そのまま、誰もいない屋上へと走ってきた
「ったく……少しは時と場所を考えてよ」
「すまない。だが……」
「……なによ?」
「まだ弁当を食べるのは早くないか? 俺は昼に一緒になろうと言ったのであって……」
「う……」
たしかに、その場の勢いで、まだ用も無い屋上へと来てしまった
「ま……まあいいじゃん。まだ始業までには時間あるし、のんびりしようよ」
「うむ……」
それも悪くはない。それに、千鳥の機嫌もいつのまにか戻っているようだ
屋上の柵に手をかけ、そこからかなめと外景色を眺めた
「こうして町を眺めるのも気持ちいいよね」
「うむ」
たしかに、いい気分だった。暖かい風がふわりと吹き抜け、和やかな感じだ
こういうのを、平和というのだろうか
数分それを眺めた後、宗介は決心した
(もしかすると今が、いいタイミングなのかもしれん)
そう思って、ポケットに手を入れた
それに気づかないかなめが、楽しそうに言ってきた
「そうだ、ねえねえ。お弁当のことなんだけどさ。今日はその……あんたのために、特別なオカズも入ってるのよ。なんだと思う?」
「さあ、なんだろうな。それより、これを……」
と、ポケットの中身を出そうとしたが、彼女は違うことで怒り出した
「……ちょっと。『それより』ってなによ。アタシの作ってきた弁当はたいしたことじゃないってわけ?」
「……いや、そうじゃない。千鳥の弁当は美味いが、今日はそれより大事なことがあってだな」
「あー、また『それより』って言った! アンタにとって、弁当に対しての感謝とか、そーいうのはないわけ?」
千鳥はなぜかムキになって、言い詰めてきた
「なにか無礼を言ったのなら謝罪する。だがな……」
「そーいう言い方がなんかイヤなのよっ」
「……千鳥。よく分からんが、すぐそーいうかんしゃくを起こすのはやめてくれ。俺が言いたいのはだな……」
「うるさいバカッ」
かなめはグーでの握りこぶしを思いっきり振り上げ、こっちに向かってきれいな線上を描いた見事な右ストレートをかましてきた
それは顔面ど真ん中にめりこみ、次の瞬間視界が真っ暗闇になって、意識が途絶えた……