静寂の裏で

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静寂の裏で 2


アメリカ ミスリル本部

テッサが出張から戻ってきたのは、翌日の午前になってからだった

彼女も事前に相良に降りかかった事情を聞いていたらしく、帰還してくるなりロビー端にいた車椅子の宗介の元に駆け寄ってきた

そして一言目に「脚が動かなくなったのですか?」と聞こうとしたのだが、彼の姿を見て、その言葉をひっこめた

「……普通に動かせてるじゃないですか」

テッサが近づいた瞬間に、宗介は何事もなく立ち上がり、車椅子を折りたたんでいた

「これを返却しておこうと思ってな」

「はあ。あのー……もう問題は解決したんですか?」

「ああ。もう大丈夫だ」

傍にいたクルツが、代わりに答えてきた

「そうですか……それならいいんですが」

しかし、解決した割には、宗介の顔が不機嫌に歪んでいた

そこを問おうかとも思ったが、触れられそうな雰囲気でもない

ひとまず、彼の脚が動いているということに安堵するだけに留めておいた



午後になって、彼らは日常通りの残務処理にかかっていた

宗介は、この日情報部の部屋に入り、そこで事件リストを眺めていた

情報部には、ありとあらゆる事件に関する情報が集まってくる

ブラックリストに載っている最重要人物に関連があると思われる事件リスト。例えばガウルンの密売情報、アマルガム絡みの暗殺事件、催眠を利用したと思われる事件。

しかし今回、宗介が眺めているのはそのリストではなかった

彼が見ていたのは、地上の事件リストである

まず、ミスリルは世界規模の事件を優先的に介入していく

だが、それ以外の、規模の小さな事件の情報を疎かにするわけにはいかない

どれだけ小さな事件でも、それが後に規模の大きな事件に発展したり、原因になったりするからである

それを一つ一つ見分けていく必要がある。それが情報部の仕事なのだが、宗介は月に一回程度で、一緒にそのリストを拝借させてもらっている

小規模の事件には基本的に関われないとはいえ、気にはなってしまうのだ

彼は日本に限定して、今日もそのリストを一つ一つ眺めていた

殺人事件、事故、少年犯罪、麻薬密売、拉致監禁、闇金。

これらが一日とて起きない日はない

日本警察の検挙率は世界的にも見て高い方だが、犯罪の数はそれでも一向に減りはしない

その現実にうんざりしながらも、リストの半分を消化したときだった

ぴたりと、リストをめくる手が止まった

その手に、思わず力がこもる

「まさか……」

そう口出さずにはいられなかった

その事件の犯人が、ついに逮捕された

現在は、地元警察で取調べ中だという

世間はひとつの事件として気に求めないであろう。だがそれは、彼にとってとても重要なものだった

<女子高生刺殺事件>
被害者:佐伯恵那
被疑者:武田哲郎(逮捕)

六月十二日午前九時六分、被疑者宅にて確保
同日より東京都泉川署にて取り調べ中

宗介の目に止まったのは、もちろん被害者の名前だった

佐伯恵那

巡査時代、泉川署に勤めていたときに、事件として関わりを持ち、以後親しい関係を築いていた

しかし、彼女はその後、惨殺遺体となってしまった

忘れていない。忘れるわけがない

あの後、宗介も刑事となり、警視庁に勤めていても、少しずつこの事件について調べていた

しかし、まったく進展をみせず、犯人の目星もつかなかったのだ

ミスリルに異動してからは、他の刑事に任せていたが

それがついに、犯人が捕まった。いや、やっと捕まったというべきか

この日まで、ずっと捕まっていなかったのか、こいつは

そしてこいつが、佐伯恵那を殺した

「…………」

ここにあるリストにも詳細は書かれているが、それだけでは完全な要領は得られない

居てもたってもいられず、彼は立ち上がり、その足でそのままテッサの元へ向かっていった



「地上へ行かせてほしい?」

地上とは、ミスリル以外の表世界での警察のことだ

「ああ。頼む」

今は、まだなんの任務も与えられていない

そこを強調して頼み込んだ

「……ここに入るときに説明しましたよね? わたしたちは、小規模の事件を犠牲にしてでも、世界規模の事件を優先的に追うと」

「分かっている。だが、頼む」

ふう、とテッサはため息をついて、宗介の持っていたリストに目を落とした

その事件のことは一応テッサも仕事上知ってはいたが、特に気にしてはいなかった

アマルガムやガウルンといったブラックリスト犯罪者の関連性は薄いと思われている

しかし、実は気になる部分がほんのわずかだが、引っかかっていたものがあった

それは、事件の経緯である

犯行があまりにも突飛なのだ

リストの詳細では、事件の経緯はこうなっている

被害者の佐伯恵那は、最寄の警察署に顔を出してから帰宅している

これは平日に見られる行為であり、特別性はないものとみる

事件当日、この日も最寄の警察署に寄って帰宅。

事件時間の二十二時十二分。

佐伯氏の同居中の母親は勤務地に居たことは確認

佐伯氏、刺殺遺体で発見。通報者、同マンションの管理人。

被疑者による侵入の形跡有り。凶器は同部屋の包丁を使用

ここまでは、他の事件となんら変わらない

だがテッサが引っかかったのは、犯行の動機だった

関連性のあるものは、その前日に届いた脅迫まがいの手紙である

内容は、まず典型的なストーカー型

被疑者の家宅捜査により、同類の手紙を発見。筆跡で同一人物と断定

ところが、この手紙は被害者宅に届いていたのはまだ一通目である

ずいぶんと、犯行に及ぶ期間が急激に感じられるのだ

ストーカー事件の共通するものは、いずれも長期化していることなのだ

執着、陰険、間接。これらのキーワードからしても、必然的に長期の事件となるのである

だが、この事件に関してはそれが見られない

そこに不自然さを感じるのだった

「……本来なら、ミスリルに所属するあなたたちを守るという理由からも、地上事件には関わらせないことになっているのですが……」

宗介は、そんなテッサを懇願するように、じっと見つめ続けている

テッサは、それに根負けした

「いいでしょう。ただし、わたしも同行します」

「……テッサも?」

「ええ。地上にあなたが出てきた場合、いろいろと面倒事が起きるでしょうからね。わたしがそれに即対処できるよう、同行します」

「……ありがたい。それと迷惑ついでに、もう一人同行させたい」

「構いませんよ」



日本 泉川署本部

「まさか、またここに来るとは思いませんでしたね」

降り立って、そう漏らしたのは千鳥だった

彼女もまた、佐伯とは私情が絡んでいる。その事件が浮き彫りになったことを告げると、やはり彼女も同行したいと言ってきた

そうして、ここに宗介とテッサ、千鳥がやってきたのだった

ちなみにクルツには、一切このことを黙っていた

まだ、彼には佐伯が殺されたことすら告げていない

言う機会は幾度かあったのだが、言い出すことができなかったのだ

明らかに佐伯恵那はクルツに対して好感を持っており、クルツも少なからずそうだったはずだからだ

泉川署本部の外観は変わっていなかった

入り口の受付を、前もって上に連絡を通しておいたおかげですんなりと通り抜ける

そのまま、刑事課のある階へと上っていき、そこのフロアに入っていった

すると、刑事課にはまだ見知った人がいくつか居て、宗介と千鳥の顔を見るなり、幽霊でも見るかのような眼で唖然とする

「お前、行方不明になってたんじゃ……」

事情を知らない刑事たちが、驚くのも無理はないだろう

ミスリルの権力で行方不明扱いされていた宗介たちが、平然とここに現れてきたのだから

あまり絡むと厄介になるので、手で挨拶をかわす程度に済ませ、取調室に直行した

その中にいたのは、二人の刑事と、一人の青年

宗介は、青年のほうを睨みつけた

こいつが、佐伯恵那を殺した犯人、武田哲郎!

短髪でメガネをかけた、一見暗そうな青年だった

頬のくぼみ具合、ほりの深い目。こんな男に佐伯は殺されたのか

「おい、なに勝手に入ってきてんだよ」

まだこっちには上からの連絡がいってないらしく、一人の刑事が憤った

「交代だ。そいつの取調べは俺がやる」

「あぁ? 寝ぼけてんのか。いきなり現れて、いきなりかっさらう気か」

「ふざけんな。これはこっちのシマだ」

二人の刑事は怒気を隠しもせず、入ってきた三人を睨んでくる

「いえ、許可は取ってあります。あまりここで事を荒立たせると、後々あなたたちにとってよくありませんよ」

と、にっこりとテッサが微笑む

それが返って二人の刑事の怒りを煽らせた

「おうおう、じゃあ上に確認してやらあ。嘘だったらそん時ぁ覚悟しろよ」

一人が残り、年配の刑事が出て行って、上に連絡を取りに行くことになったらしい

それを待っている間、千鳥と宗介は武田という青年を睨みつけていたが、彼はその視線にも気づくことなく、疲れきったせいか、ぬけがらのようにただ俯いているだけだった

十分ほどして、上に連絡を取りに行った年配刑事が戻ってきた。その顔が、すっかり消沈している

「どうでした?」

青年が聞くと、年配刑事は詳細を述べずに、くいっと手招きする。その動作に覇気がなかった

「……いくぞ。交代だ」

「え?」

年配刑事は青い顔をしたまま、もう一人の刑事の腕を引っ張って、取調室を出て行った

「さて……」

宗介は向かいの椅子に腰掛ける。テッサと千鳥は後ろで立っていた

「事件のこと、全部話してもらおうか」

そう聞くと、彼はぼそりと小さくつぶやいた

「だから……言ってるだろ。ぼくじゃない」

机の上には、彼が犯人だと断定する証拠がいくつも並べられていた

それでも、彼は犯行を否定した

「今更、言い逃れられると思うのか。俺はこれでも、かなり自分を抑えてるんだ。真実を知りたいからな。でなきゃ、俺はとっくに貴様の顔を切り刻んでる」

千鳥でも驚くほどの、すごく低く、冷たい声だった

こうして目の前にして、胸の内からどす黒い殺意のようなものがうずまいている

なぜこんな男のために、佐伯恵那は殺されなければならなかった

「お前は、佐伯恵那に対してストーカー行為をしていたんだろう?」

「……そうです」

そこについては、なぜかあっさりと認めた

「被害者宅に、脅迫まがいの手紙が一通あった。あれを出したのもお前だな」

「脅迫だなんて……。ぼくはずっと見ているよってことを教えただけですよ」

「被害者にとっちゃ、それだけで十分だ」

武田はまたも視線を下に落とした

「一通目を出したのはいつだ」

「…………です」

やはり、事件のあった前日の夜だった

「本当に、それが一通目なんだな」

「……本当です」

この推理は、当時の通りだった

しかし、それでは腑に落ちないところがある

「細かく話せ。事件のことを」

「…………」

それで数秒沈黙したが、やがてぼそりと語り始めた

「……ぼくは書店のバイトをやってました。彼女はその書店の客として、よく来ていました。そして、ぼくは彼女に一目ぼれしたのです」

武田は、ある日、仕事の終わりにたまたま佐伯が書店の前を通りかかるのを見つけた

声をかけることはできなかった。武田はそんなことができる度胸はまったくない

「そこで、ぼくは後を尾けてみたいと思いました。ただ、これからどこへ行くのか知りたかったんです」

だいぶ歩くだろうと思っていたが、意外と目的地は近かった

そこは、佐伯恵那の自宅だった

そして武田は嬉しくなった。好きになった娘の家を知ることができたのだから

家の場所を知ることができてしまった。すると、どういうわけか他のことももっともっと知りたくなってくる

そこで時折ここへ朝早く来ては、彼女の朝の登校を影から覗いたり、ゴミ出しするのを待って、誰もいなくなったのを確認してからそれを持ち帰り、そこから伺える彼女に関する様々な情報を引き出していった

そうしていくたびに、ぼくは彼女の理解者だと思うようになっていった

親や友人なんかより、ぼくは彼女のことをよく知っているんだ

彼女の傍にいるべきなのは、ぼくだけなのだ

それはまさにストーカー心理だった

しかし、武田はそんなことを犯罪とは思わなかった。むしろ、彼女のためになっていると思っていた

彼女に対する欲望は日々増していく

そして、ぼくのことをちゃんと認識させようと、手紙を書いた

ぼくがいつも貴方を見守っている。ぼくは貴方のために尽くしているといった旨だ

彼女の生活パターンは把握していた

親は仕事で帰りがいつも遅い

佐伯恵那が外出しているときを見計らい、針金でドアを開け、中に忍び込んだ

彼女の部屋に入ったときは、感動で全身が震えた

手紙を机の上に置き、筆箱を重石にした

しかし、ここまで入っておいて、すぐ帰ろうなどとは思わなかった

彼女の部屋の中を詮索し、彼女のベッドの上に乗って、横たわり、匂いを嗅ぐ

そんなストーカー行為を小一時間ほどしておいて、部屋を出て行こうとした

あまり長居して、警察に厄介になってはもとのもくあみだ

そして部屋を出て行ったとき、電柱の影に、一人の青年が身を潜めていた

武田は警戒した

もしかして、彼女の部屋を出るところを目撃された?

もしこれが事件として発覚すれば、彼の証言は大きな痛手となる

しかし、この状況を打破する方法を彼は思いつかなかった

ただ、うろたえるだけである

しかし、青年は警察に電話するでもなく、ただ黙って武田に近づいてきた

それは、銀色の髪をした青年だった。印象的なのは、銀色の瞳だ

「――銀色の髪に、銀色の瞳だと?」

聞いていた宗介とテッサ、そして千鳥が顔をこわばらせた

武田はそれに気づくでもなく、なにかに怯えるようにして頭を抱え込む

「彼と目が合ったとたん、ぼくの記憶がないんだ。気が付いたら……ぼくは包丁を持っていて……ああっ」

「…………」

意外な人物の登場に、宗介たちは言葉を失った

まさか、その銀色の青年というのは……

テッサが、ずずいと身を乗り出した

「記憶を失う寸前のことを話してください」

「……彼は、とても無機質に笑って、こう言ってきたんだ。『貴方は腹の底に欲望を溜め込んでいるね。ぼくが、それを解放してあげよう。貴方は欲望のままに、行動せずにはいられない……』妙な気分でした。急に眠気が襲ってきて、あいつの声だけが響いてきて……もうそこから記憶がないんです……」

衝撃的発言だった

テッサが、念のためにとレナード・テスタロッサの写真を見せて、確認させる

「もうちょっと若い感じだったけど、この人ですよ。間違いないです」

これで確定した。まさか、こんなところでレナード絡みが発覚するとは

「……事件を起こした時の記憶はないのか?」

「ええ、まったくないんです」

間違いなく、こいつは操られたのだ。しかも、宗介のときと違ってそのときの記憶がない

操作時に意識があるかどうかを催眠で選り分けられることもできるということだろうか

いや、それよりも

こいつは操られた。宗介と同じように、催眠術で操られ、人を殺めた

動機が分からないわけだ

ストーカー一日目にして、第三者による催眠術によって、これから長期間かけて行うはずの欲望を、一気に爆発させられ、行動させられたのだ

レナード・テスタロッサという最悪の第三者の手によって

気が付くと、宗介は椅子から立ち上がり、よろよろと後退していた

顔からは血の気が失せて、息が荒くなっていた

それを気にかけてテッサと千鳥が支えてきたが、彼は力ない声でテッサに問いた

「こいつを……裁くのか?」

「……なぜ、そんなことを聞くんです?」

逆に聞かれ、宗介は一度、目を伏せた

「こいつが裁かれるなら……俺も裁かれなければならん。俺とあいつは……同じだ」

「いいえ、違います」

テッサが、厳しい口調ではっきりと言った

「相良さんと武田被疑者はまったく違います。相良さんは子供ながらに親を殺せという強制催眠で操られました。ですが、この人の掛けられた催眠は、おそらくこうです。『秘められた欲望を、最大限に発現させる』つまり、彼の場合、もともとあった欲望を催眠によって一気に増幅され、背中を後押しされたに過ぎません。放っておけば、いつかその欲望に、結局飲み込まれていたでしょう。根本的に、相良さんとは違います。彼は、催眠抜きにしても、ちゃんと裁かれるべき罪人なのです」

「…………」

「ソースケ……」

千鳥が、辛そうに顔を伏せる宗介に、優しく声をかけた

そしてテッサは、強い口調でこう言った

「レナード絡みとあっては、この事件放っておけません。彼はミスリルが引き取り、それなりの処罰を与えることになるでしょう。後はわたしが引き受けますから、千鳥さんたちはもう帰ったほうがいいでしょう」

佐伯恵那の事件がこんな形で幕を閉じることになるとは

それが歯痒いが、どうすることもできない

千鳥はその言葉に甘えて、宗介を連れて、そこを離れていったのだった



アマルガム本部 詳細位置不明

「どこへ行っていた」

飛鷲が、ようやく帰ってきたガウルンに怒鳴る

「うるせえな。出かける度に、いちいちアンタに報告する義務でもあんのかい」

「勝手に出歩かれるとこっちが迷惑なんだ。ここの場所が他に漏れるといろいろと厄介事が舞い込んでくる」

「知らねえな。俺はかくれんぼはやってないんでね」

「貴様……」

「おかえり、ミスター・ガウルン」

レナードが二人のもとにやってきて、まずガウルンを出迎えた

「ククッ、お前の主人は、優しく出迎えてくれるじゃねえか」

「…………」

じろりと飛鷲が睨むが、ガウルンはそれを平然と受け流す

「どこに行っていたのか、聞いてもいい?」

「取引だ。もうすぐ、俺の計画が実現しそうなんでな。最近は特に忙しい。悪いが、お前に構う暇はあまりねえ」

「そのまま忙しくなって帰ってこなきゃいい」

「飛鷲」

レナードがたしなめると、飛鷲は眉を引きつらせながらも、口をつぐんだ

「その計画は、順調?」

「もうすぐ、どでかい取引がある。そいつが成功すりゃあ、計画が進められる」

「成功を祈るよ」

と、レナードはにっこり微笑む

それを一瞥して、ガウルンは鼻を鳴らした

「それにしても、ずいぶんと俺に熱を上げてるんだな。ここまで俺にご執着な奴ぁ初めてだぜ」

「思い上がるな。レナード様が、貴様ごときに熱を上げるわけが……」

「飛鷲。向こうへ行ってて」

ぴしゃりと遮られて、飛鷲は渋々下がっていった

「クックック。あいつも形無しだな。それにしても、お前は俺とどうなりたいんだ? 結ばれてえのかい?」

下卑た笑いを上げて、口端を吊り上げた

「それは遠慮するよ。ぼくだって、その気があるわけじゃない。肉体関係を持つ気はないけれど……それとはまた別に、なんというのかな。貴方とは肉体ではなく、精神を共有したいと願っているのかもしれない」

「精神の共有?」

「貴方はいつか、ぼくの理解者になってもらえると思ってるかもしれない。なんというか、初めて対等な立場で、向かい合える人物に出会えたというのかな」

「嬉しいラブコールだが、生憎と俺の相手は決まっててな」

と、ガウルンは肩をすくめてみせた

「……それは誰か、聞いていいかな」

「カシム、だ」

「カシム……?」

今のところ、レナードはその名前を聞いたことがない

そして同時に、その名前がひどく気になってしまった

「じゃあ、俺は行くぜ」

ガウルンはすたすたと大股で歩き出していった

「カシム……」

レナードはその名前を忘れないよう繰り返しつぶやいて、その後近くにいた部下を呼びつけ、そいつについて調べるよう、命じたのだった




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