タイトルページへ


絶体絶命のライフライン


作:アリマサ

キーン コーン カーン コーン

その日の終業ベルが鳴ると、相良宗介は席を立ち、しばし教室の前に立つ

それを見た千鳥かなめが声をかけた

「どしたの、ソースケ? 帰らないの?」

すると宗介はなにやら緊迫した顔つきで、

「いや、すまないが人を待っているのだ」

それを聞いたかなめが声を荒げて宗介に問い詰めた

「ちょ、ちょっと。人を待ってるって、誰を待ってるのよ」

「……なぜ千鳥がそれを気にする? ……お、来たようだ」

すると、がらりとドアが開き、椿一成が入ってきた

「相良、待たせたな」

「いや、時間通りだ」

二人はいつもと違い、そこらの友人のように親しげな口調で話し合う

それを見たかなめがぽかんと口を半開きにして、たずねた

「あの……待ってた人って、椿くん?」

「肯定だ」

ま……まさか『相良・椿ラブラブ疑惑』はまだ続いて……?

すざっと後すざリするかなめに、一成がようやく気づいた

「ち……千鳥っ?」

焦燥もあらわに、かなめの存在に慌てふためく

「おい、相良っ。どういうことだ! 二人っきりのはずだろう」

すぐに宗介の胸倉をつかみ、真剣に反論する

「ああ、椿くん。そんな真剣に怒って……そんなにソースケと二人きりになりたかったの……?」

「なに……?」

涙をためて言うかなめの言葉に、一成の顔がこわばる

「……千鳥、あの『ラブラブ疑惑』は解けたはずだぞ……?」

「でも、今そうやって……」

すると一成はチッと舌打ちして、胸倉をつかんでいた手を解いた

「あのな、千鳥。これは仕方ないことなんだ。今もこの相良の野郎のツラを見るだけで苛ついてくるが、お互いの未来のためにここは手を組んだんだ」

「うむ、そうだぞ千鳥。オレも椿とやらの存在を抹消してやりたいが、奴を倒すために一時、椿と共同戦線を張ったのだ。同盟を結び、戦力を強化せねば奴には勝てん」

宗介も神妙になって千鳥にそう説明した

だが千鳥はまったく理解できず、首をひねるだけ

「……? よく分かんないけど、『奴』って誰よ?」

「それはだな……」

と二人が答えようとすると、突然なにかの気配を感じたらしく、身構えて険しい顔つきになった

「この恐ろしい気配……奴が来たようだ」

「ああ。ところで相良、例の場所におびき出すという作戦らしいが、どこにおびき出せばいいんだ?」

「少し離れたところだ。ともかく、俺についてこい」

宗介はさっとその教室から離れ、一成もその後をついていって、かなめを置いてその場からすぐさま去っていってしまった

「……一体なんだってのよ、ったく」

千鳥が一人教室でむくれていると、不意にだれかが教室の前を通りかかってきた

バーコード頭にジャージ姿。あれはたしか……

「あ、用務員さん。こんにちわ」

かなめが声をかけると、ニコニコ顔の用務員、大貫善治もこっちに気づき、愛想よく手を振ってくれた

「おや、たしかかなめちゃん……だっけ?」

「ええ、そうです。用務員さんも大変ですね、なにかお仕事なんですか?」

「ええ。ちょっとした見回りでして……。それじゃ悪いけどおじさんもう行くから、君も早いうちに帰るんだよ」

そう言って、大貫善治は廊下の奥へと消えていった

千鳥かなめもそろそろ帰ろうとその教室から出ていく

「……それにしてもあの二人の言う『奴』って誰なのかしら……?」



校舎の裏口の近く

相良宗介と椿一成はぜえぜえと息をついていたところだった

「はあ……はあ……おい、まだ殺気が近づいてくるぜ。相良、お前の言う『絶好のポイント』ってのはここなのか?」

「……いや、ここからさらにまっすぐ行ったところだ。その先の公園の傍に誰も使っていない廃屋がある。そこに奴を誘い込むんだ」

フェンスのはるか向こうを指差して、宗介は告げた

「……だが、今すぐに誘い込んでもダメだ。念のため安全装置を作動させてある。それを解除しないと、せっかく仕掛けた罠が作動しない」

「なんだと? じゃあどうすりゃいいんだ」

「椿……十分でいい。十分ここで奴を足止めしておいてくれ。俺は先に廃屋に行って、解除しておく」

「十分か……あの化け物相手じゃ十分でも長いくらいだぜ」

ふう、と一成はため息をつき、乱れた呼吸をなんとか整えようとする

だが、足がブルブルと震えてしまっていた

「椿……」

「へっ、……武者震いとかいうやつさ……。まあ、なんとかしてみせるさ。ところで、その仕掛けた罠なら確実にあの用務員を仕留められるんだろうな?」

「まかせろ。罠にはめてしまえばこっちのものだ。……なんとか頑張ってくれよ」

「ああ、お互いの未来のためにもな」

「うむ。俺たちの命を脅かす危険を排除するために……」

最初で最後の男の握手が今、交わされた



同時に、背後から殺気をともなった用務員、大貫善治がチェーンソー片手に出現した

「くっくっく……。見つけたぞ、カトリーヌの仇めぇ……」

ギュイーンとチェーンソーの刃がまわりだす

一成が身構え、宗介はフェンスを越えようと走り出した

「逃がすかああぁぁっ」

大貫はチェーンソーを振り上げ、宗介に向かって走り出す

その前を、一成が立ちはだかった

「てめえの相手はオレだっ、大動脈流奥義・血栓掌っ!」

猛突して激しい気を練った一撃が、大貫めがけて放たれる

だがそれを大貫は強引に払いのけた

「邪魔だああぁぁっ」

大貫の大振りの一撃に、一成は豪快に体ごと吹っ飛ばされた

そして大貫は持っていたチェーンソーをブーメランのように、片手で宗介めがけて放り投げた

「相良、危ねえっ!」

その声に宗介は反応し、迫り来るチェーンソーの軌道を読み、かがんでそれを避けた

「あ……危なかった。椿、感謝するぞ」

体勢を整えて再び走り出す

だが、前方に投げられていたはずのチェーンソーはまるでブーメランのように、弧を描いてまたも宗介に襲い掛かった

その軌道は確実に宗介を捉えている

「……いかん、やられる」

宗介はすぐに胸元から手榴弾を取り出し、向かってくるチェーンソーに投げ当てる

どおぉん!

チェーンソーと手榴弾がぶつかって、一閃、激しい爆発が起きた

その爆発でようやくチェーンソーの軌道がずれ、なんとかその危機を乗り越えた

そうしてようやく宗介はフェンスを越え、学校から脱出することに成功した

「うぬぅ、逃げられたか……」

大貫は悔しそうにぐぐっと拳を握り締める

「へへっ、ざまあみやがれ」

椿一成は起き上がると、体勢をたて直し、深く身構えた

「……さあて、ここからが大変だな……」

大貫は地面に突き刺さったチェーンソーを引っこ抜くと、一成に向き直る

「貴様、無事に済むと思うなよ……」

どっ どっ どるるる……

再び、チェーンソーを起動させる

その隙をついて、一成が飛び蹴りを二発顔面にくらわせた

ばきいっ!

だが、大貫はよろめきもせず、鼻をぐいっとぬぐってにやりと笑ってみせた

「……今、なにかしたか?」

「き……効かねえ…」

すると今度は大貫がチェーンソーを一成めがけて下から一気に振り上げた

が、かろうじて一成は跳躍し、寸でのところでその一撃をかわす

だが、制服の胸の部分が浅く切り裂かれてしまっていた

「……くっ」

「くっくっく。よくかわせたな。だが、いつまで避けていられるかな……?」

(くっ、こんな化け物とあと十分……。オレはもつだろうか……?)



ようやく、宗介は目的の廃屋に着いた

そこは木造の一軒家。ここの床やありとあらゆる場所に強力な罠が仕掛けられている

だが近くに公園があり、そこは幼児たちが遊び場に使っているので、この日まですべての罠には安全装置をかけてあった

今、それを解除する日がきたのだ。あのバーサーカー・大貫善治を倒すために

「急がなんとな。今ごろ椿のやつは必死で戦ってるころだろう」

がさがさと、装置をいじくり、次々に安全装置を解除していく



十分後

全ての罠を作動可能にした宗介は、廃屋の手前で椿一成が誘い出してくるのを待っていた

「……こないな。まさか、殺られたわけでは……」

救助に向かおうかどうか思案していると、公園のほうから騒がしい足音が近づいてきた

すると、公園の堀から一成が飛び出してきた。すでに服装はずたぼろで、上半身の服は破れており、ひきしまった筋肉があらわになっていた

顔の頬には浅く切られた傷が何ヶ所もあったが、致命傷にはならない程度だ

「……ずいぶんとやられたようだな」

「ああ、気を練るヒマもねえ戦いだった。やっぱあの野郎は化け物だぜ! 奴はもうすぐここに来るぞ。で、このあとどこに行きゃいいんだ?」

「俺の踏むところを重ねるようにしてついてこい。踏み外すとあっという間に罠の餌食だぞ」

「あ、ああ……」

宗介がまず廃屋に入り、続いて一成が慎重にその後をついていく

まず長い廊下を渡り、三つほど部屋を通り抜けて、その曲がり角で二人は待機した

「ここでいいのか?」

椿はその壁にもたれ、あたりを見回す

どこもかしこも木造の古い家。ぱっと見たところ、罠らしきものはない。よほど慎重に隠しているようだ

ひと息ついて、宗介が答えた

「そうだ。ここが絶好のポイントだ。ここにくるまでには必ずどれかの罠に引っかかる。そしてひとつでも罠が作動すれば、連鎖式にすべての罠が侵入者に襲い掛かる」

「おお、なんだかすげえな。で、その罠で確実に仕留められるんだな」

「肯定だ。たとえ罠に耐えたとしても、間違いなく反撃する力は残らない。ここから更に俺たちが攻撃を加えれば撃沈できるだろう」

「ふ、なるほど。これで奴も終わりってわけだ……。まったく、これでやっと恐怖から開放されるぜ」

「しっ……静かにしろ。……奴が近づいてきたぞ」

キュイイイイと、チェーンソーの刃音が聞こえてくる

二人はすぐ息を潜め、曲がり角の壁に張り付き、機をただ待つ

あとは罠が作動するまで耐えるだけだ

…………

………………

「……来ねえな?」

作動音らしき音がなにひとつしないのだ。

これには宗介もさすがに焦り始める

「バカな……。あれだけの罠だ。無事に抜けられるはずがない」

すると、キュイイインとチェーンソーの刃音が聞こえる

「……奴はやっぱりいるぜ。それも近づいてくる。……なんで罠が作動しねえんだ?」

「そんなはずはない。とっくに罠に引っかかってもいいはずだ……」

だが、チェーンソーの刃音だけが、ゆっくりと近づいてくる

「バカな……バカな……そんなハズはない……」

宗介はまだ信じられないとでも言うように何度も頭を横にふる

すると、いきなりぴたっとチェーンソーの刃音がやんだ

「……なにも聞こえなくなったぜ? 罠に引っかかったのかな?」

「いや、それなら爆発音が聞こえるはずだ。しかし、何も聞こえない」

不気味な静寂が二人をつつむ。

確実に奴は近づいてきている。だが、角から廊下をそっと覗いてみても、影も形もなかった

「どこかに……どこかにいるぞ……」

二人は壁に張り付いたまま、首だけ動かしてあたりを警戒する

だが、まったくなにも感じ取れない

くそ、一体どうなってんだ?

一成がふと横を見ると、自分のすぐ横――木造の壁から、チェーンソーの刃が突き出してきていた

「ぎゃあああぁぁああぁぁ!!」

一成と宗介は同時にその壁から離れる

キュイイイイイン

そのチェーンソーは、ゆっくりと壁を切り裂いて、大きな穴を開けると、そこから大貫善治があらわれてきた

「か……壁を突き破ってくるとは……常軌を逸している……」

「こっ、怖いいぃぃっ! 相良っ、相良っ! 早く罠をぉぉっ」

半分涙目を浮かべた椿一成が宗介にしがみつくが、宗介は首を横に振るだけだ

「……まさか壁を突き破ってくるとは予想できなかった。罠はすべて突破されてしまった」

なかば諦めたようにため息を漏らした

それを見た大貫はにやりと笑い、

「くっくっく。どうした? もう終わりかぁ?」

キュイイイイン

チェーンソーをゆっくりと頭上に振りかぶる

すると一成は覚悟を決めたように、深く構えた

「もう戦うしかねえっ」

すると大きく深呼吸し、気を練ってその気を拳に集中させる

「椿、それはまさか……」

ごごごと大気うなり、風が舞う

「くらえぇっ!」

一成は一直線に大貫に向かって走り、その気を練った拳を振り上げる

「大導脈流……究極奥義っ! 臨・死・堆・拳っ!」

その拳を目にも止まらぬ早さで大貫の胴体に放った

が、それよりさらに早く、大貫はその手首をがしっと掴んだ

「な……なにっ」

究極奥義まで止められてしまった

「くっくっく。……その技、覚えているぞ。腹にある古い傷が疼いてきた……。あの時は……よくも……」

さらに怖い顔つきになって、その握りしめている手に力を込めた

ミシ……ミシ……

その万力のような握力で、一成の手首が締めつけられていく

「ぎ……ぎゃあああぁぁ!」

その一成の悲鳴に、宗介は懐から銃を取り出して大貫に狙いを定めた

「椿っ、ふせろっ!」

ドンッ ドンッ

だが大貫は軽く首を左右に揺らし、いともかんたんにその銃弾を避けた

「くっ、だ……弾丸の軌道が読まれている……」

「なにやってる相良っ、残りも全部撃てっ」

その声に反応し、すぐさま構え直すと、大貫がその銃を蹴り飛ばした

そして隙無く宗介に寄り詰め、その首を鷲づかみして、壁に叩きつけた

「ぐあっ」

同時に一成の手首からすぐに首に掴み替え、壁に叩きつける

そのまま離さずに、力を込めていく

「ぐ……ぐああぁ」

ぎりぎりと、二人とも首が締めつけられていく。意識が朦朧としてきた

「ぐ……が……」

駄目だ、このままでは……

だが、もう力が入らない。更に容赦なく首が締めつけられる

(も……もう駄目だ……)

二人はついに観念した、その時。

急に首を締めつけるその手の力がふっと抜けた

すぐさま二人はノド元を押さえ、呼吸を取り戻す

(……一体急にどうしたというのだ?)

大貫の方を向き直ると、その男はにこにこと優しい笑顔で手を差し伸べてきた

「大丈夫かい?」

さっきとはうって変わってじつに優しい声である

「…………?」

二人は怪訝顔しながらも、とりあえず立ち上がった

すると、公園の方から聞きなれた声がぞろぞろと聞こえてきた

「あ、あそこにいたよ。相良くんたち」

常盤恭子がこっちを発見すると、どこかに向かって手招きした。

すると、その方向から千鳥かなめや小野寺など、クラスメートたちが駆けつけてきた

「おお、本当だ。いたぜ」

ぞろぞろとこっちに集まってくる

「ど……どうしたんだ? みんな」

宗介がかすれ声でそう言うと、千鳥かなめが口を開いた

「さっきのあんたたちの行動が気になってね。心配になって探しに来たのよ」

「そうそう、千鳥がすっげえ心配しててよ。それで俺たちも手伝おうってな」

小野寺が横からそう言ってやると、かなめは赤くなって

「なっ、なに言ってんのよっ。そんなんじゃないんだから!」

強く否定して、それをまたクラスメートがからかって……いつもの雰囲気だ

「……あれ? 用務員さん、いたんですか?」

かなめがそう言うと、大貫はニコニコ顔のまま

「ああ、ついさっきこの二人がいがみあってるのを見かけてね。今止めに入ったところだよ」

いつの間にかチェーンソーがどこかに隠されていた

(なるほど、そういうことか)

宗介と一成はようやく納得した

大貫善治は、みんなの前では穏やかな用務員だというわけか。

それで急に攻撃の手を緩めたということだ。

「まったく……やっぱケンカだったわけね。さ、もうお互い気が済んだでしょ? 帰るわよ」

「……ああ」

二人はよろよろとしながらも、歩き出した

すると、その二人を大貫が呼び止めた

「気をつけてね、キミたち。……また明日、学校で」

「…………」

二人が押し黙ってると、かなめがどやしつけた

「ほらほら、用務員さんが言ってるわよ。ちゃんと応えてあげなさい」

二人は、苦々しい顔で力なくつぶやいた

「ああ、また……明日……学校で」

二人はみんなに支えられながら、ゆっくりと歩き出した



あとがき

怖いですねー、大貫善治との戦い
相良宗介と椿一成が組んででも倒したい相手…やっぱ大貫さんでした
いやあ、強い! さすがは最強生物と噂されるだけはある(笑)
こういう話を書けて、アリマサとしては結構満足です

13日の金曜日とか観たらもう少し作品が変わったかもしれないけど、あの映画は観たくない




タイトルページへ