崩れゆく理想郷

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崩れゆく理想郷 4


二人は慎重に相手を選び、上手く言いくるめて、店の裏倉庫に入ることができた

その倉庫の商品棚を通って奥にいくと、また扉があって、そこを開けると、地下への階段があった

そこを下りていくと、その先には意外と広い地下通路が広がっていた

地下から上を見上げると、いくつもの太いパイプがつながっており、端は金網で覆われている

すると、規則的な振動を感じた

壁に手をついてみると、その振動がよく伝わってくる

「近くに、地下を使うアトラクションがあるみたいだな」

「密売取引場所はどこでしょうね?」

この地下通路では、やはり商品を巨大なカートに積んで運ぶ人がいた

その通路から分岐するところに、記号で表示されており、それを判断に補充していっているようだ

「ここにも、バイトがいるみたいだな。だとすると、関係者でも一部の者しか入れない場所が、どこかにあるはずだ」

「一つ一つ探すんですか? この地下も、遊園地全体に通ってるんでしょう? 全部を把握できるかどうか……」

「聞いてみよう」

(って……その相手も、勘ですか)

宗介は、搬送作業をしている従業員の一人、若い男を選んで話しかけた

「聞きたいんだが、君はここで働いてるバイトだな?」

「え? あ、はい。そーですけど」

その男は、カートを止めて、こっちを向いた

宗介は警察手帳を見せてから、訪ねた

「地下での作業か。ここで働くときに、君らでも絶対に入ってはいけないと注意された場所があるだろう」

「え? はあ、電源室とか管理室とか、そういうのですか?」

「ああ。そういうのとか、研修かなにかで仕事を教えてもらうとき、ここには入るなといった場所とかだ」

「あ、ありますよ。場所というか、そこ一帯は一切入ってくるなと言われてまして」

「どこだ?」

「ここから北にまっすぐ行って、二つほど扉を抜けると、第七通路があるんですけど、そこからは一切立ち入りを禁止されてるんですよ」

「第七通路だな。ありがとう」

礼を言って、二人は北へと向かっていった

進んでいくと、言われたとおり、その扉には第七通路と表示されていた

鍵がかかってるわけでもなかったので、ぎいっと開けて、中に入る。

これまでの通路となんら変わりないように見えたが、搬入作業の姿が一切見かけなくなった

「……だが、人の気配はするな。用心しろよ」

第七通路は、ダンボールやコンテナが大量に積まれてて、視界状況が悪かった

いきなり出会い頭にならないよう、慎重に進んでいく

「それで、どうなんだ?」

その通路からつながる小部屋から、低い声が聞こえてきて、二人はその手前で立ち止まり、身を低くした

「はい。AK47、AKM、モスバーグM500を三丁……」

それは、よく聞く機銃名ばかりだった。

そっと扉越しに中を覗いてみると、離れたところでその機銃が並べられている

(まさか、いきなりこのタイミングに出くわすとはな)

これで、完全な銃器密売の裏が取れた。現物もあるし、その場で逮捕できる

「しかし、日本の暴力団に似合わないモノばかり仕入れてるな……」

「先輩、これって相当にヤバくないですか? もしここで見つかったら危険ですよ」

「黙ってろ。まだ、話している」

中の男は、その取引の報告をうざったく止めさせた

「バカ、そんな報告じゃない。例の新兵器は、入手できたのか?」

新兵器、だと?

「はい。こっちの言い値で通りました。隣の倉庫に保管されてます」

「そうか。あれは強力なブツだからな。ようやく開発された最先端の兵器。それを龍神会が手にしたことは大きい」

そう言って、男は低く笑った

今の会話から察するに、龍神会はどうやら、強力な兵器を仕入れてしまったらしい

最新機銃か、新型爆弾か。なににせよ、暴力団の手に渡ってしまったのは、最悪といえた

「今すぐ乗り込むか。その新兵器とやらを、隠蔽される前に」

宗介は、隠し持っていた拳銃を構えた

武器密売という物騒な捜査ということで、さらに宗介の要望もあり、銃の携帯が認められていたのだった

「なに言ってるんですか! あんな中に入っていったらやられますよ!」

「…………」

扉越しに中を観察して、状況を把握にかかる

隣の倉庫といっていたが、それは通路つながりではなく、その小部屋から直接出入りできる部屋を指しているようだ

中の小部屋にもまた別の部屋とのつながりがある。出口は目の前の扉だけではないのだ

中にいるのは、四人だけ。隣の倉庫は電気が消えており、見張りもいないようだった

そして、並べられた機銃。しかし、マガジンは装着されていない。

その部屋には、弾丸の箱も見当たらなかった

(弾の装填はされていないな。仕入れたのは機銃本体で、銃弾は別か?)

ならば、今がチャンスなのだ

「待ってください、先輩! いま、応援を呼びかけますから」

「そんなヒマはない」

すると、宗介は一気に扉を開けて、怒鳴り込んでいってしまった

「警察だ! そこを動くな!」

そのあまりに突然の怒号に、中の男たちは動転した

まさかこんな急に入り込まれるとは思わなかったらしく、誰もが丸腰だった

端に並べられた機銃を取ろうとすると、それより早く宗介がまわりこんでやる

「く、くそっ! アレだけは、なんとしても運び出せっ! あの新兵器を押収されるわけにはいかんっ!」

男たちは、その機銃を取ることを諦め、倉庫に逃げ込んだ

「ちっ!」

倉庫に逃げ込もうとする男達を追いかけようとしたが、その内の二人が足止め役として、宗介に襲い掛かってきた

その一人が、宗介めがけて殴ってくる

だが宗介は、その突き出した拳をがっしりと掴み、肩を押さえて、ひねり倒した

上から押さえて動かないようにすると、もう一人が飛び掛ってくる

そこで、空いた右足で、カウンターのような形で、みぞおちを狙って蹴り倒した

それでも、しぶとく立ち上がり、男は近くにあった金属の棒を手にする

すると、今度は千鳥が、棒を持っていた手を絡めとり、そのまま鮮やかに背負い投げで地面に叩きつけた

「よし、いいぞ」

二人を拘束し、そこに寝かせた。あとは、応援でここに駆けつけた刑事が連れて行くだろう

早く、倉庫に逃げ込んだ残り二人も捕まえなければならない

がちゃりと、倉庫に通じる扉を開けると、奥のほうで、二人を発見した

だがそのうちの一人は、もう一人によって、ぬいぐるみを着せられているところだった

そのぬいぐるみとは、ふもっふランドのマスコットキャラ、ボン太くんだった

「くそ、見られた!」

「兄貴ぃ。マズイっすよ!」

「いいから、行け! 向こうの扉からなら出られる! いいか、この新兵器だけは取られちゃならねえんだぞ!」

兄貴分の男は、ボン太くんの頭をかぶせ、もうひとつの出口に促した

(なるほどな。ボン太くんに扮装させ、地上に逃げようってわけか。あの格好なら一般客にも怪しまれず、あのスーツの中に新兵器を隠して運搬できるってわけだ)

「だが、逃がさん」

宗介は、背中を見せて必死に扉に逃げていくボン太くんに、銃を向けた

「先輩、ダメですっ! 警察官は、犯人を背中から撃ってはいけないんですよっ!」

だが、それでも宗介は、ためらうことなく引き金を引いた

地下だけに、ガァーンと銃声が響く

しかし、撃たれたはずのボン太くんは、平然と逃走を続け、そのまま扉の向こうへと突破してしまった

「……なに?」

間違いなく、ヤツの足に当たったはずだ。

それなのに、まるでヤツは、当たったことにすら気づかないかのように、走っていってしまった

(どういうことだ?)

いや、それどころではない。

このままでは、ヤツは地上に逃げられてしまう

「追うぞっ!」

「はいっ!」

兄貴分の男は、すでに千鳥によって倒され、拘束されていた

扉の向こうを抜けると、さっきの第七通路に出て、ボン太くんはそこから地上への階段に向かっていた

「くそ、地上に出られてしまうか。いいか千鳥。地上では、銃は使うな」

それは、一般客のパニックを危惧してのことだった

また、撃ち合いになってしまえば、流れ弾が一般客を巻き込んでしまう危険もある

二人は急いで地上への階段を駆け上り、ボン太くんの姿を探す

そのボン太くんは、アトラクションエリアへと走っていた

やはり、一見しただけでは、ただボン太くんが走っているというだけにしか映らない

これは不幸中の幸いと言えた

「逃がすかっ」

二人もその後を追って、走っていく

すると、ボン太くんが、こっちがまだ追っていることに気づいて、前のメリーゴーラウンドを中央を強引に抜いて、向こうへと走っていった

こっちも、最短距離である中央を駆け抜けて、向こうへと飛び出す

その先は、子供用のサーキットエリアがあった

ボン太くんは、そのままサーキットエリアを囲む金網を強引に乗り越え、レースコースの上を走った

宗介も同じように金網を乗り越え、千鳥は外側を回って追いかける形となった

くそっ。あんなに短い足して、器用に走りやがる

ボン太くんは腕も足も短く太く、走りにくそうに見えるのだが、中の男はそれでも宗介たちから上手く逃げ回っているのだ

元々、あの男も足が短いのか。それとも独特の走法を編み出したか



子供が運転するレースマシンの合間を縫って、一直線に反対側の金網に向かっていく

その先は、人気アトラクションが集約してるせいか、人ごみが多かった

あそこまで逃げ切られたら、追跡が一気に困難になってしまう

すると、ボン太くんはすでに金網に手をかけて、向こう側に出ようと、昇り始めた

そこで宗介は、空いていたレースマシンを操作して、勝手にアクセルをかけた

方向を調整して、無人のレースマシンを金網に向けて、アクセル全開で突っ込ませる

その衝撃で、金網は折れはしなかったが、激しく揺さぶらせて、金網に手をかけていたボン太くんが落下し、転倒した

すぐに宗介も金網をよじ登り、向こう側に飛び降りる

大きめに跳躍したので、ボン太くんよりも向こう側に着地して、進路を阻む形ができた

「もう逃がさんぞ」

「ふもっふぅ〜」

ふもっふ?

なにを言ってるんだ、この男は

わけのわからない奇声を発したボン太くんは、ヤケになったのか、宗介に飛び掛った

だが、宗介は内懐に潜り込み、ボン太くんの腕を掴み、足をすくい、投げ飛ばそうとした

「うっ」

しかし、掴んでいた腕は、予想よりもずっと短く太く、もこもこしていて、固定しづらかった

体勢は完全に背負い投げになっていたのに、寸でのところで掴んでいた腕がすっぽ抜けて、宗介一人が前のめりに転倒してしまった

「くそっ。なんて短い腕だ!」

すぐに立ち上がったが、技から逃げれたボン太くんは、サーキットエリアの向こう、人通りの多い場所に向かっていた

「畜生!」

もう一息だったのに、捕まえそこねた。しかも人が多い場所に逃げ込まれた

「先輩!」

外側を走ってきた千鳥が、ようやく追いついて、ボン太くんの姿を探す

「あっちだ!」

方向は分かっている



二人が駆け出すと、その前で、最悪の状況が待ち受けていた

「ふもっふ」

ボン太くんが、客の一人の女子供を抱きかかえていたのだ

女子供の首に腕をまわし、固定している

その子供は抱いてもらってると思っているのか、無邪気に喜んでいた

しかし、その体勢は、相手の言葉を聞かずとも、『それ以上近づいたら、この子の首をへし折る』と言っていた

人質をとられたのだ

(これって……)

千鳥はその状況に、青ざめた

よりによって、人質が子供なんて……

昨日のことが鮮明によみがえってくる

子供相手に、容赦なく壁に叩き付けた相良先輩。

子供嫌いの先輩相手に、子供の人質では、逆に先輩は人質の優先を無視し、突っかかっていってしまう

あの人質の子が危ない……

だが、宗介は動かなかった

「……分かった。ここから動かん」

宗介は、ボン太くんの要求どおり、足を止めた

もちろん千鳥も同じように、動かない

それを見て、ボン太くんはじりじりと子供を抱えたまま後退し、離れていく

すると、そのボン太くんは、アトラクション施設横にあった小さい倉庫のような建物の、『関係者以外立入禁止』の扉に手をかけた

それを後ろ手で開けると、下に続く階段が見えた

(また、地下に逃げるつもりか)

すると、ボン太くんが距離を取れたことで役目を終えたのか、抱えていた子供を、どんと突き放し、階段に向かって走り出した

突き飛ばされた子供は、地面に伏して、その痛みに泣き出す

「千鳥は子供を頼む! その後、園内の応援を引き連れて、後に続いてくれ!」

「はい!」

千鳥はその女子供に駆け寄って、介抱にかかり、宗介は一人、また地下への階段を下りていった

子供は幸い、浅い擦り傷だけだった

その子をなぐさめながら、千鳥は頭の中で、また一つ修正した

(そっか。先輩は子供が嫌いなんじゃなくて、犯罪を犯したことが許せないだけなんだ)

結局は、いつもの犯罪を憎む宗介に行き着くだけだった



地下を下りた宗介は、逃げていくボン太くんの姿を捉えた

この地下は、遊園地全体に広がっている

どこからでも出られて、逃げるのに優位というわけか

しかし、地下ならこっちも銃が使える

宗介は再び、腰元から銃を構えた

ボン太くんは、その地下通路から、小部屋に逃げ込んだ

宗介もその部屋に入って、追いかけていく

そこはまた一層、コンテナの積まれた視界の悪い場所だった

配置も無造作で、まるで迷路のような通路になっている

ボン太くんはそこを必死に曲がり、くぐって、抜け出ようとしていた

「これで、どうだ!」

宗介は銃を、コンテナとコンテナの間を留めて固定する金具めがけて、撃ち抜く

すると、金具がひしゃ曲がって、上に積まれていたコンテナが傾き、その山がボン太くんに向かって、崩れていった

「ふ、ふも〜っ」

またも妙な奇声を上げて、そのボン太くんはコンテナの山に埋もれ、動けなくなった

「やっと、捕まえたぞ」

そこからもっと抵抗するかと思ったが、どうやら中の男は、今ので気絶したらしかった

「おい、なんだ? なんか凄い音がしたぞ?」

急に、その小部屋の端の方から声がして、宗介は身を屈み、コンテナの隙間からその声のほうを覗き込んだ

すると、向こうには暴力団の風体の、荒れた男達が物騒な機銃を手に、煙草を吸っていた

まさか、龍神会の溜まり場のひとつか?

宗介は、ボン太くんに入っていた気絶している男を見た

もしやこいつは、やみくもにここに逃げたわけではなく、仲間の下に誘い込んだのか?

(やられた)

「おい、見てこいや」

その指示で、二人の男が銃を手に、こっちに向かってきた

まずい。あんな人数と武器では、対抗できない

男達との距離が、縮まっていく

どうする……

焦る宗介の目には、横に倒れていたボン太くんがあった



「誰だぁ?」

銃を手に、崩れたコンテナ辺りを男たちが捜索する

「ふ、ふもっふ〜(いや、別に)」

(なんだこれは? 俺の言葉が勝手に変換される?)

「ああ、なんだ。どうやら新兵器の取引はうまくいったみてえだな」

やはり、中身は仲間と思ってくれたようだ

そのボン太くんの中は、宗介だった

今のこの状況を切り抜けるには、これで誤魔化すしかないと思ったのだ

(なんとか仲間のフリをして、隙をみて抜け出し、警察に位置を知らせて一緒に突入するのがベストだな)

「おい、男が倒れてるぞ! こいつ、龍神会のモンだぞ!」

しかし一人が、隠しておいたはずの、気絶した男を発見してしまった

(くそっ、巧妙に隠す時間がなかった)

「じゃあ、てめえは誰だぁ!」

当然ながら、ボン太くんの中身を疑われてしまった

仕方ない

宗介は横にいた男を、コンテナに突き飛ばした

「てめっ!」

それを見て、銃を構えた男に向かって、走り出す

一気に詰められることに焦ったのか、男の放った一発目は横にそれて、外れた

「ふもうっ」

宗介はタックルのように、体ごと男に突っ込んで、押し倒した

「なにしてんだ、てめえ!」

溜まり場でくつろいでいた男たちが、この騒ぎで事態に気づいてしまったようだ

それぞれが銃を構えて、こっちを取り囲んできた

なんとか、この場から逃げなければ

だが、それを阻むように、男たちは素早く出口を押さえてしまった

これでは、逃げ場がない

「誰だか知らんが、ここに潜り込んで無事に帰れると思うなよ」

完全に、宗介は銃を持った男たちに囲まれてしまった

さすがの宗介も、この状況を打開する策は思いつかない

畜生、ここまでか

「やれっ!」

それぞれの銃が、宗介に向かって、一斉に火を噴いた

「ふもぉ〜っ」

だが、ボン太くんの悲鳴がこだまするも、痛みはなかなかやってこなかった

「ふも?」

目を開けてみると、どうやら俺はまだ生きているらしい

俺は、撃たれたのではないのか?

すると、驚いたことに、すべての銃弾が、ボン太くんのもこもこした毛に絡められて、止まっていた

ボン太くんの繊維が、銃弾を受け止めたのだ

「ふもぅっ?(なんだこれは)」

こんなことがあるのだろうか?

数百発もの銃弾がすべて、ボン太くんのスーツの前に、通用しなかったのだ

それを見て、男たちが怒鳴りだした

「おいっ! あいつが着てんのは俺たちの新兵器じゃねえか! 奪われちまってるぞ!」

……新兵器?

もしやこいつらの言う新兵器とは、銃器類ではなく、このボン太くんスーツのことなのか?

そういえば、気絶した中の男を出すとき、スーツの中にはなんの武器も入ってなかった

てっきり、このスーツの中に新兵器という武器を入れて運搬していると思っていたが、どうやらこのスーツそのものを持ち出したかったらしい

そして新兵器とは、さっき証明されたように、強力な防弾繊維を兼ね備えたボン太くんスーツなのだ

拳銃やマシンガン類の攻撃をすべて無力化し、それでいて外見はただのぬいぐるみスーツにしか見えない。カモフラージュも完璧というわけだ

これなら堂々と運び出せるし、警察の銃が通用しなくなれば、その脅威は計り知れない

ただ、さっきの取引での会話からすると、まだ量産段階ではないようだ

ここでこの新兵器を警察に押収し、研究すれば、対抗できる

それは龍神会にとって、まずいことになる

「なんとかヤツを、中から引きずりだせっ!」

だが、このスーツには、銃は通用しないのだ

そこで男たちは、俺を脱がせようと、素手で襲ってくる

しかし、体術は俺が上で、そいつらをかわし、いなして、殴り倒した

「こ、こいつ……」

男たちの繰り出すパンチや蹴りをかわしつつ、一人ずつ殴り、蹴って、男たちの数を少しずつ減らしていった

宗介はすでにボン太くんの動かし方を身につけて、低い体勢から男のアゴを跳ね上げたり、跳躍してかわし、攻撃して気絶させていく

「ええい、たった一人になにやってんだ! 多人数で一気にいけっ!」

男たちが、急に距離をとって、五人くらいで飛び掛るタイミングを狙ってきた

「ふも……」

さすがに、この人数で一気に攻められては、やられそうだ

じりじりと、宗介も後退する

しかし、逃げ場はなさそうだった

その時、急に背後から、十人ほどの屈強な男たちがなだれこんできた

「そこまでだ! 武器所持の現行犯で逮捕する!」

それは、千鳥が応援を連れてきた、他の刑事たちだった

場所の特定と、密売の確認で、外部からも応援を要請できたのだ

男たちは抵抗したが、刑事達に一気に取り押さえられ、手錠をかけられた

これで、遊園地地下の武器密売は押さえられたのだ

宗介は、応援を引き連れてきた千鳥の元に駆けつけた

「ふもっふ、ふも(よくやったぞ、千鳥)」

だが、千鳥は宗介の姿を見て、きっと睨んだ

「まだ、ここにもいたぁっ!」

「え……」

すると、千鳥は宗介の腕を取り、足を払ってきた

(しまった。言葉がボン太くん語に変換されて、中身が俺だと気づいてない)

だが、もう遅かった

宗介の時と違って、千鳥はうまくその短いボン太くんの腕を絡めて、逃がさなかった

ボン太くんの体が宙を舞い、視界が反転する

「ふもっ!(ぐえっ)」

その床に叩きつけられた衝撃で、ボン太くんの頭が取れて、宗介の顔がむきだしになった

「……お見事」

「えっ? せ、先輩っ? だ、大丈夫ですかっ?」

中身が宗介だと気づいた千鳥がしきりに謝ってきたが、すぐに返事はできなかったのだった



証拠現場を押さえ、警察は鑑識をしていく

当然、そのボン太くんスーツも警察の手に渡ることとなった

「ボン太くん、か。まあ悪くないな」

奇怪な生態から、愛嬌のある生き物に見えるようになったのも、まあひとつの進歩といえた

あとは刑事課に任せることになり、これで宗介たちの潜入捜査は終了したのだ

すると千鳥は、へたっと地面に座りこんだ

「さすがに、今日は疲れました……」

その横に、宗介も座り込んだ

「俺もだ。今日は朝から歩き回り、そのあげく犯人をずっと走って追い掛け回したからな」

動きっぱなしで、疲労がかなりたまっていた



「……それじゃ、行こうか」

宗介が促すと、千鳥も帰ろうと、立ち上がる

「あれ? 先輩、出口は向こうですよ?」

入り口ゲートに向かうと思いきや、反対方向に向かうのを見て、呼び止めた

「さっき聞いたんだが、午後八時に中央広場で花火が上がるそうだぞ」

「え……?」

「それを見ていくのが、この遊園地の通らしい」

「見てもいいんですか?」

「任務は終わったんだ。せっかく来たんだしな」

「でも、まだ花火が上がるまで一時間以上ありますよ」

「それまで、アトラクションでも行くか」

千鳥は笑って、宗介のもとに駆け寄った

「じゃあ、メリーゴーランド行きましょうよ」

「あれか……」

そこで苦々しい表情になって、それを千鳥が笑って、からかった



赤いサイレンを背後に、二人は手をつないで、遊園地の中に溶け込んでいった




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