「なぜ、トマトは赤いのだろうな」
日常のちょっとした疑問から切り開いていけばいいはずだ
「そりゃ赤色の色素が多く含まれてるからでしょ」
「…………」
あっさりと回答が出されてしまった。それも、科学的に。
「……そうだな」
「…………」
い、いかん。お互い沈黙してしまっては
……なにか他に話題はなかっただろうか
俺がそう思案していると、かなめはなにか心配そうに聞いてきた
「ねえ。あんたは野菜だと、よくトマトが出てくるけど、それが好きなの?」
いきなりどうしたのだろう? だが、いつの間にか怒りは鎮火してるようだ
「ああ、トマトはいいぞ。手軽に栄養を摂取でき、個人的に味としても好みだ」
「へえ。あんたにも好みってのがあったのねえ」
意外そうな顔をして、くすっと笑っていた
……そんなに意外だろうか?
「……そうだ。トマトといえば」
「ん?」
「栽培は順調だ。品種改良を施したのだが、悪くないぞ」
「……って、トマトを? 栽培してるの?」
俺は胸を張り、秘密裏に進めていた事業を話すことにした
「そうだ。この校庭の一部を借りてな」
「へえ。あそこは用務員さんの陣地でしょ? 許可はもらったの?」
「ああ。トマトを栽培したいと申し出ると、なぜか大粒の涙を流してな。『おお、自然の命の大切さに目覚めたのか? いいことだ。しっかりやりなさい。立派で丈夫なトマトを作りなさい。わたしも楽しみにしているよ』とな」
「……まあ、許可もらえたのなら、いいことだわ。にしても、ホントあたしも意外だわ。あんたが栽培をねえ」
「よければ、見にこないか? もうすぐ収穫時なのだ」
「あ、行く!」
その提案に、かなめは喜んでついてきた
俺の案内で、屋上を降りて、校庭に出る
校舎の裏側なので、滅多に人は近づいてこない所だ
そしてそこに着いて、俺の栽培場所の前にくると、かなめは怪訝顔をしてみせた
「……どうした?」
「なによ、この厳重そうなバリケードは」
丈夫そうな金網が、細かくドーム状のように、そのエリアを覆っていた
「秘密裏の栽培計画だからな。簡単に表にさらすわけにはいかん」
「はあ……」
とりあえず、といった感じで近づくかなめ
そして金網越しに、中を覗いてみた
そこには、支え棒にからまるように伸びたツタ。そして、真っ赤なトマトが太陽の光を浴びて、さんさんと輝いていた
「へえ、すごくいい感じじゃない」
「そうだろう。けっこうこまめに世話をしてきたからな」
そう言うと、かなめは嬉しそうにこっちを見た
「見直したよ、ソースケ。あたし、なんだか素直に嬉しい」
「そ……そうか?」