メール導入管理人:アリマサ mini.019
これはテッサの妄想日記「密かな文通」の続きです
それはトゥアハー・デ・ダナンの食堂でのことだった
その昼飯時、みんなが食事をしている最中、クルツは暇をもてあましていた
「ったく、暇だなー。演習の予定も終わったしよー」
両腕を頭の後ろにまわし、あくびする
それを、スープを飲み干している宗介が無表情でたしなめた
「クルツ、食事中は静かにしてくれないか。暇なら書類仕事を片付けてくればいいだろう」
「んっだよー。んなこと堅苦しくてやってられっかよ。なー、宗介。なんか面白い話はねえか?」
「…食事中だ。それに話題がない」
「ったく、面白くないやつだね、おまいわ。よくまあ、そんな仏頂面でいられるもんだ。少しは怒りを顔に出したりとかしたらどうだ? んー?」
そう言って、宗介の脇の下でもくすぐってみる。だが、宗介は表情を変えることなくスープを飲み続けている
「…ちぇっ。ホント、つまんねーやつ」
くすぐるのをやめ、次にクルツは立ち上がり、胸に手を当て、わざと大声で言い出した
「おおー、アラーの神よー。ここに表情や感情に貧しい哀れな男がー。どうか彼を救ってやりたまえー」
そう言って、ふざけてみせた。食堂にいた兵士たち全員が、どっと笑い出す
だがそれでも宗介はむっつり顔のまま、変わることはなかった
「いいかげんにせんか、バカ者!」
どなったのは、端の方で食べていたマデューカスだった
「へいへい」
クルツも飽きたのか、そのまま皿を下げて自室に戻り、その場は静まった
そして翌日
デ・ダナン艦内のパソコン室にて、兵士たち全員が集まっていた
その兵士たちの前にはマデューカスがいた。彼はメインコンピュータの前でみんなに向け、どなった
「さて、諸君。今日をもって、各々の連絡方法が一新することになる。今まではクリップボードを回して連絡を伝えていたが、今日より、更に効率を上げるため、連絡手段はメールにする」
その説明にクルツがチャチャをいれる
「やれやれ、やっとかよ。大体まわりにはとんでもねー技術でつくられた機械とかがいっぱいあんのに連絡方法が回覧板みてーにクリップボードにつけられたメッセージを読んで他の人にまわすって、古すぎるんだよな」
「そこ、うるさいぞ。ちゃんと聞いてるのか?」
「へいへい、聞いてますよ」
マデューカスはクルツをひと睨みして、また説明に戻った
「…ということで、きさまら全員にはこれからメールを頻繁に使うことになるわけだが、初めてで戸惑う人もいるだろう」
「…そんなのはアンタぐらいだよ」
そのクルツのつぶやきは、小声なのでマデューカスの耳には入らなかった
「そこで、今からメールの使い方を貴様らに講座してやる。わかったか?」
兵士たちはあまり乗り気でない掛け声をあげた
「ふむ…だが、いきなり言葉で説明しても理解できないだろう。そうだな…そこそこにメールを利用している奴もいるらしいから、そいつのメールを参考にしよう。書き方も学べるしな」
その提案に、数人の兵士たちがどよめいた
「えっ…それって、勝手に、使用しているメールの中身を覗こうってことですか?」
「参考にするだけだ。それともなにか…見られてはマズイことでも書いてるとでも?」
「…………」
兵士たちはなにも言えず、黙り込む
「…それってプライパシーの侵害だよなあ…ま、オレは使ってないからいいけど」
クルツは他人事のようにつぶやく
その横で、クルーゾーが青くなっていた
(いかん…俺の例のサイトへのメールとか…アニメ仲間へのメールが暴露されたら…俺は…)
汗びっしょりになり、体ががたがたと震える
(アラーの神よ…どうか俺のメールでないことを…)
他の数人の兵士も同様に、心で祈っていた
「さて、メインコンピュータにアクセスして…だれのメールを使わせてもらうとするかな」
心なしかマデューカスは楽しそうに言って、マウスをカチカチと動かす
「え…と…。この『セガール』というのを使わせてもらうか」
ほっと、数人の兵士が安堵のため息をついた。よかった、自分のメールじゃなくて。とでもいうように
そのディスプレイの画面が、兵士たちの前にある大きなスクリーンに映し出される
その画面には、『セガール』から『てらりん』へのメールだった
「セガール? …どっかで聞いたことあるような…?」
隊員たちがざわざわとつぶやく
そんなみんなの前でその内容が映し出された
FROM:セガール
ねえ、ちょっと聞いてよっ(`д´)
昨日食堂でさー、クルツが俺をからかうんだ
面白くない奴だの無表情だのと言ってくるんだよぅ
しかもさー、みんなまで笑い出すんだよ
ひどいよね、ひどいよね(>_<)
頭キタから、クルツのくすぐり攻撃に無視してやったよ
ちょっとヤバかったけどね(スープ吹き出すとこだったよ。テヘッ)
大体、無表情で悪かったなーってカンジだよ!(`ж´)
もうクルツはマデューカスにいじめられちゃえばいいんだー…ってね冗談冗談
ではまたねー
TO:てらりん
「…………」
しーん、とその場が静まり返る
すると、スクリーンに映っていたウィンドゥが閉じられた
マデューカスがそのメールウィンドゥを閉じたのだ
「…これは見なかったことにしよう」
そう言って、メガネのブリッジをくいっと押し上げ、ふっと窓の外を眺めた
クルツは宗介に歩み寄り、ポケットから取り出したものをそっと渡した
それは「黄金納豆」と書かれていた
「宗介…この納豆美味いんだ。…やるよ」
「む…急にどうしたんだ」
宗介は無表情のまま、ただその納豆の箱を受け取る
「いや…気にするな。本当に、美味いんだよ」
今までにないほどに、優しい笑顔だった。その瞳の奥にはなにか、哀愁を感じさせるものがあった
すると今度はヤンが近づいて、CDを宗介に手渡した
「あ…あの…僕の宝物なんだ。あげるよ」
「む? なぜ?」
続いてクルーゾーが、ビデオを渡す
「これは俺の宝物だ。…受け取ってくれ」
そのビデオラベルには『となりのトトロ』と書かれていた
「…なぜだ…。なぜ急にみんな優しくなる…? や…やめろ…」
そんな目で俺を見るなああぁぁっ!!
ついに耐え切れなくなって、宗介はその部屋を飛び出した
それ以後しばし、みんな宗介に対して優しかったそうな
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