ミニふるめた


mini001 〜 010

ミニふるめたへ

今そこにある危機

管理人:アリマサ
mini.001

ジリリリリリ  ジリリリリリリ

相良宗介は、トゥアハー・デ・ダナンの自室の電話が鳴り出したのだが、それに出るべきかどうか悩んだ。
この時間帯……。おそらく例の件だろう。
今回も偽りの先約だと告げなければならないと思うと心苦しい

「はい、こちらウルズ7」
「…私だ。…実は、また例のボルシチを作ったのだが」

やはりカリーニンの声だった。
残念ですが…と言おうとすると、珍しく重々しい口調でそれを遮ってきた。
「さきほど調べておいたのだが、兵士全員、相良軍曹と約束していないと報告を受けた。まさかそれでも先約があるとは言わんだろうな?」

ぶっ!! 
いかん、つい…。
なんということだ…先手を取られてしまうとは…
くそ、イヤだ。食べたくない。食べたくない、食べたくない。ああ、胃が痛くなってきたキリキリキリ

「どうした?早く返事しろ。それとも沈黙の了解ということか?」
「いっ、いえ。その、実は。トーキョーの方に先約がありまして」
「トーキョー?カナメのことか?」
「イエス。今晩ご馳走してくれるというので、目一杯腹をすかせておけとのことで」
「そうか、では…」
やった。作戦成功だ。我が胃の死守に成功したぞ。
「ではチドリくんに連絡して確認を取ってみよう」
ぬおぅ、まだ危機は去ってくれないのか。なぜだ、なぜか今回に限ってカリーニン少佐は執拗に迫ってくる

そういえば前は大佐殿がご馳走になったと聞いた
その反応がうれしかったらしく、その後何度も大佐殿を招いているが、大佐殿は常に書類を抱えて
「今忙しいので、すみません」と丁重に断ってるらしいが、それで不満になっているのだろうか?
俺はその大佐殿の抱えてる書類の中身が無いことを知っている。そう、ボルシチ回避用アイテムということだ。うまい手だ。いっそそのことをカリーニン少佐にバラして大佐殿に任せたいところだが、上官は大切にせねばならん。

「えーと、チドリの番号はどこだったかな?」
電話の向こうで紙をめくる音が聞こえる
そうだ、先にこっちがかけてしまえばいいのだ

すばやく携帯で千鳥に連絡をこころみる。
トゥルルル トゥルル…
頼む、早く出てくれ

「はい、ソースケ?」
やったぞ。希望が湧いてきた
「千鳥、急ですまないが、頼みがある。俺に話を合わせてくれないか。あとでお礼はいくらでもする」
「はあ?唐突になに言ってんのよ。昨日のことを謝りにきたわけじゃないの?」
「昨日?ああ、悲鳴がして風呂場に突入すると、虫が這ってただけのあのことか?そういえばあの時千鳥は慌てていたが、裸体を目撃したことなら気にするな。どこにも虫はついていなかった」
「死ね、ばか」
ブツッ ツー ツー
「なぜ切る?千鳥っ。頼む、待ってくれ…」

もう一つの電話の向こうでカリーニンがつぶやく
「おぉ、見つけた。ではチドリくんに連絡をとるか」
もうどうにでもしてくれ…



胃薬装着完了
ええい、たった一杯のスープ、飲み干してやろうではないか。くそ。

がちゃり。
「おお、来たか。今日は、ここ数日溜まってしまったスープを全部出しておいたから、遠慮なく全部食っていきなさい」
千鳥、どうやら俺はここまでのようだ。



「マデューカスさん」
「はっ、なんでしょう。大佐殿」
「ゴールドベリー大尉にベット一つ確保してもらってきてください」
「はい。だれか負傷でも?」
「ええ、もうすぐ。あ、症状は食中毒ということで」

かわいそうに・・



水星先生の授業風景

管理人:アリマサ
mini.002

「いいかね、君たち。今日の美術はこれがモデルだ」
「…それ、なんすか?」
指さすその先には一枚の写真。そして写っているのは水星先生

「今日の君たちに与えられし課題というのは、私という先生を敬う気持ちを純粋なる白のいこごおる紙に描いてみせることだ。しかるに生産者が消費者の下において下すべき審判の…」
「はいはい」
冷ややかに生徒たちが言うと、それぞれが作業にとりかかる。

そんな生徒の横で、まだ説明を続ける水星先生。
「かくいうメロスは火あぶられる豚を食うために地球を半周爆走するのだ。それには美学の隠された垣間見える悪魔が魂を10円置いて「まいど」と奪っていくのと同じなのだ。しかし、原稿料が高すぎることによって築き上げられた歴史のバランスが…」



授業が終わり、作品を提出してぞろぞろと去る生徒たち。
水星先生は生徒が全員退出すると、戸締りして、ぱらぱらと提出された作品をめくってみる。

水星先生の顔が、うまく描かれている。そしてほっぺにぐるぐるナルト、頭にはチューリップがついていたりする。その背景には、馬鹿だの阿呆だの地球外生命体だのキ○ガイだのという文字が飾られている

水星はしばし、目をつむってまた雄弁に一人語る
「かわいいものだ。彼らは表現に見い出すべく思案の道をカオスの混沌から引きずり出し、されどあるべき形にされた赤き翼は…」

これが日常?



宗介の密かな楽しみ

管理人:アリマサ
mini.003

久しぶりに休暇がもらえるとは。

さて、いつもならここで釣りに行くところだが、今回はまたいつものあそこに行くとしよう

東京の泉川商店街のはずれ
そこにある『C&J』に入る。
その前にとりあえずあたりを見回す宗介
よし、だれもいないな。

「いらっしゃいませ、おや、相良さん。今日もいつものやつでいきますか?」
「ああ、頼む」
「はい、どうも。おーい、一名様入りましたー。BG-76コースでいくぞー」
大声で店員たちに告げると、宗介を部屋に案内する。

その部屋は殺風景だが、次第に店の人が偽の銃器類、異様に長い植物などを部屋に持ち込みセットしていく。
「ではこれに着替えて待機してください。じきに役者たちが来ますので」
「うむ」
宗介は渡された迷彩服に着替え、その場に待機する。

さて、今日は誰になることやら。
そわそわしながらもひたすら待つ。


もう分かると思うが、ここは以前、たまたま知った店『C&J』という。正式名称カレッジ&ジャスティス、訳して『勇気と正義』。うむ、いいネーミングだ。
簡単に言えば、正義の味方になりたい客の欲望に応えて、役者たちが悪役に変装し、それを自らの正義で裁けるというすばらしい店だ。
千鳥からは「あんな恥ずかしいとこ二度と行くんじゃないわよ?」と言われてしまったので、こうして店にこっそり通ってるのは俺だけの秘密ということになった。

今回もシチュエーションは『世の中を混乱に陥れようとする間違った上官と正義を信じる下士官』だ。これを選び、あとは役者が独断で悪役になって登場するのを待つだけだ。
どんな格好をした悪役なのかは登場するまで分からない。だがこれも楽しみの一つというものだ。

がちゃり。←ドアの開く音
入ってきたのはここでバイトしている陣代高校の生徒、佐伯恵那だ。そしてその格好は、カーキ色の制服にアッシュブロンドの銀髪のカツラ。しっかり三つ編みである。
がたたっ!
「? どうしたんです? 相良くん。いえ、お客様」
「た…大佐殿?」
このつぶやきを、恵那は『ああすでに芝居が始まってるのか』と解釈した。

「サガラ軍曹! 早く席に着きなさい! 命令です!」
「は…はっ! イエス、サー!」
素早く近くの椅子に座る。
「よろしい、では今回の作戦を伝えます」
「は…はい」
「今回はここのポイントを攻めるため、この地点の村の村人を一人残らず殺すように! 赤子も殺すんですよ」
テッサ大佐によく似た恵那が地図を指さし、非人道的な命令を下す。そしてここで、宗介は正義のために上官に逆らい、殴り倒すところなのだが。
「あ…あの、大佐殿の判断はこう…どうかなあ…と…思うの…ですが」
びっしり脂汗を流し、縮こまった感じでぎくしゃくと言う。
だが彼女はそんな彼の様子すら演技だと思い込み、すっかり芝居に夢中になる。
「うん? 今なにか聞こえたようですが、そこ、なにか反論でもあるのですか? この上官の私の意見に? あるというのなら言ってみなさい!」
「…いえ、その…」
「なんです? はっきり言ってみなさい! 私に文句があるんですんねっ?」
「その…」
「文句があるというのなら、私をはっ倒してみなさい。もっとも、そこまでの度胸があったらの話ですが」

そうだ、いつもどおり、一発殴って正義のなんたるかを言ってやればいい。そう、これは演技なんだ。目の前にいるのは大佐殿ではない。
宗介は、胸をはって目の前の悪役をキッと睨みつける。
その視界に入るのは、アッシュブロンドの三つ編みにカーキ色の制服。やはり大佐殿だ…。
「え…と。…その…」
「さあ、どうなのっ? 文句あるのっ? 私を殴るのっ?」
「あ…あの、どうかもうカンベンしてくださ…」
「どっちっ!?」
うあああああぁぁぁぁ!!

この日、宗介は癒されることはなかったという

さて、どっちを選んだことやら



とある工場で

管理人:アリマサ
mini.004

わびしい一つの工場
その工場はおじいさんとおばあさんの二人だけで支えていた
だが最近、流行がすぎたのか、注文数も少なくて不景気にあおられていた。

「ええと、今日の注文数はいくつだったかな、ばあさんや」
「今日は十個もきてますよ」
「ほほう、珍しく多いんじゃのう」
おじいさんが、嬉しそうに笑う。
「ええ、しかもたった一人の方がその数を頼んでくれました」
「ということは、またあの子かい?」
そう言われて、おばあさんは一枚の注文書を読んでみる。
「ええ、またあの子ですよ。千鳥かなめさんで」
「最近あの子のおかげで仕事があってうれしいのう」
「ええ、ほんに…」

「ところで、そんなに一体なにに使うんじゃろうか?」
そう言われ、おばあさんは注文書の使用目的の欄を読んでみる
『暴走男を鎮圧させるため』と書いてますねぇ」
「暴走男…物騒じゃのう。その子は婦警かなんかじゃろうかのう」
「さあ、でも正義の心をもついい子でしょうね」

すると、おじいさんがにやりと笑い、うれしそうに言う。
「実はのう、ばあさん」
「なんじゃ?」
「前からあの子の力になりたくてな。ついこういうハリセンをつくってしもうた」
そう言っておもむろに硬そうなハリセンを出してみせる
「新型ハリセンですか」
「そう、材質は合金メタンでな。しなりもいいし、破壊力ばつぐんじゃあ!」
「まあ、おじいさんったら。それならうちのハリセン工場の名として恥ずかしくない一品ですね」
「ふっふっふ。そうじゃろう、そうじゃろう」
おじいさんはうれしそうにそのハリセンを振り回してみる。ごおっと空気を切り裂くようないい音がします。

「実はね、おじいさん」
「なんじゃ?ばあさんや」
「私もこういうの作ってみました」
するとおばあさんは金属製のハリセンを取り出しました。その金属には、肉眼でも見えるほどのすさまじい電気がビリビリと流れています
「ほう、ばあさんも作っておったか。それにしてもすごい電力じゃのう。いったい何万ボルトなんじゃ?」
「ふふ、秘密ですよ、おじいさん」

「ばあさんもやるのう。それならわしはとっておきのものを出してしまおう。…これじゃ!」
するとおじいさんは、また別のハリセンを取り出します。ですが、見かけは普通のハリセンです。
「はあ、これがですか。それで、どういうものなんですか?」
「うむ。このハリセンには恐るべき魔力が込められていてな。これで相手を叩いた瞬間に魔力が発動して炎龍が召喚されてな、相手を喰ってくれるのじゃ」
「まあ、それは頼もしいですねえ」
「そうじゃろう。これならかなめちゃんの期待に応えられるはずじゃろう」
「役立ってくれるといいですねえ」
「ほんになあ…」

暴走男の運命はいかに



アルの助言

管理人:アリマサ
mini.005

ドガガガガ

激しい銃撃戦。ミスリルのM9とアーバレストがどでかい銃を敵の一機に向けて撃ちまくる。
しかし、この相手の装甲はとてつもなく硬く、なかなか傷を負わせることができない。

「ちくしょう、なんて頑丈なんだっ!」
「落ち着きなさい、クルツ。…とはいえ、さすがにこれはまいったわね。一斉放射かましてんのに倒せないなんて」
マオでさえ、お手上げになるほど丈夫な敵の装甲。となれば、
「俺に任せろ」
ここは宗介のアーバレストに搭載されているラムダドライバで攻撃するしかないだろう。
「ええ、ここは任せたわ」
M9は邪魔にならないよう、そこから離れた。

「よし、いくぞ…」
その敵に向け、両手を向ける。そして目を閉じ、あの硬い装甲をも貫く砲弾のイメージを頭の中で思い描く。
よし…
「ラムダドライバアアァァ!!」

…だが、なにも起こらなかった。
ど…どういうことだ? またラムダドライバが発動しない…
「おい、アル。応答しろ。なぜラムダドライバが発動しない?」
<それは軍曹、あなたのイメージが貧困だからですよ>
アーバレストのAI、アルが機械音でそう答えてきた。

「貧困だと? ばかな。俺はこう、とんでもないビーム光線が発射されるイメージをしっかりと…」
<そのイメージはナンセンスです。軍曹殿には軍曹殿に合った怒りのイメージがあると思われます>
「それはどういう意味だ?」
<砲弾をイメージするのではなく、相手を倒そうとする感覚に近い、恨みというか怒りをぶつけることが重要となります>
「そう言われても、急に怒ることなどできん」
<そんなんだからいつも無表情だの無愛想だのと言われるんですよ>
「黙れ。…というか、なぜ貴様がそれを知っている?」
<あなたと一体化するために、いろいろとあなたのデータが送られてくるんですよ。ええ、それはもうこっちが赤面してしまうくらい恥ずかしいものまで>
なんなのか知らんが、あとで初期化しておこう。まあそれよりこっちを倒すことが最優先だ。

「それで、どうすればいい?」
<ではこうしましょう。私がイメージの手助けをしますので、軍曹殿は目をつぶり、私の言うことを集中して聴いていてください>
「よし、聞いていればいいんだな」
<肯定です。ではいきますよ>
宗介は目を閉じ、聴覚に集中した。

<相良軍曹! 今日から一緒に暮らすことになったマデューカスだ。よろしく(マデューカスの声色で)>
うわあああぁぁぁ!!
ラムダドライバ発動。それは敵の装甲の外壁をみるみるうちに剥がしていく。
<いい調子です。あと一歩で倒せますよ。では続いて>
するとまた声色が変わる。それは思い出したくも無い、ガウルンの声だった。
<ハア、ハア、ハア。お…俺、興奮しちまうよぉカシムぅ。見ろよこれぇ。俺が作った手作りのカシム人形だよ。俺いつも朝はこの人形にキスしてんだぁ。クックック。たまんねぇよぉ、この愛しいツラがよぉ。夜はほおずりして一緒に横になって寝てるんだぁ。あぁ、最高だよ、カシムぅ>
うああああぁぁぁっっ!!
大地が震え、天を貫くような光線が敵を完全に貫き、粉砕した。

アルが報告する。
<敵機、完全撃破を確認。軍曹殿、さきほどのラムダドライバの威力は見事でした。その威力は過去最高のものです>
だが宗介はディスプレイに頭突きなどをかましている。
うあああぁぁ! うああぁぁ!!
<危険、軍曹殿が発狂しました。繰り返します、軍曹殿が…>

・・アル



禁じられた本

管理人:アリマサ
mini.006
これは「あてにならない六法全書」に収録されている「的はずれのエモーション」の続きという設定です


こうして誤解が誤解を招き、最終的に『相良・椿ラブラブ疑惑』で終わってしまった。
そうして二週間たったが、いまだにその噂がひっそりと残っていた

キーン コーン カーン コーン
チャイムがなり、授業が終わって生徒たちがわいわいとおしゃべりを始める。
椿一成は席を立ち、トイレに行こうと教室を出ようとした。
そこに、教室の隅に一冊のノートが落ちているのを発見した。

「あん? だれか落としちまったのか?」
彼はそのノートを拾い上げ、裏側を見てみたが持ち主の名前は書いてない
「…字でわかるかな?」
そのノートをぱらぱらとめくり、文字の特徴を確かめようとする
「……ん?」
それはくりくりしたかわいい文字だった。このノートの持ち主は女だろう。
だが、問題は書かれている内容にあった。
なぜか『椿 一成』という字が入っているのだ
「…なんでオレの名が?」
悪いと思いつつ、もっとよく内容を読んでみる

「オレは…もうアイツのことしか考えられない…。アイツのことばかりが気になって夜も眠れない…」
椿一成はベッドの上でふっとため息を漏らすばかり…
「イケナイ事だとは分かってるんだ…。でも、この気持ちは押さえられない…。好きなんだ…たまらなく…」
ぎゅっと一枚の写真を握りしめ、ついに彼はつぶやいた
「好きだ…相良…」


「うわあああぁぁっ!!」
な、なんだこれはっ? 
だ…誰がこんなものを?
これが俗にいう同人誌というやつなのかっ?  
ウチのクラスの女子がこんな恐ろしいものを書いてやがるのか?

い…一体ラストは…どうなってんだ?
震えるその手を必死で押さえ、ごくりと生唾を飲み、最後あたりのページを開く

服を脱いだ相良が、ベッドの上で一成を脱がしにかかる
引き締まった体があらわになった
「さ…相良…」
「椿…いいよな?」
相良の手が椿の肌に触れる。
「うぅ…さ…相良…。…好きだ…」
「俺もだ、椿。もう一生離れない」
相良の手は椿の胸から徐々に下に移動して…


「うごおえっ!」

そのまま椿はその場に倒れてしまった
「うわあ、椿のやつが泡吹いて倒れたぞっ!」
「救急車呼べ! 救急車だっ」

椿は泡を吹いて悶絶し、そのまま救急車に運ばれていったそうな
アリマサも倒れそう



セイラーとタケナカ

管理人:アリマサ
mini.007

アメリカ海軍潜水艦<パサデナ>
そこの艦長のセイラーと副長のタケナカが艦内の食堂でいつものようにメシを食っていた

「ぬぅ、これは…」
肉を噛みしめたセイラーが、突然目を皿のようにしてうなった
「どうかしましたか? 艦長」
一応タケナカが聞いてみる
「おい、タケナカ。このハンバーグを食ってみろ」
「はあ…」
タケナカもその皿からハンバーグを取り、口に入れる

「…これがどうかしましたか?」
「ふん、貴様には分からんか。この肉の素材、にじみ出る肉汁…」
「まあ、そこそこにうまいとは思いますが…」
「はん、可哀想にな。この素晴らしさがわからんとは」
「まるで分かりませんね。別段普通な味だと思いますが」
「貴様の舌は腐り果てて海の底に沈んだようだな、まったく可哀想に」

セイラーはわざとらしく肩をすくめてみせると、前のめりになって説明をはじめた
「いいか、タケナカ。このハンバーグはな、とてつもない隠し素材が使われているのだ。ふっふ、知らなかっただろう」
「…どこからそういう根拠がくるんです?」
「ふん、教えてやろう。これは俺のお袋のハンバーグなのだ。間違いない」
「……? まったくもって意味がわかりません」
「これは俺のお袋のハンバーグと寸分違わぬ味なのだ。小さい頃の俺はその美味さに感動してな。『いろいろ手伝ってくれたらハンバーグを作ってあげるよ』と言ってくれたので、あの頃はよくお手伝いをしたものだ」
「…どういうことしたんですか?」
「買い物はもちろん、洗濯や皿洗い。雨が降ると代わりに傘をもって親父を迎えにいったり、いろいろだ」
「ずいぶんいいように扱われてますね」
「一番つらかったのはクリスマスプレゼントを我慢せねばならんことだったな」
「よくそこまでできましたね」
「それほどにあのハンバーグは魅力的だったのだ」
しばしセイラーは目をつむり、想いふける

「ある日、そのハンバーグはどうしてそんなに美味しいの? と聞いてみたことがある」
「…なんて言ってきたんです?」
「お袋はこう言った。『セイちゃんには想像つかないすごい隠し素材を使ってるのよ』とだけな」
「…『セイちゃん』って…」
「結局いまでもそれがなんなのか分からないが、偶然にもこのハンバーグがそれとまったく同じ味なのだ」
「…………」
「む? どうした? タケナカ」
「いえ、それならコック長に聞いてみましょうか」
「おう、貴様にしてはいい判断だ」
二人は席を立ち、厨房に入っていった

「ちょっとすまないが…」
声をかけると、コック長はひどく驚いた様子になる
「ど、どうしました? 艦長と副長がこんなところに…」
「少々聞きたいことがありまして…」
タケナカはぺこりと頭を下げてから、続けた
「今日のハンバーグにはなにかすごい隠し素材が使われてるとか…」
「そうだ! なにかとんでもない隠し素材があるんだろう?」
セイラーはいささか興奮したように問い詰める
それに対し、コック長はぶっきらぼうに答えた
「なに言ってんだ? 隠し素材もなにも、これを暖めるだけだ」
と、二人の前に置かれたのはレトルト食品の箱だった。
大きく『10分で簡単にハンバーグ!』と書かれている
「…………」
「…やっぱり」
タケナカがぼそっとつぶやく中、セイラーは呆然とするばかり
「こんな…こんな…」
頭をかかえ、うおおぉぉとうめきまくってしまった。
「…可哀想に」
タケナカはメガネのブリッジをくいっと押し上げる
「聞こえたぞ、貴様! なんだ、その哀れんだような目はっ!! くそっ、くそっ」
セイラーはタケナカの胸ぐらを掴み上げ、またも激しくもみ合った

いつもとかわらぬパサデナの艦は、ゆっくりと海底を航海していた

この二人好きだなあ



宗介の宿命

管理人:アリマサ
mini.008

学校の帰り、相良宗介と千鳥かなめが二人で商店街通りを歩いていると
すれちがった二人の若者が、タバコや紙くずをポイッと投げ捨てた

「む……」
「ん? どしたのソースケ」
すると宗介が突然立ち止まり、胸ポケットからビニール袋を取り出して、そのゴミを迅速に回収した。
「…それどうするつもりなの?」
「ちゃんとゴミ箱に捨てるだけだ」
「…なんでわざわざあんたが?」
「俺はゴミ係だからな」
その発言にかなめは数歩後すざった
「あ…あんた、まだゴミ係をやってたの?」
「肯定だ。それが俺に与えられた職務だからな」
「…………」
かなめはなんとなく気まずくなった。
この男に一方的にゴミ係を押し付けたのは、あたしなのだ
「…あ、あのね…」
しかし宗介はそれを無視して、あたりを見回す
よく見ると、ところどころにタバコや空き缶などいろいろなものがそこらに落ちてたりする
「それにしても…最近俺は学業ばかりでゴミ係というものをおろそかにしてしまっていたようだ…」
悲しげにそれだけつぶやくと、彼は一人どこかへ行ってしまった


それ以来、彼は学校に顔を出さなくなった。
ミスリルにもいないらしく、向こうでも全力で行方を捜しているという


数ヶ月たっても彼は姿をあらわさなかった
「ソースケ…一体どこに行っちゃったのよ…」
かなめは生徒会の一室でため息をつくばかり
その答えは、生徒会室に置かれたテレビのニュースが教えてくれた

『えー、次のニュースです。最近ゴミ問題が深刻化している中、一人の男性がその問題に立ち向かい、今地元では注目されています。彼はなんと『夢の島』に放置されている大量のゴミの大半を独自の処分方法での処理に成功したということです』
そのニュースにかなめが釘付けになる
「ま…まさか…」

『この男性はたった一人でゴミ問題にとりかかり、その功績に対し、市長が彼を讃えようと感謝状を送りました。さらには彼の姿に感動した地元の人々が次々と手伝いはじめ、いまやその数は数万人とも言われています。そんな彼にインタビューすることに成功しました』

そして場面が変わり、夢の島を背景に一人の男が映し出された。
少し薄汚れているが、それは間違いなく相良宗介だった。
リポーターは宗介にマイクを向け、質問する
『この活動をはじめたのはなぜですか?』
『俺はゴミ係だ。その職務を果たしているにすぎん』

護衛は・・



ふもっふ

管理人:アリマサ
mini.009

それはとある工場
そこの工場では宗介と武器商が開発したボン太くんが大量生産されていた。

「でもよー、これって結構使えるのになんで売れ行き悪いんだろうな?」
工場で働く一人の男が言った
「まあ、人気商品も最初はこんなもんさ。そのうちこのボン太くんのすばらしさが分かる日がくるだろうさ」
「そうだな、今でも更なる改良を目指してるっていうしな」
「そうそう、これからこれから」
その場は、軽くはははと笑って終わった


それから数年後

テレビの番組の合間に、いつもの人気のあるCMが流れる
『ソウスキー・セガール社の「ボン太くん」はいかがですか? 着てみるとビックリ! その気温に合わせて中の空調が自動的に快適に。さらにはその愛らしい目を通して数十キロ先の目標物もはっきり見えます。さらに、様々な生活スタイルに合わせてその機能を発揮します。完全生活スタイルになったそのボン太くんのお勧めはなんといってもその愛らしいスタイル。大きい目であなたを魅了します』
そして様々な機能が紹介され、最後に決まり文句が流れる
『爆発的なヒットをもって数々の賞を獲得したボン太くんは、今や家庭に一着どころか、一人一着! さああなたも購入するなら今がチャンス! お求めの番号は…』

どこにでもいる親父はそれを見ながら、タバコをぷかーっと吸い、いつものように新聞を読み始める。
愛らしいボン太くんを身にまといながら
「ふもっふ」

ふもっふ



生きるために

管理人:アリマサ
mini.010

とあるデパートで、相良宗介は千鳥かなめの買い物に付き合っていた

「じゃ、ちょっと服見てくるからここで待ってて」
「了解した」
その山のような荷物を抱えた宗介を置いて、かなめは洋服のコーナーに入っていく。

宗介はその手前でじっと荷物を抱えたまま立っている
すると、その横を小さい子供が泣きながらさまよっていた
それが気になった宗介は、その男の子に声をかけてみた
「…どうした?」
しかし、その子は泣くばかり
「…泣いていてはわからんのだが…」
どうすればいいのかわからず、宗介もうろたえてしまう

だがしだいに泣きつかれたのか、その子は泣くのをやめ、話し掛けてくれた宗介に口を開いた
「…お母さんが…いないの…」
(この子は…孤児なのか…)
「……ッ」

突然真っ暗な風景が宗介の頭の中に映し出された
その闇の中に、小さい頃の俺がいる
光を求めて走り続けるが、どこまでも、どこまでも続く闇
どこに行けばいい? 俺は何をすればいい? 俺には……なにができる?
なにも分からない。小さいその体は無情にも教えてくれはしない
ただ、歩くことしかできない、全てが無力の闇……

宗介はその男の子をそっと抱きしめた
「……俺が…教えてやる」
「…お兄ちゃん?」
すると、かなめが二着ほどかかえて持ってきた

「お待たせ、ソースケ。…って、あら? その子は?」
「親がいないそうだ。だが、心配するな。この子には俺が生きる術を教えてやる」
「……? よくわからないけど、この子は迷子になっちゃったのね」
「迷子? 孤児だろう」
「…なんでそうなるの?」
「俺がそうだったからだ。俺も小さい頃孤児で一人だった。子供というのは一人では生きられない。弱いからな。だが、俺はまだ運がいいほうなのかもしれん。俺には生きる術を教えてくれる人たちがいたからな」
「…昔のゲリラ仲間ってやつ?」
「肯定だ。俺は彼らに生きる術をいろいろと教えてくれた。そうして今の俺がここにいる。彼らなくしてはきっと小さい頃にあっさりと殺られていただろう」
「…………」
「この孤児は俺が面倒を見よう。一人でも生きていけるようにな」

その時、一人の婦女子が子供を見つけると、一目散に走ってきた
「ここにいたの? もう、心配したのよ」
子供もその母親に駆け寄り、ぎゅっと抱きつく。もう、離れないかのように
「もう…勝手にどっか行っちゃダメって言ったのに…」
その子の頭をなでてやると、かなめと宗介に向き直って、ぺこりと頭を下げた
「あの、どうも迷惑をかけてしまって」
丁寧に宗介とかなめになんども頭を下げて、かなめは「いえいえ」と言ってあげると、母親は子供と手をつないで去っていった

それを見送ると、宗介はやっと口を開いた
「……どういうことだ?」
「ああいうのはね、迷子っていって…」
かなめがじっくりその意味を説明してあげると、宗介もちゃんと理解したようで
「そうか…いや、それならいいんだ」
ふっと微笑を浮かべ、うなずいた

「さて、帰ろうか千鳥」
「…ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「…なんだ?」
「ソースケは、今はどうなの? …一人のつもりなの…?」
その問いに、しばし沈黙。
だが、曇りのない表情で、宗介は告げた
「…いや、今の俺には仲間がいる…。一緒の時間を過ごし、お互いの存在を認識し合える仲間が…。俺は…一人ではないだろう。自分の居場所は…ここにある」
ゆっくりと、そう言った

「うん…そうだよ。もう今は、ソースケはクラスの一人…なんだからね」
「うむ。承知している。…さて、明日も小テストがあったな。…帰ろうか、千鳥」
「うん。…あのさ、よかったら今晩一緒に食べていかない? …あたし一人じゃ寂しいからさ」
宗介は少しだけ考えて、こくんとうなずいた
「…そうだな、ではご馳走になろう」
二人はそのまま、家へと向かっていった

たまにはオチなし