いや…気にするな。本当に、美味いんだよ」
今までにないほどに、優しい笑顔だった。その瞳の奥にはなにか、哀愁を感じさせるものがあった

すると今度はヤンが近づいて、CDを宗介に手渡した
「あ…あの…僕の宝物なんだ。あげるよ」
「む? なぜ?」
続いてクルーゾーが、ビデオを渡す
「これは俺の宝物だ。…受け取ってくれ」
そのビデオラベルには『となりのトトロ』と書かれていた
「…なぜだ…。なぜ急にみんな優しくなる…? や…やめろ…」
そんな目で俺を見るなああぁぁっ!!

ついに耐え切れなくなって、宗介はその部屋を飛び出した

それ以後しばし、みんな宗介に対して優しかったそうな
あ…あの、僕はこれあげるよ…



隠ぺい工作

管理人:アリマサ
mini.020

ぽかぽかと気持ちのよい春
千鳥かなめと相良宗介はちょっとそこらへんを一緒に散歩していた

まばらな人通りまで来たところで――ちょっと強めの春風が舞った
びゅううぅぅ

かなめはスカートを押さえ、めくれるのを防ぎ…飛んでくる葉っぱが舞い…そして
前方を歩いていたおっさんの頭から、毛髪のかたまり…つまり、カツラが外れて空を舞って飛んできた
「えっ? なにっ? きゃああっ」
「あぶないっ! 千鳥、ふせてろっ!」
宗介は千鳥をかばうように立ち、すぐにそれを得体の知れないモノと判断し、その黒いかたまりに向け、照準を合わせた
ぱんッ ぱんッ ぱんッ ぱんッ 

そのカツラは空中で10円玉くらいの穴が数発空けられると、力なくぺちゃりと地面に落ちた
「ぎゃあああぁぁっ!!」
外れたカツラを追ったおっさんは、目の前で自前のカツラが悲惨な最期をむかえる瞬間を、ただ見ているだけしかなかった
「お…おお…わしの…カツラがああぁぁ…」
つるつるした頭をさらけ出したおっさんは、涙いっぱいにそのカツラを抱きしめ、泣き崩れた
「あ…ああ…やっちゃった…」
かなめは気まずい…というように、そっと宗介を連れ、その場を逃げ出した

「あ〜あ、もう、なんてことすんのよ。人様のモノを…」
それに対し、宗介は銃をしまい直してから悪びれた様子もなく告げた
「だが、いきなりあんな奇怪なものを飛ばすあいつが悪い」
「奇怪って…まあ、たしかにあたしもびっくりしちゃったけど…」
「うむ、俺もだ。あまりに奇怪すぎて一瞬判断が難しかった。それに、あれを飛ばしてしまった向こうに管理責任が問われるだろう」
「う〜ん…まあたしかにあのおじさんもちゃんとピン止めしてなかったみたいだしね…」

「ところで…一体あれはなんだったのだ?」
「ああ、さっきのやつね。あれはカツラといって、髪の毛が無いっていうことを隠すためのカモフラージュってとこかな」
「ほう…カモフラージュか。たしかにうまい手だな。それならそのカツラとやらにナイフとかを忍ばせるという隠ぺい工作も可能なわけか」
「…まーた、そっちのほうにいくんだから。いい? あれはね、毛根が無くなってどうしようもない人がかぶって、「俺はふさふさだー」って現実逃避するためのアイテムなのよ」
などと、身も蓋もないことを言う
「だが、あれは使える。俺も正直困っていたところなのだ。最近、学校側で俺の銃の所持の取り締まりが厳しくなってきてな…」
宗介はそう言うと、一人どこかへ行ってしまった



翌日

学校に、生徒たちが登校する

そしてかなめや恭子、小野寺たちがたまたま会い、挨拶を軽く交わして玄関に入ると、たちまち一人の人物に釘付けになった
それは、玄関で靴を履き替えようとしている、むっつり顔にへの字口
「…相良…なにやってんだ?」
小野寺が、あんぐりと口を半開きにして、その男に尋ねる
「む…? いや、なにも問題ないが?」
「いや、その頭はなんだ?」
小野寺が指さすその先の宗介の頭は…さらさらのロングヘアーだった
「…このバカ…」
かなめが呆れたように一人ため息をついた
宗介はあくまでもその指摘に何事もないように応じる
「…? なにを言ってるのかわからんな。俺の頭にはなんの異変も見当たらない」
「…………」

すると、廊下の方から神楽坂先生が目を吊り上げて走ってきた
「相良君、なんですっ! そのカツラはっ!!」
宗介は明らかに動揺をみせた
「な…なぜばれたのだっ? おのれ、この学校にスパイが…」
「職員室にきなさいっ! 話があります!」
「せ…先生…信じてください。これは決して怪しいことでは…。誰かの…誰かの陰謀なのだっ! …先生、聞いてますか?」
その弁明はまったく伝わらず、彼は神楽坂先生にずるずると引き連れられていった

そりゃばれるわい



かなめの作戦

管理人:アリマサ
mini.021

「ついに…ついにこの時が来たわっ!」

千鳥かなめは、陣高だよりの記事を読んだとたん、一人そうつぶやいた
その記事は、『恋人にしたいアイドル選考始まる』とある。
だがかなめが気合を入れているのはそこではない。その選考と同時進行で、裏の企画があるのだ
それは、『恋人にしたくないアイドル』の選考だ。

かなめは今、『恋人にしたくないアイドルナンバーワン』と『贈呈品イーター』の称号をもらっている
だが、そんなのは嬉しくもなんともない
かなめは、それをなんとしても挽回したかった。そのチャンスがついにきたのだ
この選考の間に、あたしの魅力をたっぷりアピールして、そのありがたくない称号を返済してやる
と、かなめは考えていたのだ

「でも、いつもどおりじゃ駄目だわ。…みんなが「いいなあ」っていう女性像ってどんなのかしら…。身近にいって、やはりお蓮さんみたいなおっとりタイプがいいのかもね」
(よし、これからしばらくはそっちの方向でいこう。そして地を出さないようにして、頑張ろう)
かなめは強く、決心した



翌日

かなめは学校の登校中、曲がり角で宗介に会った
「む…千鳥、おはよう」
その挨拶に、かなめはしずしずと頭を下げ、挨拶を返した
「おはようございます、ソースケさん」
「貴様、偽物だな」
間髪を入れず、かなめに銃を向けた
(…こいつ、選考が終わったら絶対殺す)

かなめは怒りを表面には出さず、あくまでおしとやかさを保った
「あらあら、銃なんて物騒な物はしまって下さいな」
「黙れ、近寄るな。…今からチェックする。…動くなよ」
宗介は銃を向けたまま、かなめのほっぺをつねったり、体のあちこちをあれやこれやと…
かなめは後ろに手をまわしてハリセンを手にとったが…殴り倒すことだけは我慢した
(選考している間はどこでだれか見ているのか分からないわ…選考が終わるまでの我慢よ、かなめ)
自分に言い聞かせ、深呼吸をついた

「…ふむ、身体的特徴にはなんら問題はない…が…」
まだ疑いの目で眺める宗介に、かなめはこらえて演技を続けた
「ほら、このままでは遅刻してしまいますよ? 行きましょう」
ニッコリと微笑んで、宗介の腕を取ると、学校に向かった

学校の玄関に着くと、またも宗介が靴箱の前でうなった
「どうしました? ソースケさん」
「…また俺の靴箱に爆弾が仕掛けられてるようだ」
「あら? そうなんですの? もっとよくお確かめになったほうが…」
だが宗介はかまわずプラスチック爆弾を取り付ける
そして、爆破

地鳴りとともに爆風があたりの木片を吹き飛ばす
辺りは煙だらけ、ガラスも粉々に割れてしまった
「けほっ…また相良のやつかよ」
「くっそー、目が痛え。ったくいい加減にしろよな」
近くにいた生徒たちが、たらたらと不満をこぼす
そしてその人たちの代わりに、いつもなら千鳥の強力な一発が入るのだ

みんなの注目の中、かなめはようやく立ち上がると、宗介に近づいた
「…千鳥、爆弾ではなかったようだ」
「…そういう問題ではありませんわ。こういう所で爆弾を使ってはいけないと何度もキツく言いつけてますのに…」
ゆらり、とかなめの手が動く
「くるぞくるぞ」とまわりの生徒もかなめのせっかんを待つ
次の瞬間、かなめは親指と人差し指で輪をつくり、宗介のおでこに近づけた
「えいっ」
「痛い」
デコピンをくらわせられた宗介だが、おでこをさすり、「これだけか?」と一人つぶやいた
「はあ?」とまわりの生徒たちもあっけにとられる
そんな彼らを置いて、かなめは教室へと静かに向かっていった
(ふっふっふ…。エレガントなお仕置きでみんなのポイントを上げたにちがいないわっ)
かなめは一人、頭の中で高笑いした



昼休みの少し前

「絶対おかしいぞ、千鳥のやつ」
「あれは精巧なぬいぐるみで中身は別人じゃないか?」
おしとやかなかなめを見て、クラスはがやがやと勝手に推測したりしていた
だがそれも昼休みに判明するだろう
なぜならかなめの暴走は、昼休みのパンを買いに行くときに発揮するのだ
体裁など気にせずに、場所を問わず駆け抜け、人の山を強引にひっぺはがしてパンを買うのだ

そして、昼休みのチャイムが鳴った
ばっとみんなの視線がかなめに集中する
かなめはそっと立ち上がると、廊下に出て、歩幅は狭くしたままトコトコと、それでいて全力ダッシュと変わらぬ速さでパンのとこまで移動した
「…千鳥。…不気味だぞ」
それを見送っていた宗介はぽつりと漏らした

パンを売っているところまで来ると、やっぱりそこは人だかりでいっぱいだった
(くっ…どうすればいいの?)
あくまでもおしとやかに行かねば…おそらくここが最大のヤマ場だろう
かなめはとにかくその人ごみの中に入っていった
だが、そんなかなめの事情も知らない生徒たちは、強引に割り込み、パンを注文していく
(くっ…大声を出したいけど…それではマイナスイメージだわっ)

するとかなめは、なぜかわざとらしくその場に倒れこみ、よよと涙目になって言った
「ああっ…ひ…ひどいわ…。あたしかよわいから…パンが…パンが…」
すると、山になっていた人たちが、すざっとかなめから離れるようにして、かなめとパン売り場までの道ができた
そして生徒たちはなにか体が寒くなったようで、がくがくと震えている
(ふっ。やったわ。けなげなあたしの姿を見てみんなの同情を誘えたわっ)
するとかなめはからっと明るくなって
「おばさん、クリームパン一個!」

かなめはクリームパンを嬉しそうに抱え、教室に戻ってきた
そしてその食べ方も上品だった
わざわざ自宅から持参してきたナイフとフォークでクリームパンを口に運んで…
「それはちょっとちがうような…」
恭子のツッコミにも動じず、かなめはそれも食べ終えた

(これでもうあの忌まわしい称号からは離れられそうね。ふっふ)
すると、それまでうろたえてたクラスの人たちが、ついに声をかけた
「千鳥さん、なにか悩みがあるんなら言ってよ」
「そうよ、なにがあったのか知らないけど、無理することないわ」
「そうそう、病院行けよ。大事をとってきたほうがいいよ」
よってたかって、心配してくれるのはありがたいのだが…
(なによなによ。まるで変わっちゃったような言い方しちゃって…)

するとがらりとドアが開き、相良宗介が入ってきた
だがその格好は制服ではない。マスクを着け、白衣を着た物々しい格好だ
そしてなにかの機材をいろいろと運んできた
「あの、なにやってますの? ソースケさん」
「うむ。本当に偽物でないかどうか調べるため、DNA鑑定をしようと思ってな。そのための機械も持ってきた」
ビキッ
と、切れそうになったが、まだだ。こらえるんだ。地を出してはいけない…

「おお、そりゃいいや。なにか異常が見つかるかもしれねえな」
まわりのクラスたちも喜んで賛同する
ビキキッ

宗介はみんなに後押しされながら、そのための準備を始めた
そしてかなめに紙コップを手渡し、
「まずは検尿からいこう。さっそくそのコップに…」
プッチン
かなめは人には理解できないおたけびを上げたあと、宗介に飛びかかった



『陣高だより』には、かなめの写真が一面で載った
その写真は片手で宗介を振り回し、暴れまわっている姿だった
ご丁寧に口から火を吹くCGまで入っている

かなめはその新聞をぐしゃっと握りしめると、悲しそうに机に突っ伏した
「うぅ…こんなはずじゃなかったのに…」

とうぶん称号はそのままになりそうだ

まあこんなもんですか…



レイスの変装生活

管理人:アリマサ
mini.022

<ミスリル>の情報部に在籍するエージェント。コードネーム、レイス

彼の任務は千鳥かなめの護衛と監視
彼は変装を得意とする。声色まで自由に、巧みに変えることができる
その変装は幅広い。中年のサラリーマンから主婦のおばさんにまで完璧に姿を変えれるのだ

さらに、レイスの凄いところは、変装のカモフラージュの深さだ
疑いを持たれても、ちょっとやそこらで調べられても尻尾を出さないように、隅々までその変装人物になりすましているのだ



「なんだ、この報告書はっ」
「す…すみません…」

ある会社の上司にどなられて、中年のサラリーマンに化けたレイスはぺこぺこと頭を下げた
「こんな簡単なミスをするなと何度も言ってるだろう! 細かいところにまで目を行き届けないとだな…」
ガミガミと何度もどなられ、ひたすら頭を下げるしかなかった

「いいか、二度とするな。…もういい、行け」
「はっ。申し訳ありませんでした」
レイスは一礼し、その報告書を手にとって、机に戻った
すると、横にいた同僚がぼそぼそと話し掛けてきた
「よう、こってりとしぼられてしまったようだな」
「ああ、まいったよ。…まったく」
レイスは汗をぬぐい、その報告書の手直し作業に戻った



翌日

「こらあっ、そこの奴! 板の種類間違ってねえだろうな?」
「大丈夫ですよ、親方」
工事現場の若い作業員に化けたレイスは、よく聞こえるよう、大声で現場監督に言った
「よーし、そこ、釘打っとけ!」
「へい、親方」
口にくわえていた釘を数本板に当てて、金槌でこつこつと叩いた
「よーし、休憩の時間だ。各自、昼飯に入っていいぞー」
休憩の指示があると、レイスは大量の汗を手ぬぐいでぬぐい、弁当を食べ始めた



さらに翌日

アパートの一室の前で、警察官や刑事たちがこそこそと集まっていた
「よし、マツ(偽名)。覚悟はいいな?」
「はい、十津川警部!」
若い刑事に化けたレイスは拳銃を構え、答えた

「ついに殺人犯をここまで追い詰めた…。奴はもう疲れ果ててるはずだ。だが、気は抜くなよ」
「はいっ」
「よし…突入だあっ!」
警部の合図で、レイスと複数の警察官が一斉にその部屋になだれこむ
だが、犯人の姿はなかった
「ばかな…。奴はもう疲れてるはずだ」

真っ先に入ったレイスは、その部屋の机の上に置かれた空のビンを見て、うなだれた
「…しまった…」
「どうした、マツっ」
レイスはビタミンドリンクのビンを見て、悔しそうにつぶやいた
「…元気になっちゃったよ…」
「くそっ」
窓が空いていた。元気を取り戻し、そこから逃げ出したのだろう。
刑事とレイスは、悔しそうに握りこぶしに力を入れた

(とあるCMより引用)



さらにさらに翌日

主婦のおばちゃんに化けたレイスは、買い物袋2つをぶらさげて、狭い街路を歩いていた
すると、そのレイスを3人くらいの主婦たちが引きとめる
「あら、田中さん(偽名)。買い物の帰り?」

レイスはにっこり笑って、その主婦たちの輪に入っていく
「もうねえ、卵が高くなっちゃって…困るわあー」
「分かるわあー、田中さん。でもね、人参とか野菜は安くなってましたわよ」
「あらホント? でも最近レトルトばっかなのよねえ」
「そうそう、子供が贅沢になっちゃって…」
「あっ、子供といえば、最近ウチの子がねえ…」
「まあ、本当? いやねえ…」
「ホホホ…」

(やはりこの時が一番楽しい。ただ最近、何かを忘れているような気もするが…。あ、そうだ。明日はまた工事作業員に変装して、新築を…いや、その前にサラリーマンに化けて書類を届けておかねば…)
「あら? どうなさったの? 田中さん」
「いえ、私そろそろおいとましますわ。それではまた…」

主婦たちにそう告げると、レイスは買い物袋を重そうに引っさげて、家へと向かった

さよなら、レイス



クルーゾーの秘密

管理人:アリマサ
mini.023

トゥアハー・デ・ダナンでは、演習前の休憩時間、兵士たちがたむろっていた

自動販売機でコーヒーを飲んだり、談笑したりしてくつろぐ兵士

「うおおおおおぉぉっ」

いきなり静寂を破るような声が艦内に響き、兵士たちは思わずコーヒーを吹き出してしまった
「あ…ああ、びっくりした」
隊員の一人が口をぬぐって近くの人に言った
「今の声は、またクルーゾー中尉だな」
「ああ、またああやって一人、部屋で士気を高めていらっしゃるんだ。尊敬するよ」
「まったくだ。休憩の時間だというのにああして大声を張り上げて士気を高めて…俺たちも見習わなくっちゃな」
「そうだな。おっと、そろそろ演習が始まるな。頑張ろうぜ」
そうして休憩の時間は終わった

その頃クルーゾーは部屋で一人、涙を流し、拳をわなわなと震わせていた
そして悔しそうに、机を叩き、口をぎりぎりと歪ませてうなった
「なんてことだ…タイマーが…ずれてしまっていたとは…ちくしょう」
ビデオケースを置き、そして両手で頭を押さえ、うずくまった
「ちくしょおっ、ギャラ○シーエ○ジェルがあああっ!」

『演習が始まります。全員、配置について準備を済ませなさい。SRT隊員は速やかにASに集合して…』
アナウンスが流れると、彼は力なく立ち上がった



演習開始。

クルーゾーのASが先陣を切り、次々とバーチャルの敵をなぎ倒していく
その見事なまでの動きに、他のSRT隊員たちは感心してしまう
「さすがはクルーゾー中尉。今日はいつにも増してすごい成果をあげているなあ」
それは指令センターでも同じだった

「ほお…どうしたんだ、ウルズ1は。標準値より攻撃力も高く、破壊力もいいではないか」
マデューカスも感心したように、演習状況が映し出されたモニターを眺めてつぶやいた
「ええ、本当に。さすが戦隊長なだけはあります」
艦長のテッサ大佐もそれには同意した

演習では、まだクルーゾーが、次々と現れる敵をなぎ倒していく
顔面にいっぱいの涙を流して
「ちくしょおおぉっ、ミントたああんっ! ミントたああんっ!」



演習が終わると、クルーゾーはまた自室に戻った
すると、自室の前でクルツ・ウェーバーがうろうろしている

「おい、ウェーバー軍曹。なにをしている?」
「あっ、やべ…。いえ、中尉殿。さっきの演習は見事でした」
「…ふん。人を褒める前に、自分の腕を磨いたらどうだ」
「へいへい」
そう言うと、クルツはすたこらと逃げるように行ってしまった
「…………?」

まあいい。俺にはこれからやることがある
「さて、さきほどの演習ですっきりしたことだし、この間録画しておいた『紅の豚』でも観るかな」

クルーゾーは本当にアニメが大好きなのだ。特に好きなのは、ジプリ作品である
ビデオをセットし、ゆっくりとその映画を楽しむことにした

その映像には、サングラスをかけた豚が、優雅に大空を駆け巡っていた
「うむ…渋い豚だ。彼には澄みきった空がよく似合う…」
そして場面は、終局を迎えた
紅の豚は、愛する女性を賭けて勝負する、というシーンだ
「よしっ、頑張れ、豚あっ」
すると次の瞬間、映像が変わり、野獣ボブ・サップが生の豚肉を食い潰すというシーンが流れた
「ぎゃあああああぁぁっ」

「おお、またクルーゾー中尉だ」
「さすがだなあ。演習のあとでも士気を高めていらっしゃる」
「まったく、俺たちも見習いたいものだ」
「はっはっは…」

大変ですな



アルの挑戦

管理人:アリマサ
mini.024

トゥアハー・デ・ダナンの格納庫では、ミスリルの兵士たちが全員集まっていた

この、一番大きい場所を取って、みんなで宴会をしていたのだ
酒が注がれ、みんな陽気に踊ったりしている

その正面の奥ではちょっとした舞台が設置してある。そこで、みんながかくし芸を披露していた
「いえーいっ。よおしっ。次はサガラかあっ。笑えっ。笑ってみせろおっ」
隊員たちは酒がまわっているのか、かなりハイテンションだ
「笑ってみせろってんだよ。…バカ、それじゃ神経患者の引きつった顔じゃねえかあっ」
舞台に空き缶などが投げ込まれ、宗介はむすっと舞台を下りた

『さあ、お次はマオさんでぇーすっ。どうぞっ』
司会役のクルツが告げると、マオが舞台に上がる
「おおーっ、マオっ! 脱いでくれー!」
「残念でしたー。そういう芸じゃないのよ。さ、整備員たち、頼むよー」
マオが数人の整備員たちに合図すると、彼らは「うぃーっす」と答え、二機のASを起動させた

その二機の無人ASは、やかましい足音をたてて、舞台に上がる
「…………?」
みんなの目が舞台に集中した
そのASのうち一機は、腰にビニールシートを巻いている
まるでスカートのようにも見える

その二機のASがお互い近づき、体を密着させると、突然手足をせわしく動かし始めた
それはまるで踊っているようだった。『ランバダ』だ。
二機のASは手足をくねらせ、振り回して、情熱的なダンスを踊っている
ガチャコン ガチャコン

「おおーっ、いいぞおっ!」
わあっとその場が盛り上がる

マオは整備員たちと、「やった!」とばかりにハイタッチし合った
「成功だわっ。やっぱ『ランバダ』ならイケたわね」
「ええ。『タンゴ』は動作パターンが複雑でしたが…これは上手くいきましたね」
「できれば『タンゴ』でいきたかったけど…失敗しちゃったからねえ。あーあ、動作プログラムが勿体無いけど」
「でもこれでも大成功ですよ」
「そうね。ふふっ」

その二機は激しく動き、音楽もノリノリムードが流れる
「イエーアッ」
「イエーアッ」
隊員たちもノリノリで踊りだす
しばらくダンスに酔いしれた

音楽が止まると同時に、二機のASも沈黙した。
動作プログラムはここまでだったのだろう
「いいぞおーっ!!」
拍手喝采

かくし芸はこれが一番だな。と、思ったその時――
近くでガコン、と音がした。固定してあった倉庫のASのうち一機が、ジェネレーターを点火させ、間接のロックを解除したのだ。そのASの鋭い目が、一瞬赤く光った。力を蓄え、膝を上げ、固定ワイヤーを次々に引きちぎっていく。
無人のはずの<アーバレスト>が勝手に動き出したのだ

さすがにこれには青くなって、相良宗介が呼びかける
「おいっ、アル! 勝手に起動するな!」
すると<アーバレスト>のAI・アルが機械音で話してきた
<お願いです、軍曹殿。わたしにも挑戦させてください>
「な…なにを言ってる? 貴様はおとなしく――」
その宗介の制止を無視して、その場の隊員たちが、一斉に歓声を上げた
「おおーっ。いいぞおっ、やれやれーっ!」
酒が入ってるせいなのか、アルのダンス挑戦に、みんながはやし立てる

<『ランバダ』がなんです。わたしは『タンゴ』を踊ってみせましょう>
「おおーっ!!」
ピーピーと、口笛まで吹いてみせる隊員たち。
普通ならここでマデューカスが止めに入るのだが、彼は完全に酔ってしまっていた
「ほお…おもしろい。やってみろ」
マデューカスまでこの始末だ

宗介は頭が痛くなった。が、ここまで言われては、やらせるしかないな。
「…いいだろう。だが、パートナーはどうするんだ? 俺は踊らんぞ」
<…軍曹殿、それは体格的に無理です。大丈夫、パートナーはこちらで用意します>
するとアルは、近くのASのハッチを開き、コックピットにコードをつなぐ
<わたしの動作プログラムと、そのプロセスデータを注入します。これでわたしの動きに合わせてくれます>
しばらく、機械音だけが響いた
プログラム注入が終わると、コードを引き抜く。そして起動させると、そのASも立ち上がった

<では、見ててください>
アルとそのASはやかましい足音を立て、舞台に上がる
そしてお互い少し離れたところで、見つめ合う

<では…ミュージック…スタートっ!>
アーバレストから、穏やかな音楽が流れる
すると、お互い前に歩み寄り、近づいていく
そして体が密着すると、手を組み合わせた
同時に、情熱的な音楽が流れた
…じゃじゃじゃ…じゃんっ…じゃんっ
ばっと、同時に首を横に振り、また戻して見つめ合う
完全なタイミングだった
それから、腰に手をまわし、ASがアルの手を軸にして、くるりと踊りまわる

「うおおーっ、いいぞおーっ!!」
一気にその場が激しく盛り上がった
その動きは見事だった。華麗に手足を動かし、踊りまわる
もうひとつのASも、アルの腕を背にして、後ろに反り返るという動作もしてみせていた
アルもASを抱えて振り回したりと…かなり情熱的なダンスだ
「いいぞーっ、イエーイッ」
隊員たちも拍手や口笛などで、歓声を浴びせる

<ふっふっふ…。どうです。さらに、こんな動きも…>
そう言って、アルが優雅に腕をくねらす
「おおーっ。いいぞーっ」
<さらにっ、こんなこともやってしまいますよっ>
なんと、一回転ターン。巨大な体格を持つASがここまで細かい動作ができるとは
「すげえっ、すげえぞおっ、最高ーっ」
<ふっふっふ…。さらにさらにっ、こんなことまでえっ>
すっかり調子に乗ったアルは、大きく跳躍し、バレエダンサーのように体を空中でくねらせた
「うおおおおぉぉっ、すげえーっ」
そして、着地――
しようとしたのだが、空中で体の軸がずれていたのか、足をすべらせてしまった
<あっ>
そのまま体勢を崩し、前のめりに豪快に倒れた
ズシャアアアアァァッ!!

巨大なASが倒れたため、床が叩き割られ、パイプ類が砕けていく
さらに、もう一人のASは、手順ではアルに受け止められるために、くるくると踊りまわりながら突っ込むのだが、アルはそこにはいなかった
そのまま勢いよく回転しながら壁に激突した
ドゴオオオォォン!!

「うわああああぁぁっ。やばいっ、誰か消火器持ってこいっ!」
「逃げろおっ、まだ倒れてくるぞぉっ」

壊れていく格納庫の中、相良宗介は呆然と立ち尽くしていた
だが、やがて状況を把握すると、宗介は真っ青になって、前のめりに倒れたまま動かないアーバレストに駆け寄った
「アルっ、なんてことを…おいっ、応答しろっ、アル!」
アーバレストには、大して外傷は見られない。人工知能は無事のはずだが、宗介の呼びかけにまったく応じない
「アルぅぅっ! 逃げるんじゃないっ、応答しろぉっ!!」
わめきたてる宗介の肩を、背後からだれかがぽんと叩いてきた

振り向くと、宗介はさらに青くなった
「ま…マデューカス中佐…」
さすがに酔いも冷めたらしい。その顔は帽子を深くかぶっていたのでよく見えない
「サガラ軍曹…。あのアーバレストの操縦者は君だ。…ということで、弁償は君が立て替えるように。…なにか異論は?」
「……いえ」
半壊状態の格納庫で、宗介は悲痛な声で答えた

宴会はめちゃくちゃですな