甦る闇の帝王アメリカ コロラド州 晩飯の済んだ夜になって、そこのレンガアパートの一部屋に住む夫婦の男性が、身なりを整えていた これから寝ようとしていたイタリア人の金髪カールの妻が、どこへ行くの、と聞いた 「いつものお祈りに行ってくるだけだよ」 金色の短髪、三十代後半の紳士の男性は、優しくそう言って、襟を折った 「また? もうここはイタリアじゃないのよ。もうそんなお祈りはやめたら?」 「ジュディ。君には分からないかもしれないが、このお祈りは僕にとって、とても大切なことなんだよ」 「ジョージ……」 妻の反対を押しのけてでも、そのジョージという男は祈りを欠かさないのだ イタリアに住んでいた頃から、それは男にとって日課だった。 三ヶ月前にこのアメリカに移り住んでから、もうそれはないだろうと踏んでいたのだが、このアメリカにもその祈りを捧げる集会があるらしい 「君はゆっくりお眠り。いい夢を見れるようにね」 夫のジョージは、妻のジュディの額にキスをした。 そして妻をベッドに残したまま、彼は意気揚々と部屋を出て行った
暗闇の中、なにか物音が聞こえたような気がして、ジュディは目を覚ました 瞼をこすりながら、ベッドの横にあった小さな時計に目をやると、まだ深夜の三時だった ガタガタと、部屋の大窓が震えてるような気がして、ジュディは上半身だけ身を起こした すると、その大窓の向こうで、大きな人影が見えた 大窓の枠は数センチ。外に落ちてもおかしくないというのに、大窓の外に人がいるというのは気味が悪かった だが、その人影は男性くらいの大きさで、そして見覚えがあるような気がした 「ジョージ?」 ジュディは、カールの金髪をかきあげて、ベッドから出る。ネグリジェだったので、イスにかけてた服を上から着て、大窓に歩み寄った ピカッと、雷が鳴って、一瞬部屋の中を明るくさせた その時、人影の姿が鮮明に映し出された。 その顔はジョージだった。だが、なにかが違うという違和感があった 「ジョージ?」 すると、その男はにっと口を吊り上げ、歯を見せた。鋭い牙が生えていた そして彼が着ていたのは、黒いマントだった。祈りに行ったときの服とはあきらかに違っていた 「ジョージ……?」 その妻に怯えの顔が浮かんだのは、その口元に赤いものが滴っていたように見えたからだ 牙から、赤い水のようなものが垂れている。血のようにも見えた すると男は、窓を開けて中に入ってきた 間近になって、やはりその男はジョージだと確信した。だが、様子がおかしかった。ジュディを見下ろすその目は、妻を見るようなものではなく、まるで猛獣が獲物を見るようなものに感じたのだ するといきなり、がっしと強い力で抱きしめられた 強い力だった。指が背中の肉に食い込むようだった 「ジョ……」 彼の名前を言おうとした時、彼はかっと口を開けて、その鋭い牙をジュディの柔らかい首筋に突きたてた その首の激痛に、ジュディは悲鳴を上げた。
アメリカ ニューヨーク州 スカリーという女性が、ある一室で、探し物をしていた しかし見つからず、困ったわねとあごに手をあてる その時、部屋に男が入ってきた。都合がよく、男に聞いてみることにした 「ねえモルダー。ティッシュが見つからないんだけど」 「あー、切れたのかい?」 モルダーという男性は、今更それに気づいたように、聞いてきた 「ないのよ。さっき虫を潰したから、包んで捨てたいんだけど」 「指でつまんで捨てろよスカリー」 「いやよ。汚いもの」 「死体はいくらでもいじってるくせに」 「検証といって欲しいわね、モルダー」 その部屋は、書類だらけだった。スカリーはその内の一枚を使ってやろうかしらと思った だがモルダーは虫のことは無関心らしく、スカリーに関係の無い話を持ちかけてきた 「ちょっと一緒にコロラドへ行ってみないか」 「どうして?」 「変わった事件があったらしくて、呼ばれたんだ。変わった事件の捜査はどうやら僕らの専売特許だと思われてるらしい」 モルダーは、肩をすくめてみせる。だが、どこか嬉しそうだった 「また宇宙人とか怪物とかいう類? 私はそういう事件に関わってる暇はないと思うけど」 「残念ながら、今回は宇宙人とかUFOはなさそうだ」 「じゃあなんなの?」 「ドラキュラだ」
コロラドへ向かう飛行機の中で、スカリーはモルダーに向かって、軽く首を横に振った 「馬鹿げてるわ、モルダー。吸血鬼なんて存在しないわよ」 「だが、実際に事件が起きてるらしい。だから僕らが呼ばれたんだよ。X-ファイルの僕らがね」 「FBIの変わり者として、ね」 スカリーは眉を手で押さえた
アメリカ コロラド州 アパートでは、封鎖テープで仕切られており、警官たちが部屋の中を調べていた その中の太りめの男が、入ってきたスカリーとモルダーに歩み寄る FBI身分証を見せながら、モルダーは尋ねた 「被害者は?」 「ウチで保管しております。現在は、指紋の照合中です」 「現場は?」 「ここです」 現場の部屋に住んでいた夫婦の寝室に案内された まだ血は固まったままそこに残っていた。おびただしいほどの量が、部屋の絨毯の上で水溜りのように広がっている 「すごい量だな」 「はい。被害者はジュディ=ロバート。三十八歳の女性です。三ヶ月前にイタリアから移ってきたそうです」 そして男は、被害者の顔写真を見せてきた 金髪で、カールに巻いた美しい女性だった。ただ年のために、少し顔面に皺が刻まれている 「そしてこちらが、死亡した時の写真です」 次の写真は、異常と思える光景だった。 女性が絨毯の上に腹ばいに倒れている。そしてその女性の肩が、ほとんどえぐりとられていた。肩からのアングル写真では、骨や赤い肉が丸見えになっている 「死因は出血死です」 「だろうね。……被害者の夫は?」 「それが、現在行方不明なんです。それで第一容疑者として、今その聞き込みに当たらせています」 「なるほど」 スカリーが口を挟む 「たしかに異常な殺人だけど、もう犯人は割れてるのよね。それでどうしてわたしたちが呼ばれたのかしら」 その言葉に、男は苦渋の色を見せてきた。そして数秒言いためらってから、口にした 「実は目撃者の証言に、妙な事が……」 「なんだい?」 「はい。女性の死亡推定時刻の前後に、空を飛ぶ人がいたと言うのです」 「空を飛ぶ、ですって?」 「ええ。それも黒マントをまとっていたそうです。その様子を見て、誰もが思ったらしいです。……ドラキュラだって」 「…………」 モルダーは、少し考えるような仕草をしていた。スカリーは、ふうとため息をついた 「でも証言だけでしょ。それじゃ信憑性が疑われるわ。第一、人が空を飛べるはずが……」 「写真があるんです」 目撃者の中に、夜明けの街中を撮ろうとした男がいて、シャッターを切ったらしい その写真には、はっきりと黒マントの男が、家の屋根と屋根の間を飛んでいるように見えた 顔ははっきり映ってないが、そのマントの形や雰囲気からして、たしかにドラキュラのようなおどろしさを連想させる 屋根と屋根との間にはかなりの距離がある。走り幅跳びの選手でさえ、この体勢で飛ぶのは無理があるだろう つまり、写真の男は空を飛んでいた。 その写真をじっと眺めていた二人に、男は不安げに聞いてきた 「あ、あの。どうでしょう? やはりドラキュラなのでしょうか」 それには答えずに、スカリーは言った 「被害者の死体を見せてください」 「はい。それでは案内します」
そこは病院の死体安置所 平凡に生きる者たちにはあまり縁のない場所だが、スカリーには慣れた所だ 「これです」 割り振られた番号で、死体を確認すると、箱を手前に引っ張った。 そして蓋を開けると、あの顔写真と同じ女性の遺体がさらされた スカリーは遺体の死因となった肩に注目する。ほとんどえぐりとられてて無いも同然だったが、そのえぐられた肉の中に、二つの穴が開いてるのに気づいた 「なにかしら……」 手袋をはめて、その空いた肩にあった穴を、指で軽くつついてみる 「見たところは、猛獣とかの牙あとに似てるわね。でも、大きさが……」 だが見ただけでは、それくらいしか分からない。 スカリーは、そばにいた男に言った 「わたしに死体検証させてくれないかしら」 許可が下りた
数時間後、二人はホテルの一室で書類を眺めていた 「それでスカリー。検証結果はどうでたんだい?」 「あの二つの穴を、全ての猛獣の噛み跡と照合してみたわ。だけど結果は出なかった」 「猛獣ではないということだね」 「ええ。そして傷口から検出されたのは、アミラーゼ(酵素)、マルターゼ(酵素)、ムチン(蛋白質)といった有機成分が検出されたわ」 「つまり?」 「唾液が残ってたの。しかもそれらの成分からして、人間よ」 「たしかなのかい?」 「言いたいことは分かるわ。どう考えてもおかしいもの」 スカリーは、テーブルの上に乱雑に置かれた写真の中から、傷口の見える遺体の写真を一番上に置きなおした 「状況から言って、その唾液の主が、遺体を殺した犯人。だけど、それだとこの二つの穴が説明できない」 「どうして?」 そのモルダーの聞き方は、疑問ではなく、話を推し進める口調だった 「この穴の深さは、人間ではありえないわ。こんなに長く鋭い牙を持つ人間なんて考えられない」 「だからこそ、ぼくらが呼ばれたんだろうね」 「モルダーはどう思うの?」 「そうだね」 いくつかの写真を見下ろしながら、モルダーは手を組んだ 「状況から見て、これまでの資料から特に近いと思われるのは、チュパカブラだ」 「チュパカブラ?」 「スペイン語で「ヤギの血を吸うもの」といってね。ヤギだけではなくウシやニワトリといった家畜を惨殺した生物と言われている」 そのホテルで繋げたノートパソコンのネットで、FBIデータベースから引き出したチュパカブラの資料を出して見せた そこの資料の写真から見るに、体毛は緑または灰色、大きなとげが頭の後ろから腰のあたりまで生えていた。真っ赤な大きな目を持ち、鼻孔らしき穴が2つ、大きな牙が上下に生えており、口を閉じたときも牙は口からはみ出している。 たしかにその牙は、長くて鋭かった 「これ……なに?」 スカリーが、その姿に眉をしかめる 「生物だよ。ただし、目撃時にはUFOも同時に目撃されることが多いため、地球に飛来した宇宙人が連れてきたペット、エイリアン・アニマル説というのもあるらしい。ある意味、ドラキュラだ」 「…………」 まさにX-ファイルね、とスカリーはこめかみを押さえた 「ぼくがこの生物を連想する理由は二つ。一つは、見ての通りこの牙だ。遺体にあったような長い噛み跡ができそうだろ」 「もう一つは?」 「実はチュパカブラは、非常に発達した太ももを持ってるんだ。そして一説には6メートル以上のジャンプができるともいわれている」 「それって……」 「つまり、屋根から屋根へと飛び移れるほどの跳躍力があるわけだ。あの写真のようにね」 だが、スカリーは肩をすくめた。まったく信じてない態度があらわれていた 「なんだい?」 「悪いけどモルダー。この写真を見てよ。黒マントを纏ってるのよ。こんな生物がマントを身につけるの?」 「ぼくはあくまでも、近い生物として挙げただけだよ」 モルダーは両手を振り上げて、大袈裟なジェスチャーをしてみせた。だがスカリーは追撃の口を止めない 「それに、あの唾液の成分は明らかに人間のものだわ。こんな得体の知れない生物のとはとても思えない」 「だけどそれは、ぼくらの先入観によるものかもしれないよ」 「どういうこと?」 「たしかにチュパカブラは、ぼくら人間とは外見が違う。だが、その体内成分もまったく違うとは言い切れないんじゃないか」 「それって、その生物の唾液と人間の唾液の成分は同じかもしれないと言いたいわけ?」 「チュパカブラの体内構成や分泌物質を君は把握してるのかい?」 「そんなの……データがないから、なんとも言いようがないわ」 「そうだろう。データがない。つまり、可能性はゼロと言い切れないわけだ」 「ああ、まってモルダー」 スカリーは、滑舌になっていくモルダーを、制止するように手をぶんぶんと振った 「つまり、モルダー。あなたは、今回の事件の犯人は、このチュパカブラとかいう生物だっていうわけ?」 「正確に言うと、そうじゃない。たしかにチュパカブラは、目撃者の言うドラキュラに酷似している。血を吸う生物であり、空を飛ぶような錯覚にさせるほどの跳躍力。そしてあの牙だ」 どう聞いても、スカリーにはチュパカブラだと断定してるようにしか聞こえなかった 「ぼくはね。今回の事件を起こしたのは、チュパカブラよりも更になんらかの変化を遂げて、より人間に近づいている新種じゃないかと思うんだ」 「新種? よく分からないわ」 「これが純粋なチュパカブラだとすると、どうにも合致する条件が少ないように思うんだ。さっきはああ言ったけど、唾液成分がそこまで人間と同じものになるとはちょっと考えにくい」 「当然よ。見たままで言えることだわ」 「それになにより、この目撃者が撮った写真だ。チュパカブラの身長は、1〜1.5メートルだと言われている。だがこの写真を見る限り、その人影は1.8メートルはある」 「黒マントも纏ってるしね」 「その点はぼくにも分からない。ただ、それ以外の点では、純粋なチュパカブラではなく、なにかによって突然変異を起こしたか、または新種を生み出したんじゃないかと思うんだ」 「突然変異の場合だと、薬物かなにかの影響で、身長が伸び、唾液成分が変わったというわけ?」 「少し無理があるが、そういうことだ。そして後の新種なんだが、こっちのほうが可能性は高い」 「よく分からないわ」 「生物は、交配する相手によって、生まれてくる子供はそれに反映される。ぼくら人間だって、父と母の組み合わせによって、親に近い顔形や身体の構造が決まるだろう」 「ええ。それは親の遺伝子を受け継いでいくためのシステムとしてね」 「そしてチュパカブラが人間により近くなっていくには、ある方法が考えられるんだ」 「それって、まさか……」 「チュパカブラと人間が交配することだよ」 そのモルダーの説は、あまりに突拍子もなく、そして信じがたいことだったが、すぐに否定はできなかった 「それじゃ、人間と交配し、生まれた子供は、チュパカブラと人間の両方の性質を受け継ぐということ?」 「その通り。そしてその受け継いだものが、異常な跳躍力、吸血本能、牙」 「それ以外の体内構成や成分は人間として受け継いだってこと?」 「まさに新種だ。そう考えると、辻褄が合うんだよ。写真のように、外見も人間に近く、唾液成分も人間と同じものとして検出されてもおかしくない。もしかしたら知能もほとんど人間と変わらないかもしれない。あの黒マントを身につけてるのもそのためだ」 「そして、人間の姿形をしたチュパカブラが人間を食い殺したというわけ?」 「そのあと屋根から屋根へと逃げ出す姿は、まさにドラキュラのように見えたのかもしれないな」 二人は写真を見下ろした その異形な姿をした生物に、人間の姿を重ねてみる。ぞくりと背筋に寒いものが走ったような気がした
翌日、二人はまた例の現場に赴いていた そのアパートの屋上で、昨日の刑事と一緒に、そこから見える景色を見つめていた 犯人は、この屋上から屋根へ、屋根へと飛び移って逃げたのだろうか 「被害者の夫、ジョージはまだ見つかりません。本部でも彼を第一容疑者としていく意見が強いようです」 刑事が、ポケットに手を突っ込んだまま、二人に言った。だがモルダーは、ぼそりとつぶやくように言い返した 「……もしかしたら、彼もまた被害者かもしれませんよ」 「どういうことかな」 「事件当時、犯人を見て怯えて逃げ出したか、あるいは食い殺されたのではないかという見方もあるわけです」 「食い殺す……? ばかな」 あくまでこの刑事は、人間が犯人だと思ってるのだろう。それに対して、食う殺すという表現が似つかわしくないと思ったようだ それを言うのは止めておいた。どうせこれまでのように信じてはもらえまい。二人で解明していくのだ そして現場の部屋の中に行こうとして、屋上のドアを開けると、いきなりそこから人が出てきて、つい驚いてしまった 屋上に上がってきたのは二人だった。男女で、アメリカ人じゃないことはすぐに分かった 日系人だろうか。そう思索していると、女のほうがぺこりと頭を軽く下げてきた。これは異国の挨拶だったはずだ どうやら現場関係者らしい。モルダーは自分から名乗ることにした 手帳を開き、その中に収められているFBI身分証を見せながら 「FBI捜査官、モルダーです」 「同じく、スカリーです」 すると、今度は向こうも手帳を出して名乗ってきた 「どうも。FBI捜査官、ソウスケ・サガラです」 「カナメ・チドリです」 向こうもFBIらしい。身分証には怪しいところはなかった FBIは多くの部署があり、またいろいろな人種が採用されている。 「日本人?」 モルダーのその問いに、ソウスケがそうですと答えた 握手を交わすと、ソウスケが事件捜査の協力に来たと告げてきた そこで四人は、建物の中に入って、現場の部屋に訪れてから話を続けた 「事件のおおよそは聞きました。現状は?」 「被害者の夫であるジョージ=ロバートを捜索中。被害現場の写真はこれだ」 モルダーが、被害者の遺体の写った写真数枚を手渡す。 それを眺めて、カナメが嫌な顔をした 男のほうは平然としていた。そして鋭い目でこっちを見返す 「そちらの見解は?」 「さっきの刑事は、ジョージ=ロバートを第一容疑者として捜査しているようだ。ただ、別の写真がある」 そしてモルダーは、例のドラキュラらしき、空を飛び、黒マントを纏った人影の写真を見せた 「目撃者は、ドラキュラではないかと言っています。というのは、遺体の傷に牙を突き刺したような穴が空いており、黒マントで空を飛んだという目撃証言があるためです」 「ど、ドラキュラ?」 カナメが、その言葉に青くなり、一歩下がった。こういうのに弱いようだ。本当にFBIか? 「モルダーさんも、ドラキュラだと?」 「いえ。ぼくらは別の生物の可能性を示唆しています」 「別の生物?」 「チュパカブラです」 ソウスケが、思いっきり「?」を表情に出した 「ご存知ありませんか。吸血生物、チュパカブラとしてスペインなどで目撃されている」 「その生物が今回の事件の犯人だと?」 「いえ。正確には、チュパカブラの新種生物ではないかと思ってる」 「新種生物……」 その説明をするために、モルダーはさっきの資料のコピー写真と組み合わせて、人間と混ざったことによって、新種になったのではないかと述べた 「それを本当に信じてるのですか」 ソウスケが、モルダーたちにそう聞いてきた。これまでの人と同じ反応だった。 異星人や怪奇現象事件で関係者は、モルダーたちの仕事を怪しげなものと思い込む そういう人たちと同じ反応だったので、モルダーは慣れたように仕事を説明した 「ぼくたちはそれを捜査する機関です。X-ファイルといって、超常現象や異星人を対象とした事件の捜査機関です」 「X-ファイル……」 モルダーは、ソウスケという男はあまり好きにはなれないなと心で思っていた
それからも自分の説と、状況を伝えて、二人は別捜査をすると言い、現場から去っていった 「どうやら向こうは信じてないようね、モルダー」 「仕方ないさ。こっちはこっちで捜査すればいい。いつものことだ」 「そうね。でもあたしもどちらかというと、否定派よ」 スカリーはそう言い放って、刑事のところへいってしまった モルダーは肩をすくめてみせ、そして被害者の遺体写真を眺めた 新種のチュパカブラ、か。早く捕まえないと大事になりそうだ 「血を求める本能が目覚めつつあるのだろうか」 そうつぶやいて、その写真を胸ポケットにしまい込んだ |