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完全武装のテーマパーク 後編


作:アリマサ

テッサは宗介と手をつないで、次のアトラクションに向かった。

ちなみに宗介はボン太くんを脱いでいる。テッサはボン太くんのままがいいと言っていたが、いくらなんでもその格好でアトラクションをまわるわけにはいかない。

次はジェットコースターだった。

このアトラクションが遊園地で一番人気があるらしい。

そのジェットコースターのキャッチフレーズは『諸君、覚悟はいいか! それでは地獄につきあってもらおう!』だった。どこかで聞いたようなフレーズだが、まあ気にしない。

二人は最前列に乗り込む。テッサはワンピースのスカートを押さえるようにして座った。

合図が鳴ると、龍をかたどったジェットコースターは、最初から勢いつけてスタートした。

そして山のてっぺんにくると、かなりのスピードをつけて、急降下。そしてさらに縦回転、横回転、斜め回転。まわるまわる……。

数分後、ジェットコースターから下りた二人は、ふらふらとよろけてしまった。

「す……すごかったですね」

「はい。……あれほどまでとは思いませんでした」

二人して、ジェットコースターの感想を漏らしていく。

そして少し歩くと、ずらりと商品を並べた店が建ち構えるショッピングエリアに入った。

「少し寄っていきましょうか」

「はい」

その二人が入った店は、ファンタジーな雰囲気が出ていた。あちこちにかわいい飾りつけや、マスコットキャラの絵がかざられている。

テッサは棚に並べられたボン太くんグッズを見て、歓喜した。

「あぁ、どれもかわいいです……」

ボン太くんマグカップ、ボン太くんキーホルダー、ボン太くんポスター、ボン太くん人形、ボン太くんクッキー、ボン太くんストラップ、ボン太くんペンシル……。

最終的に悩んで選んだのは、ボン太くんキーホルダーと、ボン太くん人形だった。

「どっちにしようかしら……」

実はけっこう貧乏なので、そんなに買えない。

天才的な頭脳を駆使しても、どっちにすべきかふんぎりがつかない。そこでテッサは、後ろで見守っていた宗介にも意見を求めた。

「サガラさんはどっちがいいと思います?」

「……では、その人形は俺からプレゼントしましょう。テッサはキーホルダーを購入なさってください」

「えっ……。でも、いいんですか?」

「大事な記念になるでしょう」

「あっ、ありがとうございます」

テッサはキーホルダーを買う。宗介は人形を購入して、その人形をテッサに手渡した。

「俺からのプレゼントです」

「はい。ぜったいに大事にします」

(こんな気回しをしてくれるとは思いませんでした)

宗介は、テッサのいつも大佐としての激務に追われている姿ばかりを見ていた。その忙しさは、大の男でも舌を巻くほどだ。

たまに休暇がとれたとしても、めったに艦を出ることはない。それが艦長の宿命だった。

それが今日は、心から楽しんでくれている。こういう機会はめったにないだろう。それは大佐殿にとって、いい思い出として残るにちがいない。それは記念品とて、同じことだ。

それが理由だった。決して下士官だからというわけではない。テッサの友人として、プレゼントをしたのだった。

「では、次はどれにしましょうか」

「はい。えーとですね。あれがいいです」

今度はウォータースライダーだった。わかりやすくいうと、急流すべり。

「では行きましょう」

二人は丸いボートのような乗り物に乗り込んだ。水の上なのに、安定感がある。

そのボートは、水に流されながら、決まりのコースをゆったりと動いていく。まわりにはヤシの木、高く伸びた草。そして機械仕掛けのゾウが『ぱおーん』と機械音を流す。

「幻想的ですね……」

「ええ。いきなりジャングルに流されるとは思いませんでした」

そしてアニマルゾーンを抜けた先には、長いトンネルが待ち受けていた。その中でボートがゆっくりと、上昇していく。やがて最頂点まで上昇すると、一気に加速して落下した。

「あっ、……きゃああぁ」

テッサが可愛らしい悲鳴をあげるかたわらで、宗介はなにか怪しげな気配を感じとった。

(なんだ? 今のは。写真を撮られたように感じた。まさか、だれかが偵察しているのか?)

たしかに落下中のトンネルの中で、そんな気配が感じとれた。

(どういうつもりだ? やはりテロが紛れ込み、客の写真を撮って資料集めとかをしているのか?)

着水。つい不安に駆られて立ち上がった宗介は、大量の水を正面からかぶってしまった。

「げほっ……」

「大丈夫ですか、サガラさん」

「ええ、大丈夫です。それより早くここを出ましょう」

口をぬぐい、テッサの腕を引っ張って出口に向かって走る。

すると、出口付近でさっき撮られた場所をバックに、俺たちが写った写真が並べられてるではないか。

(くっ、俺たちの顔写真を一般公開するとは、テロも大胆になったな)

すると、従業員が拡声器を通じて、写真を売っている。

「えー、記念写真いかがですか。一枚二百円です」

それを聞いた宗介は、しばらく黙考すると、

(……なるほど、記念写真か。どうやらテロではないようだな)

ほっとして、警戒心を解いた。

「あ、あそこ。わたしたちが写ってます。ふふ」

並べられた写真の中から自分のを見つけ出して、テッサはうれしそうに笑った。

「あれも記念に買いましょうか」

「いいんですか? ありがとうございます」

「いえ」

またひとつ、記念になるものが増えた。テッサはそれを大事そうに抱えた。



いつの間にか、夜になっていた。ここまで時間を忘れて楽しんだのは二人とも初めてだった。

「そろそろですね。次で最後にしましょうか」

「はい。わたし、最後はもう決めてるんです」

そう言って、一番奥にある巨大観覧車を指さした。

そんなわけで、最後は観覧車に入る。小さいと思っていたが、意外とスペースがあった。

観覧車はゆっくりと動いていく。まるでこの中だけ時間がゆっくりと流れているかのように。

しだいに遊園地が小さくなって、町一帯が眺められるようになる。その町は、点々とついている家の明かりで、きれいな光のイリュージョンみたいになっていた。

「きれい……」

窓から見下ろして、その景色を楽しむ。その魅力的な横顔を、宗介はぼーっと見てしまっていた。

ミスリルでは一切見せることのない、屈託のない少女の笑顔。

「サガラさん?」

テッサがこっちに気づいて振り向くと、宗介はぱっと目をそらした。

「いえ……。テッサ、今日は楽しめましたか」

「はい、とっても」

「そうですか」

「……サガラさん」

「はい?」

「わたしは、こんなに楽しかったのは久しぶりです。アトラクションもショッピングも楽しかったです。でも、一番うれしかったのは……家族連れの方たちや、カップルの方たちと同じように遊べたことなんです」

「…………」

「わたしは潜水艦の艦長だから……こういうふうに普通に遊んだりはできないと思っていました。でも、そんなわたしが今こうしてみなさんと同じように観覧車に乗って、町を見下ろしている。それが、とてもうれしいんです」

「……そうですか」

「そして一緒に楽しんでくれた、サガラさん。あなたにはとても感謝しています。よければまた、一緒に遊んでくれますか……?」

「はい、よろこんで」

「ありがとう。今日の楽しい思い出は、ずっと大事にします」

そうして、しばらく二人で夜景を眺めていた。

「もうすぐ終わりみたいですね。下りましょうか」

「はい」

一周が終わって観覧車を出ると、二人はまた手をつないで、遊園地の出口まで歩いていった。

テッサはここから離れたところにあるヘリで、戻る予定になっていたので、そこまで宗介が送ることになった。

「サガラさん、最後にお願いがあります」

「なんでしょうか」

「このままヘリまで手をつないでくれませんか」

「……はい」

二人は手を握り合ったまま、その遊園地をあとにした。



一週間後。トゥアハー・デ・ダナンの艦内にて。

相良宗介は、艦内の廊下を歩いていた。しかし、彼はSRTの制服を着ていない。

彼の格好は、ずんぐりとした二頭身。愛くるしいつぶらな瞳に蝶ネクタイ。ボン太くんだった。

宗介ボン太くんが廊下の奥へ行くと、廊下の向こうからもボン太くんが近づいてくる。

そしていつものように挨拶をかわす。

「ふもっふ」

「ふもっふ」

彼以外の兵士もみな、ボン太くんを着用していた。

事は一週間前。突然大佐殿が、艦内の兵士たちは、ボン太くんを着なければならないという条令を出したのだ。反対者もいくつか出たが、この実戦向けに改造されたぬいぐるみの性能を延々と説明され、しぶしぶと従っていた。

宗介は奥の廊下を曲がろうと、そこにさしかかったところで、だれかに呼び止められた。

「ふも?」

「ふもっふ」

それは、四角い眼鏡をかけたボン太くんだった。胸の名札には『まぢゅーかす』とテッサの手で書かれている。中に入ってるのは、マデューカス中佐だった。

「ふ……ふもっふ(なんでしょうか、マデューカス中佐)」

「ふもっふ(相良軍曹、話がある)」

「ふもっ(はっ)」

なぜかコミュニケーションが成立している。

二人は廊下の隅で、改めて話をきりだした。

「ふもふも ふもっふも(今この艦が重大な危機に直面しているのは知ってるか?)」

「ふもふも(どんなことでしょう?)」

その二人の間に、深刻な顔をした白ヒゲのボン太くんが割り込んできた。胸の名札には『かりーにん』と、テッサの字で。

「ふもっふも ふも(カリーニン少佐?)」

「ふもふも(この危機は、とても深刻だ)」

二人の会話を聞いていたのか、カリーニン少佐が付け加える。

「ふも ふぅも ふもっふ(実は大佐殿の新たな計画が始まったのだ)」

「ふもっふ ふも(新しい計画?)」

すると眼鏡をかけたボン太くんが、辛辣とした口調で告げた。

「ふぅも ふぅも ふもっふ ふも(大佐殿は、この艦の外見を新たに改装すると言い出したのだ)」

それを聞いて『さがらさん』と名札のつけられたボン太くんは首をかしげた。

「ふもっふ ふも(それになにか問題が?)」

「ふもっふ!(大ありだ!)」

眼鏡ボン太くんが怒鳴る。かわりに白ヒゲボン太くんが説明する。

「ふもっふ ふぅも ふもっふ(この艦の外見を、ボン太くんにするんだそうだ)」

「…………」

すると眼鏡をかけたボン太くんが、宗介のボン太くんの蝶ネクタイを荒々しく掴み上げた。

「ふもっふ ふも ふも ふぅ〜もっ(貴様と遊園地とやらに行ってから、大佐殿がおかしくなってしまったんだぞ。先週は突然のボン太くん着用の義務が始まり、次はこれだ!)」

「ふぅ ふぅも(申し訳ありません)」

もしこの計画が完成したら、悪い奴が暴れるたびに、大きなボン太くんに似せた潜水艦があらわれて、そこから出動するボン太くんの群れが、そこを鎮圧することになるのだ。

三人はそれを想像するだけで身震いしてしまう。

そんな三人の前を、テッサがスーツ姿で通り過ぎた。その腰にはボン太くんキーホルダーがつけられている。その足取りは軽かった。

(うふふふ。もっと、もっとファンタジーな世界をつくっちゃいますっ)

三匹のボン太くんには気づかず、小躍りして奥へ消えていく。

「ふもっふ ふもふも(相良軍曹! なんとかしろ)」

「ふも……(無理です……)」

「ふもふも ふもっふも(とにかく早くなんとかせねば)」

三匹のボン太くんは、そのテッサのうしろ姿を見送って、同時につぶやいた。

『ふもっふ……(どうしよう……)』



あとがき

どうも、ラブコメ書くのが苦手なアリマサです。
今回、あえて苦手なラブコメに挑戦してみました。
ごめんよみんな。血ぃ吐いちゃったかい?

最初はギャグなしの真剣ラブコメを書くはずだったんだけど、やっぱりギャグのような気がします。
ええ、そうですよ。この僕がラブコメです。初めてですよ、俺に手直し46回もさせた作品は。え? 全然よくなってない? ごふっ(吐血)

もうあまりラブコメは書かないと思います。

テッサのずるべたーんはナシ。まあ遊園地のラストにずるべたーんさせて、ヒザすりむいて宗介がおんぶする。というのも考えたんですが、手をつなぐほうがこの二人にとって幸せではないかなと。




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