ミニふるめた


mini011 〜 018

ミニふるめたへ

ウィスパード覚醒

管理人:アリマサ
mini.011

あたし千鳥かなめ
まあ、ウィスパードだったみたいでね。
その兆候が最近本格的にあらわれたみたいなのよね
難しい授業も簡単に聞くだけで理解できちゃうし。
こないだなんてちょっと大学の問題とか興味でやってみたんだけどさ、これが簡単に理解できちゃうわけ
こりゃもうウィスパードの力がかなり目覚めちゃってるみたいなのよね
まあ、お得な気分だけど



キーン コーン カーン コーン

「カナちゃーん、なにしてんの? 次美術の授業だよ。早く行こうよ」
常盤恭子が準備を終え、かなめに話し掛けた
「あ、ごめんごめん。今準備するから」
かなめも準備をして、二人は慌てて美術室へと向かう


美術の時間

水星先生が今日の課題を説明する
「…であるからして、色がかもしだす情熱をキャンパスにぶつけ、青春とはなんたるかを(中略)ヤシの木に猿がいたという事実が黒人への差別へとつながってしまうのだ。しかるに我々がしなければならないのは(中略)隕石がピンポイントシュートを放つと同時に地縛霊が「あらよっと」と片手でキャッチしてしまうことで…」
またも説明が難解な言葉の口上に変わり、生徒たちが「あーあ」とため息混じりにつぶやく

「…はは、またこうなっちゃったね、カナちゃん」
恭子が冷や汗混じりに横にいるかなめに話し掛けた
が、かなめは恭子に気づかないくらいにその説明に聞き入っていた
「…カナちゃん?」
「…り…理解できるわっ…」
「……え?」

するとかなめはなにやら感動したように先生に近寄って、拳を握り締めて力説した
「先生っ、つまりこうですね。あたしたちは深層におけるプロセスから打ち立てられるかりそめの姿を(中略)石に刻まれた言葉が自然の物理に反した象徴のごとく(中略)馬に結ばれた人参を横取りするカモメの優雅さに秘められた…」
すると水星先生は嬉しそうに口元を緩めた
「おお、わかってるじゃあないか。そうだ、キミの言うとおり反転をかました文字に躍らされる霧のごとく(中略)胃と腸が混合しないという事実が…」
二人は雑談を交わすような雰囲気で、意味不明の言葉を交し合う

まわりの生徒たちがその異様な雰囲気に気圧されて数歩後すざる
「大変だ、千鳥さんが狂ってしまった」
「カナちゃん…」

そんなみんなの心配をよそに、二人はまだ会話を続けていた
「こうですね、先生。がに股をくぐりぬける槍が一本の希望へと…」

どうやら「恋人にしたくないアイドル、贈呈品イーター」の他に更なる評価が加わりそうだ

さしずめ「難解な言語を操る女」といったところかな



その後の日向柾民

管理人:アリマサ
mini.012

これは『放っておけない一匹狼?』に収録されている『鋼鉄のサマー・イリュージョン』の続きという設定です


「『騙されるな、隙を見せず気迫を見せろ』か。たしかに僕は甘かったのかもしれない…」
病弱なお坊ちゃん、日向柾民は宗介の言葉をしっかり受け止めた
「…坊ちゃん?」
「いいんだ、鷲尾。僕は大切なことを教えてもらったのだから…」
執事の鷲尾もそれ以上はなにも言わず、外の海景色を静かに眺めた


数年後

柾民はしだいに回復を遂げ、いまや普通に学校に通えるまでになっていた。

そしていつものように授業も終わり、帰ろうとすると
校門を出たあたりで茶髪に染めたガラの悪い男が雅民を呼び止めた
「…なにか?」
「おう、金だせや。知ってんだぜ、お前んとこ金持ちだってな」
同じ制服を着たその男はげらげらと笑って、威嚇する
次の瞬間、柾民は素早く鞄からスタンガンを取り出して、その男の腹に押し当てた

ばちいっ

「うぎゃあああぁぁ」
いきなり十万ボルトを喰らった男はその場にくずおれた

しかし雅民は更に鉄の棒を取り出し、何度も何度もそのうずくまった男を叩きつける
隙のないイイ攻撃だ
「ふははは、どうだ、この悪漢めっ。隙なんかみせないぞっ、騙されないぞっ」
「ひいいいぃぃ、す、すいません。い、痛いっ。も、もうかんべんして…」
泣きながら許しを請うそのカツアゲ男を雅民は容赦なく叩き続ける
「ふははは、ふははははあっ!」

その様子を遠巻きにして見守っていた執事の鷲尾は、そっとハンカチであふれ出た涙をぬぐった
「坊ちゃま、すっかりたくましくなられて…」

よけい悪くなったような…



アメリカンジョーク

管理人:アリマサ
mini.013

デ・ダナンの作戦室にミスリル兵士たちが集い、指揮官が緊急任務の作戦を伝えていた
相良宗介も緊急招集で東京から急遽ここに戻ってきていた

少佐のカリーニンが作戦全般を告げる
「今回の作戦は、アメリカに潜入している敵兵の暗殺。その敵は単独、そして変装が得意とするそうだ」
兵士たちに作戦内容の書かれた紙が配られる。敵の顔写真は無かった

「君たちの任務は、単独行動で一般市民に変装している敵兵を見つけ出し、迅速に抹殺することだ」
「その変装得意とやらの敵をどうやって見破るんだ?」
隊員の一人がそう口に出した
「それは各々の判断に任せる。怪しい、異常な奴だということを目安にしておけ。そして君たちは一般市民に扮装して特定ポイントに紛れ込み、普通の人を装っておけばいい。そうしたフリをしながら敵を見破り、敵と判断した場合迅速に抹殺すればいい。では、健闘を祈る」
説明が終わると、隊員たちはECS搭載のヘリでアメリカの特定ポイントに送り込まれた

宗介は少しラフな服装とサングラスという変装で、飲食店の多い地帯に下ろされた
すぐにあたりを警戒するが、金髪アメリカ人が飲食店で軽くメシを食ったりしているだけだった
(とりあえず民間人を装わなくてはな)

近くの店に行って、店員に話し掛ける
「ホットドッグをひとつくれ」
「へい、まいど」
手早く包みのホットドッグが手渡される
宗介はそれを受け取ると、代金を払ってそれにぱくりとかじりついた
「うむ、うまい」
ケチャップとマスタードがイイ感じだ。ボリュームもあるし、さすがはアメリカだな。

黙々と食べていると、不意に誰かに肩をポンと叩かれた
(敵か?)
銃をしまっている方の腰に手を当て、戦闘態勢をとる。
だがその相手は、それに気づく様子もなく、陽気に話し掛けてきた
「ヘイ、ちょっと聞いてくれよ」
「…なんだ?」
すぐに相手を観察する。
金髪アメリカ人で、少し太りめの体型に派手なシャツ
そういえばアメリカ人は知らない人にも気軽に声をかけるらしいな

その男は勝手に話を進めた
「例えばさっきそこで女の子が泣いていたとするぜ」
「…ああ」
とりあえず調子を合わせておく
「するとさ、キミはどうする?」
いきなり話をふっかけられてどうもこうもないと思うが、とりあえず応えておく
「…ポリスに任せる」
そう言うと、そのアメリカ人は突然腹を抱えて笑い出した
「HAHAHA! ユニークで最高! でもな、オレはさらに一味違うぜ」

そのアメリカ人は指をチッチッチと振り、勝手に一人芝居を始めた
「やあ、そこのかわいいお嬢ちゃん。なにかお困りで?」
「…ええ、実はどのホットドッグが美味しいのか分からないの」
「OH! 味覚障害とかいうやつかい?」
「なにいってんの、あたしの舌は天下一品よ。そうじゃなくてどの店のホットドッグが美味しいのかが分からなくて困ってるのよ」
「ヘイ! それならオススメがあるぜ」
「あら、それはどれかしら?」

「でよ、そこで俺はなにを紹介してやったと思う?」
「知らん」
いきなり質問されたが、宗介はそれだけ答える

そのアメリカ人は聞いていないのか、話を更に続ける
「そこでオレはこう言ってやったんだ」
「『ホットドッグばかり食い続けてるオレの腹の肉が最高のモノさ』ってな。そうしたらその女の子、こう言ったんだ。『たしかにあなたの肉は最高級だけど、賞味期限が切れてるわ』ってな。HAHAHA! ジョークさ、アメリカンジョークだよ、HAHAHA!

宗介は迷わず取り出した銃を相手の頭に合わせ、
ぱんッ ぱんッ ぱんッ ぱんッ

この話自体がジョーク



砂浜での出来事

管理人:アリマサ
mini.014

宗介は千鳥や恭子、小野寺や風間など、クラスメートたちと海に遊びにきていた

その砂浜で、千鳥たちが宗介を砂浜の上にあおむけに寝かせ、彼の体を砂で埋めていく
宗介にはこれがなんなのか分からなかったが、これも一般市民の遊びのひとつらしい

そうして宗介は顔以外、すべて砂で埋もれてしまった
それにしても、かなりの砂の山である。つい調子にのって砂をかけすぎたようだ
「あはは、かけすぎー」
女子たちが、こんもりとできあがった砂山を見て笑う

そこに、常盤恭子がみんなに声をかけた
「ね、向こうの海の家でさ、スイカ食べない? すんごい美味しいらしいよー」
「おぉ、行こうぜ行こうぜ」
小野寺もじゅるりとよだれを垂らし、一斉にみんなで「わあー」と海の家に向かって走り出した



「んー、美味しい」
「ホント、うめえなあ、これ」
噂どおり、ここのスイカはなかなかいけるようだ。みんな幸せ満足な顔で、そのスイカを食っていく
その時、風間があることに気がついた
「…あれ? 相良くんは?」



「むう……」
砂浜で一人、宗介はうなった
どうも、みんなに置いていかれたままだったらしい
宗介はもういいかげんその砂山から脱出しようとしたが…
「ぬ…抜けん…」
意外とその砂山は重かった
体にそれほど圧迫感はないのだが、起き上がるどころか、腕一本動かせない
「まいった…まさか拘束されるとは…」
手榴弾を使おうにも、腕が動かないのでは使えようも無い。となると…
誰かに助けてもらうしかないだろう

ちょうど、数人の子供が通りかかった
「そこの子供、すまないが俺をこの砂山から解放してくれないだろうか」
するとその幼児は、宗介の周りを興味深そうに取り囲んだ
「お兄ちゃん、何やってんのー?」
「うむ。思いもがけぬところで砂山に拘束されてしまったのだ」
「あはは、バッカでー」
すると幼児は、手に持っていた貝殻を、宗介の顔にぺたぺたと貼っていく
「む…何をする?」
「お兄ちゃんにあげるよー。あははー」
幼児たちは貝殻をほっぺなどにつけていくと、またどこかへ走っていってしまった

「むう…交渉失敗か…。やはり報酬とかを告げたほうがいいようだな」
顔面のあちこちに貝殻をつけられたまま、宗介は真顔で考えた

すると、こんどは二人の水着女性が通りかかる
「そこの女。すまないが、俺をこの砂山から解放してくれないだろうか」
その女性二人は、砂山に埋もれている男をみるなり、どこか嫌そうな顔をした
それはそうだろう。その男は顔面に貝殻を乗せ、砂山に埋もれた状態から首だけをこっちに向けて話し掛けられたのだから
「…なにそれ? 新手のナンパ?」
「難破? いや、難破はしてない。拘束されてしまっただけだ」
「…………」
理解できない、といった顔をする二人。

そこに、宗介が慎重に言い出した
「…解放してくれたら、報酬をやろう」
「えっ。なに? いくらくれんの?」
ぱっと顔を明るくする二人
「いや、お金よりも貴重なものだ。おそらく君らでは入手不可能な代物だ」
「えーっ。なになに? 教えて教えて」
宗介は一呼吸置いて、答えた
「……熊を一撃で仕留めれる銃をやろう」
ぐしゃっ!
女性たちは、その男を踏み潰すと、怒ったように向こうへと行ってしまった

「ぐぶ……」
顔面の貝殻も割れ、少々砂もかぶってしまった
「くそ…素人には入手の難しい強力な銃をやろうとしたのに…」

とにかくこのままでは体がもたない。
じりじりと太陽熱が砂を暖めていくのだ

そこに、やっとビキニ姿の千鳥かなめが戻ってきた。なぜか彼女一人だけだったが
「あんた、まだそこだったの?」
「助かった、千鳥。すぐに砂山をどかしてくれ」
すると、かなめは「にひ」と笑って、その砂山に馬乗りになった
「…千鳥?」
そして宗介のほっぺをくい、とつねる
「あはは」
「千鳥…やめてくれ」
それでも彼女はやめず、そのつまんだほっぺを上下に、左右にぐりぐりと動かして遊ぶ
「あははー、変な顔ー」
「千鳥…頼む…助けてくれ」
すると千鳥はわざとらしくあごに指をつけ、考えるポーズをつくった
「んー、どーしよっかなー」
そして、なにかを提案したらしく、にまっと笑って言った
「そうだ。んじゃねー、明日からは武器を学校に持ちこまないって約束してくれたら助けてあげるよー」
「そ…そんなことはできん」
だがかなめは聞いてないようで、まだ続けている
「それからねー、トイレ掃除一ヶ月代わってもらって、あと、パンを代わりに買っていってもらったり…」

砂山に埋もれたままの宗介は一人、力なくつぶやいた
「たのむ…助けてくれ…」

楽しいひととき?



ゆけ! ガウルンロボ!

管理人:アリマサ
mini.015

これはドラマガでやっている特典カードの4コマキャラの『ガウるん君』(ガウルンロボット)カードイラストからネタ利用


ガウルンは自爆した

しかし、その事故処理の担当研究所がそのガウルンの肉片から再生し、足りない部分を機械で補った
そして彼は、望みもしないのにガウルンロボとして復活したのだ

「ぬぅ…俺は一体…?」
研究所の一室でガウルンは目覚めると、状況を把握するため、辺りを見回す

真っ白な部屋。ベッド以外、怪しげな機械が並べられてるだけで何も無かった
ガウルンは自分の体に違和感を持ち、自分の手を見てみる
「なんだ、これは」
手が、機械になっている。ブリキロボみたいに単純な二本指の手。体も金属製になってしまっていた
「俺は…死んだはずではないのか?」
すると、天井から研究所の博士と名乗る男がスピーカー越しに話し掛けてきた
『君は一時期死んだ。が、私の科学力で蘇らせた』
「…なぜ、俺を?」
『人選はどうでもいい。新鮮な死体が欲しかっただけだ』
ガウルンに負けず劣らず、冷たい声だった
「そう…ピー…か。……ん? 今、しゃべり方がおかしくならなかったか?」
『おそらく君の意識が、機械に支配されてきてるんだろう。そのうち君は完全なロボットになる。そしてボクの実験体として過ごすんだ』
「冗談じゃねえよ」
次の瞬間、ガウルンの体から銃器類が飛び出し、辺りの研究所を破壊した

その研究所から抜け出したガウルンは、残りわずかな人間の意識で考えた
「…カシムに会いてえなあ。あいつを殺してえ。クックック、東京へ行って、殺して…ピー…やる。…急がないとな」
カタカタカタと音をたて、彼は急いで東京へ行った



数日後、ガウルンロボはようやく東京に着いた

途中、オズの魔法使いに仲間にされそうになったり、どこかの青ダヌキのロボットと間違われてのび太くんとやらにしがみつかれたり、サラ・コナーに「おのれ、ターミネーターめぇっ」とか叫んでいきなり銃を撃たれたり…

とにかく大変な道のりだったが、ようやくカシムのいる東京にたどりついた
「データによると…ピーガガ…ここの喫茶店がカシムのよく行く…ガーガー…喫茶店らしいな。ここで待ち伏せして…ピーピー…カシムを殺してやる。クックック、待ってろよ、カシム…ピーピー…くそ、急がねぇと、意識が…」



さらに数日後

相良宗介は千鳥かなめと、とある喫茶店に入った
すると、その二人をガウルンロボがお迎えする
(ガウルン?)
そのロボットの顔を見るなり宗介は銃を引き抜いた
が、そのロボットは止まらず、二人の前にくると、丁寧に話し掛けてきた
「イラッシャイマセ、何名様デショウカ」
「あら、ウェイターロボット? うん、二名様で」
かなめが言うと、そのロボットはテーブルの席まで案内する
「コチラヘドウゾ」
(…ガウルンではない…か。殺気も感じられないしな)
宗介は銃をしまい直し、かなめとその席に着いた

「メニューハ、ナニニイタシマショウ?」
かなめと宗介がメニューを注文すると、ロボットは頭を下げて告げた
「デハ、少々オ待チ下サイ」
カタカタカタと音を立てて、ガウルンロボはキッチンへと向かった

一足遅かったみたいね



ふもっふ 2

管理人:アリマサ
mini.016

これはミニふるめたのmini.009「ふもっふ」の続きです


とある家庭の親父は、ボン太くんスーツを身にまとったまま、今日の朝刊を読んでいた

すると、台所からいつものかわいらしい声がする。妻の声だ
「ふもっふぅ〜(あなた、ご飯よー)」
「ふもっふ(ああ、分かった)」
親父は新聞を折り畳むと、腰を上げ、妻と子供の待つ台所へと向かう

「ふもふもー(おはよう、パパ)」
愛しい息子は、ボン太くんスーツ越しにいつもの挨拶をする
「ふも(ああ、おはよう)」
ボン太くんを着ている妻もご飯をよそうと、椅子に座る
三人のボン太くんが台所にそろうと、手を合わせて
「ふもっふ(いただきまーす)」

「ふもふもー(ねえ、お母さん。今日友達と遊んでくるからおこづかいちょうだい)
子供は卵焼きを口にほおばりながら、母に頼みごとをする
「ふもー(えー、こないだもあげたばっかりじゃない)」
不満な声で反論する母。親父はからからと笑った
「ふもっふも(はっはっは。まあいいじゃないか)。ふも……ガガ…ふ…ふも…(子供は………あ…あれ?)」
なぜか声の通りが悪くなる。親父はボン太くんスーツの頭部を外してみた

「ふも?(どうしたの? あなた)」
「あれ? ボイス機能が故障しちゃったのかな?」
あまり機械に詳しくない親父ではどうしようもない。とりあえずボン太くんスーツを外し、食事を再開する
「ふもっふー(大丈夫? パパ)」
「ふもふも…(また後でセガール社に見てもらいましょ)」
二人は心配そうに親父を見て話し掛ける。

だが、
(わ…分からん…)
そういえばボン太くんの頭部がボイスチェンジャー機能の他に、通訳機能も兼ね備えていたな。

ボン太くん語はボン太くんの頭部についた機械がないと、理解するのはできないのだ
そんな不便なものがなぜ一人一着まで流行ったのかというと、それを上回る便利さがあるからだった。
ボン太くんスーツについた生活機能は今や欠かせないところにまで浸透しているのだ

とりあえず親父は箸をすすめる
すると、妻が親父の顔をのぞきこんで言った
「ふもっふぅ?(あなた、今日のご飯はおいしい?)」
親父は、これだけはなんて言ってるのかは分かる
この時間帯にいつも決まって「おいしい?」と聞いてくるからだ
(ええと…「おいしいよ」って、ボン太くん語でどう言えばいいんだったっけか…)
ボン太くんスーツを身につけている人には、ボン太くん語しか通用しないのだ
「…ふもっふ」
そう言ってみたとたん、妻は「がたっ」と立ち上がって、もこもこした手で親父の頭にチョップをくらわせた
どごおんっ!!
「ごぶおおっ!!」
親父の顔面が、強くテーブルに叩きつけられた

なんとか起き上がると、親父はかすれた声で言った
「お…お前、腕力強化機能をレベル3くらいに上げてるだろ…?」
「ふもっふぅ〜?(なに言ってるのかよく分からないわ?)」
「大体なんでいきなり叩いてきたんだ?」
「ふもっふ、ふもっふー(だってあなたがいきなり『けっ、こんなマズイもん食ってやってんだ、ありがたいと思えよわははは』って言い出すんですもの)」
「ふもっふぅー(そうだよパパ、ひどいよ)」
「…………」
(やっぱりなんて言ってるのか分からないが、どうやらさっきの「おいしい」を間違えたのかな?)
くそっ、やっぱり『ボン太くん語ガイドブック』を買っとくんだった

すると妻は親父の襟首をつかみ、
「ふもっふ、ふもっ!(さあ、なんとか言ったらどうなのっ?)」
どうやら謝罪かなにかでも求めているのだろうか?
とりあえず親父は「ごめん」を言おうとした
「えーと……ふもっ」

すると妻は跳躍し、体勢を変えて空中回転蹴りを親父のどてっ腹にくらわせた
どごむっ!!
脚力強化をしてあったらしく、親父は向こうの壁にまで吹っ飛ばされた
「ふもっふ、ふも〜っ!!(あなた、今なんて言った?『てめえのような女なんぞそこいらにいるよ。まったくブスな妻を持っちまったよ、やれやれ』ですって? ひどいわっ!!)」
「ふもっふ!(そうだよパパ、ひどいよ)」

壁に叩きつけられた親父は力なくつぶやいた
「…だからなに言ってんのかわかんねーって…」

ふもっふぅ〜、ふもっ



アルの提案

3000ヒットを獲得した風水流梨さんのリクエスト
mini.017

相良宗介はメリダ島に帰還していた

今日は定期的なメンテナンス・点検があるのだ

宗介は<アーバレスト>の調子を確かめることになっていた
だが、彼はあまり乗り気ではない。少し前に、気を落とすようなことがあったのだ
それでもとりあえず、彼は<アーバレスト>のコックピットを開き、中に入る

すると、アーバレストのAI・アルが話し掛けてきた
<ようこそ、軍曹殿。現状においてのチェック・モードを実行させますか?>
「好きにしろ」
そう言ってから、宗介は「はあ」とため息をついた
<…元気がありませんね、軍曹殿>
宗介の様子を見て、アルはモード移行を中断し、話し掛けてくる
「ほっといてくれ」
<…そうだ、心理ゲームでもやってみませんか?>
いきなり提案して、ディスプレイの画面表示を切り替える
「…心理ゲームだと? ふん、機械なんぞにわかるものか。まあいい、やってみろ」

すると、画面には一匹の鎖に繋がれた犬と、その飼い主らしき女の子の姿が映し出された
<では、今からお話を聞かせますので、よく聞いていてください。最後に問題を出しますから>
「…ちょっと待て。なぜ犬の顔が俺と同じなのだ? それに、その女は千鳥にそっくりなのだが…」
<まあ気になさらずに。モデルがないので記憶装置に残ってる映像を使わせてもらってるんです。…細かいんだから…>
最後は小声だったが、宗介は聞き漏らさなかった
「待て。貴様、今なんて言った? …まあいい、続けろ」

<では始めますよ。…『犬ソースケと、飼い主千鳥かなめがおりました。飼い主のかなめは犬ソースケにエサを与えます。さて、差し出されたそのエサ。あなたが犬ソースケならどうしますか?>
「…そのエサに毒が仕込まれていないか、しっかり匂いで嗅ぎ分ける」
<ぷっ…。嘘ばっかり>
「なんだと? ではなにが本当だというんだ?」
<本当はすぐに飛びついて、シッポをぱたぱたと振り、「うまい」と一言漏らすのです>
「…………」

すると画面のモニターに、かなめの差し出したエサに、犬ソースケがシッポをぱたぱたと振ってかぶりつくシーンが流れる
宗介は、なにかが切れてしまいそうになったが、それはなんとかこらえた

「…とにかく、これはゲームのはずだな? 結果はどう出たんだ?」
<はい、心理分析を行い、ひとつの結果が打ち出されました。その結果は、あなたの現状においての悩みに反映されています>
「なんだと? 今ので俺の悩みを見抜いたというのか?」
<はい。先ほどの問題は回答者の心理状態を分析するための質問データであり、そのプロセスは…>
その説明をろくに聞かず、宗介は鼻で笑ってやった
「…ふん、機械ごときが俺の悩みの原因を分析できるだと? あいにくだが俺はそこまで単純ではない」
<では、結果データを出しますか?>
「…やってみろ」

そのディスプレイの画面に、千鳥かなめの人形と相良宗介の人形姿が映し出された
背景はかなめの部屋だ。そして二人の前に、手作り料理が並べられている
かなめ人形が言う
「なんか、うまくできたね」
宗介人形がこくりとうなずく。
今回は、二人一緒に料理をつくることになったのだ。
その料理とは、天ぷらという
からっと揚がった野菜や芋のできに、かなめ人形は満足する
すると、揚がった天ぷらのそのうちのひとつを見て、かなめ人形は眉をひそめる
「ちょっと、なによこの緑色のモノは…」
そう言って、箸でそれをつまんでみる
その中身は、手榴弾だった
「あ…あんた、なんてことすんのよっ。手榴弾が揚がっちゃったじゃないの」
「うむ、からっと揚がったな」
「…言っとくけど、あんたが食べなさいよ。いいわね?」
「そ…そんな…」
すると宗介人形はさっと席を外し、部屋を出ようとした
「あっ、ちょっと、逃げる気っ? この…卑怯者っ!」
「ひ…卑怯者? お…俺は…卑怯者じゃないいっ!!」
宗介人形はそれだけ言い残して、部屋から脱出した


「そ…そんな…ここまで分かるなんて…俺は…そんなに単純だというのか? …もういい、やめろ。早くそのモニターを消してくれ…」
くそう! お…俺は卑怯者じゃないいぃぃっ!!
宗介はたまらずコックピットを飛び出し、悔し涙を流して自室へと走り去ってしまった


アルが一人つぶやく
<…まあ実はとっくに数時間前のデータが送られてきたので知ってたんですけどね>
するとアルは次のメンテナンスのために、待機モードに移った
<…さて、次のデータが楽しみです>

アル…悪どい…



新入生勧誘

管理人:アリマサ
mini.018

うららかな春。

陣代高校も4月をむかえ、新入生がたくさん出入りする校門では、いろんなクラブが新入生勧誘のためにあちこち呼びかけている


新入生たちは、どれに入ろうか迷っている。スポーツしてみたいが、ちょっと怖いところとかは遠慮したいなあとか、いろいろな思惑が飛び交っていた
そんな彼らの目に止まったのは、ラグビー部
彼らはゴツイ体を持っているのに、にこにこと穏やかな笑顔で迎えている
違った意味で気になった新入生たちは、なんとなくラグビー部の元に集まっていく

ラグビー部の元にある程度新入生が集まると、みんなを部室に案内した
そこに入ってみた新入生たちは、これまた驚きの声をあげる
「おお…なんてさっぱりとした清潔感あふれる部室なんだ…」
隅々までていねいに清掃されており、木目調の調度類と籐家具に、いくつもの観葉植物。壁には印象派の絵画の絵はがきが、上品に散りばめられていた。部屋の照明は柔らかく明るく、いる者の心を和ませる。
清潔なテーブルの上には、新入生のための紅茶がいくつも用意されていた

当然新入生たちは戸惑いと困惑を見せ、うろたえる
「あ…あの。ここ、ラグビー部ですよね?」
「ええ、そうですよ。ここは慈愛と平和を愛する陣代高校ラグビー部です」
部長の郷田優がそう言って、新入生のみんなを椅子に座らせる
「ささ、これでも…」
丁寧に紅茶を薦め、新入生はおそるおそる口に運ぶ
「…わあ、美味い」
「そうでしょう、そうでしょう。この紅茶の味には自信があるんですよ」

半分ほど飲み終えて、新入生たちの一人が質問する
「いつもどういう感じで活動をしてるんですか?」
「…そうですね、部室棟の修繕やグラウンドの整備とか、かわいいウサギの面倒をみたりとか…」
「地元の子供たちと遊んであげたり、孤独なお年寄りの家を訪問したりとかもしてるんですよ」
他のラグビー部員も割り込んで、そう付け加える
「へえ、立派ですねえ。なんだかいいですねえ、ここ」
「ええ、そうでしょう。人に、自分に、そして地球に優しくするいいクラブです。僕たちはここの部員であることに誇りを持ってます」
すると、新入生たちが心を打たれたのか、涙を流し拍手する
「すばらしいクラブですね。では、そろそろラグビーの練習とか見学してもいいですか?」

その新入生の言葉に、部長の郷田優が時計の方を見た
「おお、そういえばそろそろ練習試合の時間でしたね。では、グラウンドまで案内します」
ラグビー部員たちは新入生たちを引き連れて、ぞろぞろとグラウンドへと向かう
「…では、今から二手に分かれて紅白戦をします。あ、見学はもう少し離れて…危ないですからね」
ラグビー部員たちは二手に分かれ、それぞれのポジジョンについた

ピーー!
ホイッスルが鳴ると、突然部員のみんながぎょろりと目つきを変えた
「うおおおぉぉっ!!」
先陣の部員たちが同時に走り出し、向こうの先陣も走り出し…
いきなりお互い跳躍し、飛び蹴りをくらわせた
がすっ!!
着地と同時に赤組は地面の砂を掴み、相手の目に振りまき、視界を奪ったところに強烈な殺人タックルをぶち当てた
どごむっ!
倒れこんだ相手に、さらに追撃
「ふはははっ、死ね、死ねええぇっ!!」
白組も反撃として、急所のタマ蹴りを執拗に狙いまくる
それに対し、赤組は相手の髪の毛をむんずと引っ張って身動きをとれなくしたところで…
「お…おい、ちょっと待て、郷田っ!」
「がはは…ん? どうした? 石原」
石原は見学場所を指差す。その先には、いつの間にか誰もいなくなっていた
その現状を見た部長の郷田は力なくその場にへたりこんだ
「く…くそう…今年も新入生ゼロか……」

当たり前だ