受け継がれる瞳

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受け継がれる瞳 2


「テッサ……」

宗介が後ろから呼びかけると、彼女は書類を片手に小さく驚いて振り返った

「ああ、相良さん。戻ってきたんですね、ご苦労様です」

「これから、なにか用事はあるか?」

「ええ。また後ほど遠くに行くんですけれど」

「二人っきりで話がしたいんだが」

「話ですか? 帰ってからでよければ……」

「今すぐ話がしたいんだ」

そう頼み込む宗介の目には、真剣な何かを覚悟したようなものが宿っていた

「……いいでしょう。次の遠出までにはまだ少し時間がありますし」

「助かる」

「どこでしますか?」

「そうだな。どこか二人っきりで話せる個室はないのか」

「でしたら、あちらへ」

テッサが指し示したのは、ロビーから伸びた廊下の奥の右側だった

そこは隊員の部屋として割り当てられる個室なのだが、そこはまだ空いていて使われていなかった

宗介もそこでいいと了承し、二人でその部屋へと向かう

「そういえば、こうしてゆっくり話すのは初めてかもしれませんね」

今までは仕事の報告をしていただけで、それ以外の雑談を交わしたことは一度もない

そうでなくても、テッサは忙しい身で、他の人ともあまり喋るところを見なかった

入った部屋は、使う人がいないせいで、家具がまったくない。灰色の壁と扉、そして会議室にあるのと同じパイプイスひとつだけだった

先にテッサが入り、宗介があとから入る。そしてドアを後ろ手で閉めると、テッサがこっちを振り向こうとした

だが宗介はその前にテッサのおさげを荒々しく掴み、だんっとドアに押し付け、さらに腰後ろに隠していたナイフを眼前に突きつけた

「痛っ! な、なんですか……?」

宗介のいきなりの行動に、テッサは青ざめて身をすくませた

「大きな声を出すな。質問したいだけだ。だが余計な真似をすれば、殺す」

その目が冷徹かつ無機質なものになっているのに気づいて、テッサは涙目になりながらも小さく頷いた

「お前の本当の名前を言え。そしてレナードとの関係を吐くんだ」

その言いようは、疑惑ではなく断言したものだった

テッサの目が驚いたように見開いた。明らかに動揺した素振りだった

「さあ、言え。もう隠し通せんぞ」

ぐいっとおさげを乱暴に引っ張り、憎しみのこもった手つきでナイフの刃を頬に押し当てた

「べ、別に隠してたわけじゃないです……。聞かれなかったから……」

「さっさと答えろ」

「……わたしの本名は、テレサ・テスタロッサ。テッサというのは、ここに入っていつしか愛称として呼ばれるようになっていました。それでわたしもこれを自分の名として使わせてもらっていました」

「レナードとの関係は?」

「わたしは……レナードの双子の妹です」

「ふん。まさか双子とはな。それで貴様の目的はなんだ」

「わたしは……テスタロッサ一家を潰すためにいます。兄であるレナードを殺すために……」

「それを信じると思うのか?」

「わたしはあなたの敵ではありません。それは信じて下さい」

「だったら、テスタロッサのことを詳しく話せ」

「いいですが……放してください。これでは喋れません」

ナイフを押し付けられ、おさげを乱暴に掴まれていては落ち着いて話せない、長くなるからとテッサは言った

たしかに、このままでは話しにくいだろう

「その前に、ひとつだけどうしても確認しておきたいことがある」

ナイフの先を頬から目に向けさせて、聞いた

「お前は催眠術が使えるのか?」

「……いいえ。わたしはひとつも使えません。そして、使いたくもありません」

「…………」

宗介はしばらくその瞳を見つめていた。

催眠を使う気配があれば、即座に刺し殺すつもりだったが、瞳にまったく淀みがない

そして、その目を見ていれば嘘をついているかどうか分かるはずだった

宗介はテッサの顔からナイフを引き、下ろした

それでほっとしたテッサだが、ぐいっとおさげを横に引っ張られ、さらに背中を荒々しく押された

宗介に乱暴に背中をどんと押され、尻餅をつく

しかし宗介はそれに詫びることもなく、パイプイスを持ってきて、それを扉の前に置いて、どっかと座り込んだ

たったひとつの出入り口を塞ぐようにして座った宗介が、尻を痛そうにさするテッサを見下ろす

「そこで話せ」

逃げられないようにして、さらに片手でナイフをちらつかせる。まだ仕舞う気にはなれなかった



「わたしが幼少の頃、イギリスで住んでいました。まだ物心がついたばかりの頃……母がいて、兄のレナードがいて、そして父であるクライブ・テスタロッサがいました」

父の名を聞いて、ぴくりと宗介の眉が小さく動いた

「そのときは、他と変わらないごく普通の家庭でした。ただ、母が病弱で、床に伏していることが多かったですけど」

その母を、テッサはとても溺愛していた。父のクライブも家庭をとても大切にしていて、あの頃は愛にあふれていた

「父は催眠術師を仕事に、テレビに出演したり、舞台をしていました。実力はそのころからあって、かなり名が知れていました」

当時、催眠術というのは珍しい分野だった。この頃はまだ医学も注目しておらず、催眠治療というものが存在していなかった

ただ、とても変わった演出の手品のひとつとしか見られていなかった

それだけに、クライブに対する注目度は高かった

人を二つのイスの上に寝かせ、催眠で棒のようにさせて人を座らせる人間イス。特定の音楽が流れると、踊らずにはいられない催眠。

これまで見たこともない奇怪さから、人の好奇心が刺激され、舞台は成功をおさめていた

クライブは家に帰ってくると、その内容をテッサとレナードに語っていた

子供に催眠の凄さを伝え、そして父の仕事がいかに人を惹きつけているのかを、帰ってくるたびに二人を集めて楽しそうに語っていたのだ

そしてテッサもレナードもそんな父を尊敬し、そして慕っていた

テッサはその頃、ただ漠然と、催眠は難しくて、そして人の注目を集めるんだ、という程度に受け止めて話を聞いていた

兄のレナードは、そんなテッサとは違って、とても眼を輝かせて聞いていた

レナードは父のクライブを、人としても偉大なものだと思っていたのだ

彼は話を聞き終わり、テッサと二人になったとき、よくこう言っていた

「ぼく、絶対にお父さんのような催眠術師になる」

その純粋な思いは、徐々に実現させていた

ある夜のこと、レナードがこっそりテッサを呼び出して、見ててごらんと拾っていた小鳥を指差した

レナードはその鳥を真正面から見つめていた

すると、数秒そうしただけで、鳥は目を閉じ、ぱたりと横に倒れた

「何したの?」

「眠らせたんだ。ぼくも、お父さんと同じ催眠を使ったんだよ」

父を敬愛していたレナードに、クライブも喜んで催眠術の基礎を教えていたのをテッサは知っていた

だが、本当にこうして催眠術を使えるようになれるとは思わなかった

クライブも、レナードの頭を愛しそうに撫でながら、「凄いぞ、レナードは才能があるな」と喜んだものだ

――しかし

世間は、まだ催眠術の凄さを認識しておらず、また認識しようともしなかった

手品として凄いとは思っても、催眠術自体が認められたわけでない。手品の一つとして扱われたに過ぎなかったのだ

そのため、舞台に呼ばれることはあっても、頻度は少なかった

流行に乗れない年は仕事も少なく、収入もどうにか生活できるだけのレベルに留まっていた

そんな日が何年も続いた



テッサが中学に上がったばかりの頃、母の様態がひどくなっていた

テッサの献身的な介護を必要とするほどに、体が蝕まれていた

学校から帰ってきて、友人とも遊ばず、母の面倒を見続けていたが、一向によくならない

明らかに入院の必要があったが、クライブの収入ではそれも叶わなかった

催眠術は、年々注目されるようになっていた。だが、それに比例して他の催眠術師も出てくるようになった

実力は明らかにクライブが上なのだが、テレビ側としては少ないギャラで出演させられる新人を多く使い、逆にクライブの仕事は減る一方だった

このままでは母の入院費は絶望だった。それにいつ仕事が入ってくるか分からない催眠術師としては、他の仕事を持つ余裕もない

どうする、と頭を抱えて悩んでいると、そんなクライブを狙って、ある仕事の依頼が舞い込んできた

依頼者は、どう見てもその道の危険な匂いを出す組織だった

世間はあまり評価していない催眠術を、裏の世界の住人は目をつけていたのだ

当然、その依頼とは、催眠を利用した暗殺だった

暗殺の面で考えると、催眠術は非常に強力な武器なのだ

このときのクライブ・テスタロッサは、まだ常識を併せ持っていた

最初は断ろうとした。しかし、できなかった

もはやこれしか道が残されていなかった。母を入院させてやるためには。家族を養うためには。

状況が良識を上回り、クライブはその依頼を受けた

もちろんそんな依頼を受けたことを家族は知らなかった。しかし、父になにかあったことくらいはすぐに感づいた

依頼実行日まで、クライブはなにかにびくびくと怯えていたからだ

夜がまともに眠れなくなったらしく、数日は目の下のくまがひどかった

家族は心配したが、父は無言だった

「ところが……その実行日、父の顔が明らかに変わっていました」

今でも目に焼きついて離れない。

あの日、仕事だと言って出かけ、夜遅くになって帰ってきたクライブは、不気味な笑みを浮かべていた

欲しかった玩具がやっと手に入った子供のように無邪気な笑みだった。

「その日、わたしとレナード兄さんを集めて、小さい頃のように仕事の話をしてきました。久しぶりだったので、とても楽しみにして聞いてたんです。でも……」

口元を手で覆って、視線を下に落とした

「その内容はとても信じられるものではなかった。最初は冗談かと思ってたけど、父の顔は真剣で、そしてとても楽しそうに語ってました。わたしは吐き気を催しましたが、それでも父は暗殺のことを話し続けたのです」

人を殺したその内容を、楽しそうに話す父。テッサは目の前の人物が、とても恐ろしいものに見えた

初めての暗殺が成功したことで、さらに暗殺依頼がクライブの元に舞い込んでいった

そしてクライブはその依頼を次々とこなしていったのだった

それがきっかけだったのだろう。クライブの本性が現れたのは。

それは人ならば誰もが持つ残虐性。

人ならば、必ずなにかしらを憎み、妬み、排除したくなる

しかし、法という制限と、それを行う機会が道徳で潰されていくことで、人は正常を保つことができる

だがクライブは知ってしまったのだ

自分の持つ力は、いともたやすく満たすことができると。他人の命なんて、簡単に奪えるんだということを

支配欲。

マリオネット人形の糸を手に持った人は、人形の支配者となる。

人形がどう動こうか、どういう姿勢になるか、そして動かないのか、それは支配者の自由だ

その支配を握るだけの力を持っているのだ、と実感したクライブは、もはや暗殺という所業に酔いしれていた

「それからも帰ってくるたびに、聞くに堪えない仕事話を無理矢理聞かされました。後でこっそりとトイレに行って何度も吐いたくらいです」

思い返しながら語るテッサの目は、その当時のように憔悴していた

「話が終わった後、わたしは部屋でレナードに今の気持ちをぶつけました。しかし……」

そのとき返ってきたレナードの言葉は、信じられないものだった

「気分が悪いだって? 変なテッサ。ぼくは聞いていてとてもわくわくしたのに」

レナードはテッサの髪を撫でながら、楽しそうな笑みを浮かべた

「素晴らしいじゃないか。人の人生を思い通りに操るんだよ。そいつがこれからどう動いて、どう死んでいくか……。それを決めるのは運命なんてもんじゃない。父の催眠が全てを決めるんだ」

テッサの顔がこわばった。

レナードも自分と同じと思っていた。クライブの催眠でどう人を殺してきたかを聞かされて、同じように気分を悪くして苦しんでいたものだと思っていたのに。

「ぼくは、より父を尊敬するようになったよ。いつか、ぼくも父のように、人の支配者になってみせる」

狂っている。

父だけではない。もはや、兄であるレナードも狂っていると、このとき初めてテッサは気がついた

すぐにでも、この狂った家から飛び出してしまいたかった

しかし、テッサにはそれはできなかった。

母がいたからだ。母はテッサの介護を必要としている

テッサには母を見捨てることはできなかった。

それからは母のためだけに、ただ耐えて生きてきた。あの狂った家に身を置いて。

父のクライブは、もはや暗殺依頼を受ける目的を見失っていた

最初は母の入院代のためだったはずなのに、それがいつのまにかただの道楽に変わっていた

母はもはや、クライブにとってただの置物になっていたのだ

それがより一層、テッサが父に嫌悪を抱かせていた



テッサの介護も空しく、数年後に母は亡くなった

もうテッサにはこの家に居る意味を失い、その翌日に家を出た

しかしちゃんとした計画もなかったため、その日その日を生きていくのが精一杯だった

それでも、あの家に居るよりはマシだと言い聞かせていた

実際、忘れるための努力をしていた。連絡を取らず、レナードもクライブもそのあとどうなったのか。まったく知ろうともしなかった

その最中だった。クライブがミスリルのカリーニンに殺されたのは。

だが当然のように、それだけの犠牲も大きかった。ミスリル数人の命と、カリーニンの右腕を失って、やっとクライブを仕留めたのだ

それを知ったのは、ミスリルに入ってからだった

初めて聞かされた当時、特に悲しいとも思わなかった。なんの感情も芽生えなかった

父だったはずのクライブは、とっくの昔。暗殺を始めたときに死んでいた。テッサの中では、その後の彼は別人だった。ただの殺人者だ

ところが、偶然事件に巻き込まれてミスリルに入ったことになったテッサは、ミスリルのテスタロッサに対する認識を知って、驚愕した

クライブ・テスタロッサが死んだことにより、テスタロッサの脅威が消えたと安心していたのだ

その認識は大きな間違いだ。

テスタロッサには、まだレナードがいる。

それもクライブと同じくらいの邪悪さを持ち、もしかしたらクライブと同等、もしくはそれ以上の催眠術の腕を持つ者が。

テッサは必死になって、当時の最高責任者に説いた。

まだテスタロッサの脅威は去っていない。当時、まだ知られていなかったレナード・テスタロッサの存在を伝え、その恐ろしさを語った

それによって、ミスリルはレナード・テスタロッサという危険人物をようやく認識したのである。そして再び警戒させた

さらに彼女は催眠に対する対抗策をいくつか考え、それを浸透させ、ミスリルはテッサの指示のもと、再構築されていったのだ

ミスリルは、テスタロッサが作り上げたアマルガムに唯一対抗できる組織となっていた



宗介は黙って聞いていた。

話が終わると、すっとナイフを腰元にしまう

「信じていただけるんですか」

「ああ。俺は長いこと警察やってるんだ。相手が言ってることが本当か嘘かくらい見抜けられる」

「そうですか。誤解は解けたようですね」

テッサはほっとして胸に手を当てた

「ただ、これだけは言っておく」

宗介はイスから立ち上がり、テッサを見下ろした

「俺はあんたの……テッサの兄であるレナード・テスタロッサを殺す。捕まえるんじゃない。すぐに殺す。それは絶対だ」

「ええ、わかっています。わたしはもう、彼に対して兄弟の絆を感じていません。ただ、倒さなければならない相手。それだけです」

まったく淀みもなく、そう答えた。

宗介は、テッサに手を差し出す。テッサはそれに少し躊躇しつつ、その手を借りて立ち上がった

「悪かったな。手荒な真似をした」

「そうですね。……少し怖かったです」

しかし彼女はおどけてそう言ったので、つい笑ってしまった

「では、わたしはそろそろ出発しなければならないので」

「大変だな」

「仕方ありません。正義のヒーローは忙しいものですから」

テッサはそういって、その部屋を出て行った。彼女もまた、ミスリルで戦う一人なのだ



ミスリル セーフハウス

中に入ると、先に千鳥が帰ってきていた

「あ、お帰りソースケ」

「ああ」

彼女はリビングでソファーに腰掛けた状態で、前にある大きなテレビでなにかの番組を見ていた

宗介は冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を取り出し、喉に流し込む

「ピザ取ってあるよ」

テーブルの隅に、千鳥の言ったとおりピザの箱があった。開けてみると、トマトにチーズがかかったピザが半分残っている

その一切れをつまんで、千鳥のいるソファーに座った

「今はなに見てるんだ?」

「適当につけただけ。なにかのバラエティー番組みたい」

ちょっと変わった超能力を使える人をゲストに呼んで、その能力を見せてもらうという、日本でもどこかで見たような内容だった

くだらんな、と思い、ふとそこから窓のほうを見やった

ここは日本ではない。景色は、和やかになれるものではなく、町の喧騒というものが広がっていた

明日になれば、ロシアへ発ってガウルンを追うことになっている

あの悪魔を、今度こそ倒してやる。もう二度も逃げられ、たくさんの被害者を出してしまった

ミスリルは彼のことを『黒い悪魔』と呼んでいる。

奴の犯してきた所業を考えれば、ふさわしいネーミングだ

元傭兵で、快楽殺人者。奴の存在は禍々しい悪そのもの

奴もまたミスリルの最大の敵となっている。明日で全ての決着がつけられるだろうか

ふと、テレビの番組の動きが変わった

新しいコーナーとして、ある人物が紹介された

『では次は、世界一の催眠術師と評判の、ヤン先生です』

三十代と結構若い催眠術師、ヤンが派手なスポットライトに当てられて登場した

その番組のレギュラーであるお笑い芸人が、台本を読んでるかのように催眠を馬鹿にして、信じないと連呼している

そうして場が盛り上がったところで、さっきの催眠を信じない芸人が試されることになった

催眠の内容は、バラエティー番組用の『恥ずかしい失敗を話す』や『特定のBGMが流れるとバカな踊りを踊りだす』というものだった

その催眠はしっかりと通用し、完全に催眠にかかった芸人を、他の芸人や司会者が指差して笑っていた

こういうの好きじゃないなあと千鳥が思っていると、なにかが後ろから飛んできた。突然テレビの前面ガラスがガシャアンと割れて、映像がぷつりと切れた

宗介が、テレビのリモコンをテレビに投げつけたのだ

その顔は、不機嫌というより、怒りを強く滲ませていた

見るのも不愉快だとばかりに、テレビを壊したらしい

「催眠は……あんなエンターテイメントで済ませられるようなもんじゃない」

人を簡単に変えてしまう。人を簡単に操ってしまう。

それなのに、催眠を笑いのひとつに使っているバラエティー番組が多いのが実情だ

考えてみれば、ものすごく恐ろしいことなのに。周りはそれに気づいてもいない

「……言いたいことは分かりますけど。わざわざリモコンぶつけて壊さなくてもいいじゃないですか。電源ボタンをぽちっと押すだけで消えるのに……」

この後放送するドラマが見たかった千鳥は、少し恨みめいた声でため息をついた

そして何度も「ぽちっと押すだけでいいのに」と繰り返しつぶやいている

「どうすんですか、これ」

千鳥はぷしゅーと煙を吹いているテレビのことを指していた

「ミスリルに支給を頼んでおいてくれ。テレビが壊れた、とな」

淡々とそう言って、宗介は寝室へと向かっていった

千鳥はむーっとその背中を見送って、

「壊した、って言ってやる」

とぼそりと小さくつぶやいていたのだった




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